ゆりママのヒミツ

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治療の経過【2】



【1】のように半月近くは病院に通うので、その費用もバカにならない。1日に約3千円余、月にして約4~5万円の出費になる。
私達夫婦にとってこの高額な治療のなおやるせない事とは、いつこの治療が実を結ぶかがわからない点、そしてたび重ねることで効果が上がる性質のものではないという点である。
つまり、1ヶ月の治療が不調に終わった時点で翌月の治療はまた0からであるということだ。「出口の見えないトンネル」に入り込み、いつこの「トンネル」を出ることができるかわからない上に、ひと月毎に入り口に引き戻されるという感じなのである。

1ヶ月のサイクルがこのように繰り返されると、どうしても心の中で不妊治療を中心に生活が回っている感じを受ける。四季の移り変わりを感じる余裕が心の中からなくなり、徐々に追いつめられたような気持ちになる。自分より後に結婚した知人夫婦に赤ちゃんが生まれたりするとなおさらである。

そこへ例の「子供はまだ?」という攻撃を浴びると、ますます落ち込む。訴える私に夫は、尋ねるほうはたいした悪気もなく「今日はいいお天気ねぇ」と同じように言っているんだから、いちいち過剰反応して気分を悪くしていては自分が損なだけだと諭された。しかしもっと腹立たしいのは、「子供はまだ?」の後に続くことばだった。

「子供がいなかったら、ご主人が帰るまで一人で何やってはるの?仕事もしないで結構ねぇ。今時子供がいなくて時間があったらみんな働いているわよ。」のたぐいである。

何いってるのよぉ。半月近く通院して痛い注射して、副作用で腹痛もあるし、お金はどんどん消えてゆくし、落胆して落ち込む日もあるし、不定期に半月以上働けないのにどこで雇ってくれるっていうのよ。毎日やりくりしてんのに、のんきにブラブラしているわけじゃないんだよぉ。

10年ほど前の話なので、今のようにHPで交流する場もなく、一人で激怒したり、涙したり。でもそれも所詮は事情を知らない他人との間のこと。

しかし、自分の気持ちとの闘いは果てしなく続いた。夫も不妊検査を受けたが、結果は全く異常なし。一定期間をおいて再度検査した時も同じく結果は良好だった。医師から、こんな良い数値は最近珍しいと言われたそうだ。従って不妊の原因はすべて私の方にあったのである。

そのため私の気持ちの中で、私以外の人と夫が結婚していたら、彼はとうに子供に恵まれ父親になっていただろうということが頭から離れなくなった。

夫は「そういう結果になったらそれも自分の人生だよ。」と言ってくれた。

しかし、現実にこの世に多数の人間がいて、たまたま出会ったのが「結婚相手」だとしたら、別の多数の人間との間になら「子」を持てたのに「私」と出会ったばかりにそのような人生になったと思うと、別れた方がいいのではないかと悩むのだった。

いつのころからか、治療のかいなく月のものが来ると、このことを突き詰めている自分がいた。あるとき、夫が怒鳴った。
「子供が欲しいだけで結婚したわけじゃない!!そんなことばかり考えているのなら、治療をやめよう。」

「俺も病気を持っている。(腎臓の慢性疾患)それを承知で君は結婚した。結婚後も再発して苦労をかけたけど、あのとき、別れた方が良かった?今、子供のことで悩んでいることはわかるけど、だから君と別れたいと思ったことはないよ。毎日がこのことばかり悩む日々なら治療を中断したら?」

私も彼も互いに人柄に惹かれて夫婦になったはずだった。私は道を見失っていた。


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