ゆりママのヒミツ

ゆりママのヒミツ

確定 (平成6年1月17日)



 この日、いよいよT医師によるエコー診断の日。

 前日夜に出血したため、あまり眠れなかった。
 午後2時からの予定が、なかなか呼ばれない。
 ベッドの上で、身の置き所がなく、24時間の点滴の落ちるのをじっと見つめる。

 ようやく、午後4時、看護婦さんが「行きましょう。」と声をかけてくれた。
 彼女は、私のベッド脇に車椅子を用意していた。
 それまでも、私は洗面とトイレ以外、ベッドから離れることを禁止されていた。
 不用意に歩くことも許されていなかったのである。
 階下の売店に行くことも禁じられていたので、入り用の物は家族や同室の友人に頼むほかなかった。
 私は「何もそこまで」と軽く思っていたし、用がなくてもベッドから起立したくてトイレに行くこともしばしばだった。

 それが、この時車椅子を見て「これはただごとじゃないぞ。」と思った。

 看護婦さんに「これに座らんとあかんの?」と尋ねると、

「そうよ。Gさん(私のこと)は絶対安静状態なんよ。先生に聞いていると思うけど、簡単に階下へ降りてもらっては困るのよ。どうしても用事があるならいつでも車椅子を用意するからネ。」と微笑みながら答えてくれた。

 これは大変なことだと実感がわいた。

 今日のエコー検査は、元気な胎児が見られるはずだと楽しみにしていたが、もしかしたら、胎児は映らないかもしれない。映っても拍動がないかもしれない。不安が募った。

 車椅子に座り、エレベータで階下へ行き、検査室に入り、診察台に乗った。

 T医師がエコー画面の映るモニターを私に見えるようにセッティングした。
 エコー画像が出た。でも私には何の絵かさっぱりわからなかった。
 T医師が操作して小さい小さい胎児、頭と身体の区別がやっとの画像が見えた。胸と思われるあたりが動いている。

     拍動だ!心臓が動いている。

 少し画像が移動すると、また胎児が映った。
 T医師が「やっぱり双子みたいだね。」と言った。
 へーっ、やっぱりそうなのか。双子なのか。本当に私のお腹に赤ちゃんがいるんだ。
 T医師は続けて、「双子ということになると、なお一層、入院してもらうことになるよ。」と言った。


 そうか。双子っておそろいの服着て、そっくりな顔して、可愛いものと思っていたけど実際の出産までは並大抵じゃないんだ。だからT医師は「双子」と聞いていい顔をしなかったのか。

 検査が終わるまで階上に戻っていた看護婦さんが、例の車椅子で迎えに来てくれた。
「どうだった?」と聞かれて

「双子みたいです。ちゃんと映ってました。心臓も動いてました。」と答えると、涙があふれてきた。

   妊娠した。赤ちゃんに会える。ママになれる。本当に実感がわいた。

「どうしたの?」と驚いた彼女に、不妊治療してやっと授かった話しをすると、
「ホントによかったね。それも二人いっぺんにだよ。泣いてもいいよ。泣いて当然だよ。」

   そう言われて余計に泣けてきた。

でも楽観していられない事態がこのあと次々と待ち受けていた。
このときの私はそれを知らずにいた。

私はもらったエコーの写真を、お守り袋の中にしまった。

予定日は8月25日。このとき8週5日だった。


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