ゆりママのヒミツ

ゆりママのヒミツ

ふたりがひとりに。。。(平成6年1月末)



 妊娠が確定したエコー検査のあと、病室に戻ってからT医師から再び詳しい説明があった。

 ・双子であることが、はっきりしたこと。
 ・不妊であったこと(ホルモンバランスが悪いほかにも、子宮、卵巣の発育不全があった)、高齢出産であること、多胎妊娠によるリスク等を考えると、当分入院を継続する必要があること。
 ・多胎妊娠のリスクについては、その都度説明するが、当面考えられるのは、つわりがきつい可能性があるということ。しかし胎児ふたりに充分な成長を促すため、現在継続している24時間点滴(流産防止目的)と栄養点滴を平行投与すること。
 ・多胎妊娠のリスクとは、おおまかに言うと、流産、早産、妊娠中毒症である。

 どうも、妊娠を単純に喜べない、気の抜けない話が続いた。
 T医師とは長いこと通院でお世話になっていたが、ベテランの産婦人科部長さんだけあって、いつも慎重な話し振りで、あまりニコっと笑った顔を見たことがない。私が入院してからも、診察時もそれは同じだった。

 入院が長くなることに私はショックを受けていた。
 双子であることも、最初に聞かされたときは、「やったね!」ぐらいに思っていたのだが、T医師の話を聴いているうちに、無事に出産できるのかどうか、とても難しいのではないかという想いが、ふつふつと沸いてきたのである。


 入院患者の内診は毎週木曜日に行われていた。内診のときに私はたいてい出血又は出血の痕跡があると言われていた。その度に不安になる。こんなことでは出産どころか流産してしまうのではないか、と思っていた。T医師はその度に、心配ないけれど、安静にしてるようにと言った。

 1月26日に2回目のエコー検査があった。
ふたりとも、心臓の拍動が確認できた。ほっとしていたら、T医師が

「画面の左にいる子が右の子を圧迫している。胎児を包んでいる膜の大きさが、左右の子でずいぶん違って見えるでしょ。右の子が成長できずにだめになる可能性もわずかだけれどある。」

と言った。私は、「だめになるって、どうなるんですか?」と尋ねると、

「右の子だけ流産ということになります。まれに左の子が右の子を吸収してしまうこともあります。生命力というのはすごいもので、生きるために栄養として右の子を吸収してしまうのです。」

何?なんて言ったの?
吸収?
ふたりがひとりになっちゃうの?
その可能性があるって!!

エコー室から車椅子に座って出てきたとき、思わず看護婦さんに聞いてみた。
「そんなことって、ほんとうにあるんですか?」

『だいじょうぶ。そういうこともあるって話だよ。』
って言ってくれると思っていた。

「Gさん。これから、いろんなことを覚悟しなくちゃね。先生の話は今、Gさんにおこりつつある話だよ。」

と彼女は言った。すごく真剣で、私に覚悟をせまる怖い感じだった。

そういうことがあって、多胎妊娠と出産について、勉強する必要性を感じた夫が、関連の本を買って差し入れてくれた。夫はかなり大型の書店を回ってくれたらしいが、当時は関連の本は少なく、医学専門書コーナーで探してくれたようだ。

難しい医学用語のオンパレードの本を何度もひっくりかえして、(とても読んだとは言えない)ふたりがひとりになることを探し当てた。

そういうことがあることは、さして珍しいことではないようなのである。
体験者の話では、妊娠がわかったときは双子の診断を受けたのに、次の検診時にはひとりしか見つからず、医師も「たぶん、吸収されたんでしょう。」と言われたという話だった。

ほかにも、本を読むと、多胎妊娠によるリスクはたくさん書かれていた。
わからないままに読んでいてわかったことは、人間の子宮はひとりの胎児を育てるように創られているのだということだった。
それなのに、ふたり、もしくはそれ以上の胎児を育てようとすると、さまざまなリスクが生じるのだというしごくあたりまえの事実だった。

 心配しつつ、安静しかできない毎日が続いた。つわりは、もどすことはあまりなかったが、ほとんど食事に手がつけられない日々が続いていた。

 栄養点滴と24時間点滴のおかげで、おなかの赤ちゃんは育っているんだなぁと思った。「私の点滴っ子たち」と私はひそかに名づけた。



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