クロノスずんどこべろんちょ(完結)

クロノスずんどこべろんちょ(完結)

前兆

「両立」と言う言葉は、基本的にどちらにも同じだけの力を掛けてどちらにもある程度の成果を残す事で初めて成り立つ。



自分の中での上位レベルキャラがコエで92歳、ラピで93歳。
これは「両立」・「二足の草鞋」と言う言葉を実践した純然たる成果である。

ほぼ均等に力を掛けながら歩いてきた揺ぎ無い結果である。


だが、人の流れ・金の流れの中で俺はその両立が出来ない事を悟った。
故に今は「ラピス」の地がメインとなっている。





そんなラピスでの活動の拠点となる場所は、周知の通りギルド「物見遊山」である。
しかし、現状の「物見遊山」は、かつてのそれとは明かに違う。
ギルドメンバーは別のゲームにほぼ移住しており、自分の知る限りクロノス大陸には殆どの場合には誰も居ない。2006年の大晦日~年越しに掛けて以来、ギルドチャットが賑やかになる事は無くなってしまった。



この感覚は、あまりにも彼のギルド「大バーゲン」が徐々にその火を消して行ったあの時の感覚に似ている。デジャヴとは言い難い程の、リアルな感覚がそこにはある。勿論、そんな感覚は、他でもない俺以外には無い筈だ。日々、ラピス3サーバーにINし続けている俺にしか判りえない感覚だ。



「お前も移住すればええんとちゃうの?」―そう言う考え方も有るだろう。
実の所は、俺のPCではギルメンの移住先へはマシンパワーが貧弱すぎてIN出来ないのである。

だが、誤解はして欲しくない。例えハイスペックなPCを手に入れてIN出来る様になったとしても、俺はこのクロノス大陸に拘り続け、この大陸から出ようとはしない。これからもソレは変わらない。この大陸が消え行くその日まで・・・或いは何らかの事情で、大陸から去らねばならぬ日が来るまでそれは変わらない。

故に、別の大陸へ行けたとしても、ギルメンに緊急の用事でも無い限り行く事は無くクロノス大陸に居続ける。


この絶対的な確信は、過去にクロノスと並行して別の幾つかの大陸へ体験留学的に赴いて得たものだ。他の大陸は、居心地が悪かったと言う結論がそこには毎度有り、その度にクロノス大陸の居心地の良さを痛感する。最早別の場所を俺は必要としない。例えこの大陸の最後の独りになったとしても。





話しを戻しましょうか。



ギルマスのIN率低下は他のギルメンのINをも遠ざけると言う事実を、再びこのギルドで目にし、他ゲーへの移住とその活動は、新しい世界を切り開き新しい人との繋がりを生み、新しい喜びを創出する。人の脳は、それらを楽しいと感じ、その場所を優先度が「高い」と判断し「両立」を不可能にする。そしていつでもそこにあるだろうと言うクロノス大陸への安心感から、更にこの大陸には戻ってこなくなる。



こういった事を思いながらいつもの大陸で過ごす日々を、俺は「前兆」だと感じずにはいられない。
あの頃の「大バーゲン」と同じ運命へと近づいていくその雰囲気が、そこには今、確かに有る。





どうやら俺が在籍すると、賑やかなギルドはこうなる運命なのかもしれない。
「まじだらけ」は解散し、「大バーゲン」は眠りに就き、「卑劣道」さえも賑わいを忘れ、そしてついには「物見遊山」も。


とんだ疫病神を俺はどこかで引っ掛けてきてしまったのだろうか。
はたまた、俺自身が、疫病神そのものなのか。






見慣れた筈のギルメン達の戦史には、見覚えの無い大陸での生活が楽しそうに綴られているが、俺には意味が判らない。







さて。

暫く様子を見た後に、旅立ちの準備を始めなくてはならぬやもしれぬ。
この大陸で巡り合えたこのギルド「物見遊山」を愛するが故の旅立ちの為の支度を。

今や名ばかりとなった「物見遊山」“本店”が、再びその地位を確固とする日が遠からぬ内に来る事を願いつつ・・・。





それにしても・・・一体いつから俺はそんな十字架を背負っちまったんだろうなぁ。。。

歴史は繰り返すというが、それを繰り返して行った先には、いつしか「ラピス」への扉を閉ざす日も来るのだろうか。






流浪の青き奇行師の安住の地は、何処に。


2007/1/23記


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