仲代達矢さんの「バリモア」を観る。
出演者はバリモアとプロンプターの二人。実質、仲代さんの独り舞台と言ってよい。以前、 NHK の番組で、芝居のセリフを部屋のいたるところに貼って覚えようとしておられる姿を紹介していた。ただ、今回の芝居はそんなことでカバーできるようなものではない。この膨大な量のセリフを仲代さんはどうやって自分の中に入れたのか。
それと、妻が言っていた「集音機がいらなかった。ものすごくはっきりと聞こえた」というセリフの明瞭さ。これまでの舞台で、「今日はセリフが聞こえにくかったね」という「しょうがないなぁ」という愚痴が一切なかった。客席に背を向けていてもセリフが聞こえる。本当はこれが基本なのだが。
以前というか、かなり昔に「オイディプス」を観た時に、神戸文化ホールの中ホール二階の最後列に座って観劇した時に、息も絶え絶えな主人公のささやくようなセリフが、「ささやくようにはっきり」聞こえた時の感動を思い出した。
ジョン・バリモアは、俳優一家に生まれ、自身も俳優として一世を風靡した実在の人物。「ハムレット」「リチャード三世」などの当たり役を持っている。しかし老いと過度の飲酒によってもうぼろぼろになっている。
舞台では、バリモアとプロンプターとの間の稽古の様子が演じられる。演じられる演目は「リチャード三世」。セリフもかなり、というかほとんど忘れている。いったい誰のセリフであったかも怪しくなっている。その稽古の間に彼は、四人の元妻の事、家族の事、精神病院で亡くなった父のことを思い出す。稽古には身が入らず、プロンプターとの言い争いも始まる。プロンプターが自分を見捨てて去っていったと思ったバリモアは、まるで幼子が母を求めるように、「帰ってきてくれ ! 」と叫び続ける。さいわいプロンプターは再び帰ってきてくれる。
セリフが覚えられなくなる。過去の栄光の中でしか生きられなくなる。体も動かなくなる。役者が齢を重ねるにつれてぶつからねばならない事柄ばかり。それを 90 歳の仲代さんが演じる。
時々、仲代さんは、私たち観客へのサービスとして滑稽で軽妙な動きを見せてくれる。そのたびごとに観客席からは笑いの波が起きる。
楽しい時間にも終わりが来る。カーテンコールは通常二回まで。しかしこの日は、三回。みんなの気持ち、何度でも仲代さんを見ていたいという気もちの表れだろう。
今年3月に亡くなられた奈良岡朋子さんは、93歳で舞台出演を控えておられたという。 仲代さんは、百歳まで舞台に立っていただきたい。
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MoMo太郎009さん
SEAL OF CAINさんComments