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2016.04.25
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僕だけがいない街 Another Record

僕だけがいない街 Another Record
著者:三部けい
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【僕だけがいない街 Another Record】

原作 三部けい (さんべけい)
著者 一肇 (にのまえはじめ)



☆「僕だけがいない街」の初のスピンオフ小説のあらすじの続きと感想です。

★★ネタバレ注意。結末まであらすじを載せています。この記事だけで読んだつもりなっていただけ、読んだフリ?もできるものと思っておりますが、八代独特の語り口調などは表現できておりませんので、気になる方は小説を手に取ってお読みいただけたらと思います。

★ここまでのあらすじは→  僕だけがいない街 Another Record あらすじ

【八章 顕れる物語】

☆ここまでと同様、八代が「スパイス」に話しかける感じで書かれています。

・藤沼悟は何者なのか。本当に意志であるのか。その考えに憑りつかれたら普通の子どものようには見えなくなってきた。悟の家庭は雛月同様、母子家庭だが、この母親がただ者ではないとわかった。ひとり息子となるべく一緒の時間を過ごそうと職を変えているが、藤沼佐知子は元テレビ石狩の局アナで、その経歴は華麗の一言で、無数のスクープをものにした凄腕のジャーナリストだった。その息子が持つ情報量はそこいらの人間に比べて圧倒的に多いと考えたほうがいい。

・とりあえず悟とふたりきりになれる時間を作り観察すると、見た目はそこいらの小五の子どもだが言葉の端々に大人びた言い回しが感じられた。次に母子がどれほど連携しているのか確かめるためにふたりのあとをつけた。ちょうどたくさん買い物をしたふたりを偶然通りかかったふりをして車に乗せた。質問しようと思っていたら逆に悟の質問を受けることになった。

・その結果わかったのは、藤沼悟は「まだ事件が終わっていないと思っている」こと。「真犯人はひとりきりでいる子どもを狙うと思っている」こと。そして「私が犯人であるとは夢にも思っていない」ということだった。母親はやりとりに絡んでこなかったので藤沼佐知子が息子を使って調べているという線は消していいと考えた。確実なのはその時点ではふたりが「私を疑っていない」ということだった。あくまでその時点だが。

・悟はクラスの柳原美里がひとりでいることを案じているようだったので、これを利用した。美里にアイスホッケーの試合の観戦を勧め、その情報が悟に伝わるように細工した。彼が体育館に来れば私の考えは立証される。そして悟は来た。美里に下剤入りのドリンクを与えた。姿を消した彼女に慌てた悟は「白鳥食品」のトラックを見てさらに動揺し、声をかけた私に車を追いかけてほしいと頼んできた。弁当を頼んでおいて正解だった。藤沼悟を用意した罠に誘い込むことに成功した。



☆ここまで書いてみて八代はようやくわかった。そして自分でも少し驚いた。それは、

・私はどうしようもなく弱い人間だったということ。「意思」の存在を知り信じてきたのに、目の前に意思が出現すれば逃げる。藤沼悟が意思であることをどこかで願いながら、その一方で意思でないことも祈っている。こいつを殺せば私はいろいろなことに勝利すると思っていただけだった。
そのときは藤沼悟は排除すべき「敵」以外の何物でもなかった。

・車から降りると、アクセルペダルにバスケットボールをかませた車は走り出し、いろいろなことを教えてくれた驚嘆すべき敵を乗せたまま川に落ちた。天上の「意思」は私を選び偽物を淘汰したのだ。世界に選ばれたという快感がそこにはあった。1988年3月14日。この日、藤沼悟は死んだ...

☆ケンヤは八代手記を手に新千歳行きの飛行機に搭乗していた。

・手記を何度読んでも一連の「藤沼悟殺害未遂」のシーンは気分が悪くなる。こんなくだらない思考の果てに悟は死ぬほどの目に遭ったというのか。僕の親友は、その家族は、そして友人たちは、八代が逮捕されるまでの間、苦労を重ねてきたというのか。冗談じゃない。

・八代の暴挙によって悟は、ある意味死ぬより辛い目に遭った。川に半分以上水没した車の中にいた悟を偶然通りかかった女性の獣医師が発見した。彼女のおかげで悟は心肺停止状態のまま病院へ搬送されたが、医師たちは一度は回復不可能と診断を下した。低体温症と長期の酸素不足で脳死の一歩手前まで追い込まれ、15年の長きにわたり藤沼悟はこの世から抹殺されたのだ。

・皮肉なことにその事実は八代から告げられた。クラス全員が衝撃に包まれ現実を受けとめることができずにいた。みんな悟の不思議な行動力に気づいていたのだと思う。彼が誰かのために命がけの行動に出ていたということを。警察も保護者たちも通り魔の犯行と決めつけていたが、悟が連続児童殺人犯の正体にたどり着き、その犯人に逆に口を塞がれたのだと思った。警察に訴えたが取り合ってもらえず、どうしてもっと早く警察に、せめて父に相談しなかったのかと自分を責め続けた。

・悟はいつか目を覚ます。僕らはそれだけにすがるように行動した。そんな行動に出られたのは悟のお母さん、藤沼佐知子さんのおかげだと思う。回復の可能性なしとして治療停止を提案した医師に彼女はただ一言「ふざけんな」と告げ長期療養可能な関東の病院に転院させた。僕らは何か力になろうと皆で募金活動をしてそれを支えた。

・きっと当時の僕は、悟をこのような目に遭わせた犯人とまだ戦っているつもりだったのだろう。いつか目を覚ました悟に伝えようと日記を書くようになった。中学から高校と進学して、それぞれの進路を歩むようになったが、週末は必ず駅前に集まって募金活動を続け佐知子さんに送り続けた。

・3年が経ち自宅療養に移される。悟は相変わらず眠ったままだったが、佐知子さんは事件から13年、ひとり懸命に介護を続けていた。毎日のように語りかけ、体を拭き、体をほぐし、本を読み聞かせ、好きだった音楽をかけた。そのときの佐知子さんの姿を思い浮かべるだけで今でも果てしない勇気をもらえる。どうして悟が僕らのヒーローになったか理由がわかった気がした。



☆悟の事件後のことを八代がスパイスに、そこにいるのか、聞いているのかと話しかけながら綴る。

・藤沼悟を川に沈めた後は抜け殻のようになった。殺害することに全力を注いでいて身代わりも用意しておらず、何度か警察に聴取をうけたが虚脱状態も考慮されたのか、あっさり容疑者リストから外れた。植物状態になった悟を改めて殺しておくべきだったのだろうが、なぜかその気はなかったし、そうする気さえおきなかった。その理由はずっと後にわかるのだが、とにかくこの街はもう終わりだと思った。

・転任希望を出し、他の小学校で改めて使命を果たしていこうと考えた。道内の幾つかの小学校を転々とした。どの小学校にも蜘蛛の糸を持つ子供はいて「私にはまだやることがある」と感謝した。またひとりひとり少女たちを解放していったが、少しずつ空虚さが混じるようになった。不安になって鏡を見るとまだ頭上に蜘蛛の糸はあった。それは輝きを増しているようにさえ思えた。かつての疑問が口をつく。「私の糸は誰が切ってくれるのだろう」

・藤沼悟が千葉の病院に移ったと聞いた。さらに自宅療養できるまで回復したらしいということを。ちょうど場所を移そうと考えていたし、教師生活に空虚さを感じてもいた。さらに言えば、そのころ知り合った女性の父親が千葉で県議会議員をしていて、ふたりでこっちに来ないかと誘いを受けてもいた。これは何かの「兆し」ではないかと思えた。

・北海道から千葉県C市に移りそこで結婚した。相手方の養子となり「西園」に姓が変わった。ついでに「がく」だった名前の読みを「まなぶ」に変え職業は議員秘書となった。新しい仕事は向いていたようで数か月で次席秘書まで上り詰めた。そして2年ほど経ったある日、予定より少し早かったが義父を殺した。



・先生なら市長選でも参院選でも勝てると思いますがとよく言われたが現場を見たかった。この腐った世界がどこから腐り始めているのかと。C市の児童誘拐殺人事件、I市の連続殺人事件と本来の「使命」も果たしていたが高揚感はなく淡々とこなしていた。政治ゲームよりも、解放行為よりも、藤沼悟のその後の様子をうかがうことが楽しみだった。

・悟が自発呼吸を始めたと聞いた時は飛び跳ねた。何度か病院を訪れて遠くから話しかけたこともあった。早く目を覚ませ。起きて私を再び追い詰めてみろと。理解できないかもしれないが、これが偽らざる本心だった。

☆北海道T市S町。八代の最終公判3日前に故郷に戻ったケンヤ。荷物を置くために実家に戻り両親に挨拶をすると街に出た。

・懐かしい場所を訪ねる。この街は当時僕らのすべてだった。このままずっとここで生きていくのだろうと疑いもしなかった世界そのものだった。公園も小学校も川も、今みると小さく思えたが佇まいは変わらなかった。いろいろなことが起きたが一番の契機は「藤沼悟の消失」だろう。彼がいなくなった街は何か別のものに変貌してしまったような気がする。

・雪がちらつく中、隣町の泉水小に行った。八代手記が発見された廃バスはもうなかったが、子供のころに戻ったような感覚に襲われた。雪で霞んだ向こうに目をこらせばバスがあって、悟と雛月がひとつの毛布で寄り添うように寝ているような。そこで八代のデジャヴを見たという記述を思い出し何かがひっかかった。すごく近いところに探している何かの答えがちらりと顔を見せたような気がした。

・考えても答えは降りて来なかった。そもそも何を探しているのかも明確に把握していない。ただ弁護士という道に迷い惰性でここまで来てしまった。それが、久しぶりにこの場所を訪れて、すべて巻き戻されて再上映されていくような感覚に陥った。一番幸せであったあの頃に。

・「あのとき、俺は八代に父親を見たような気がしたんだ」不意に悟の言葉が蘇った。悟は八代の「われわれを動かしたのはおまえだ。悟がとった勇気ある行動の結末が悲劇でいいはずがないだろう」という言葉が嬉しくて、八代がすごくかっこよく、頼もしくも見えたといつだったか言っていた。あのときの言葉を今も覚えているだろうか。

・弁護士は父に憧れ、悟に憧れ、ヒーローのようになりたいと目指した仕事だ。だがそこにかつて大人への憧れとして見た担任の姿はなかったと言えるか。今の僕に僅かでも八代の影響はないと言えるだろうか。「なあ、ケンヤ、おまえは、この街にいるか」不意に小五のある日、八代にかけられた奇妙な問いが耳元をよぎった。

☆八代の手記の続き。スパイスにおまえが見えない、最近感じられなくなってしまうことがある。頼むから最後まで書かせてくれと綴っている。

・悟が15年の時を経て快方に向かい始めたと知ってとにかく嬉しかった。本当の私を知っている人間がこの世界にちゃんとひとりいるというのが嬉しくて彼の回復を祈った。完全に目覚めたらまた対決すればいい。自暴自棄とは違う、もっと透明で切実な思いで悟の回復を待った。

・しかし悟は意識を取り戻したが記憶の一部を失ったままだった。興奮が静まり目の前の景色が暗くなった。悟は自分が植物状態だったという認識はあるが、最後の記憶は一番幸せだった時期で止まっていて、後は何もかも消えてしまっていた。彼の中にある私は頼りになる担任教師で、解放者の八代学ではなかった。

・毎日のように病院に赴きリハビリに励む彼を陰から見つめながら、少しずつ自分の中の何かが崩れていくような気がした。なぜかはわからなかった。だからこのノートをつけることにした。これがスパイス以外の誰かに見つかれば私の人生は終わりだろう。それもいい。私はスパイス、ただおまえに知ってほしかったからだ。

・藤沼悟を使命に立ちふさがる邪魔者だと思った。すべてをかけて彼と対峙し勝利してしまった。もう邪魔者はいないのか。本当に勝ったのか。本当の私を知るものはどこだ。意思はどこだ...

☆日時飛んで、この世界はクソどもが多いと書き出し、この世でもっとも劣悪な行為は魂を愚弄することだとスパイスに語っていた八代は気づく。そして、

・そうか、そうだったのか。だこらこそ、私はここにいるのか。そういう存在であったのか。ここまで書いてやっとわかった。私が私である意味と、いつも視線の向こうにおぼろげに浮かぶおまえの正体が。ハムスターとして私の前に現れ、仲間の死を踏み台にして生きながらえ私の中にほのかな光を灯したおまえの正体が。小見苗沙羅として現れ、使命に気づかせてくれたおまえは...

・なあ、まだ気がつかないのか。八代は最後の一行を綴った。
「勇気ある行動の結末が悲劇でいいはずがない。そうだろう、スパイス」

☆八代の手記の最後の言葉にケンヤはぞくりとした。そして、

・スパイスは自分でも悟でもないと思った。ぼんやり辺りを眺めていて、これがすべてデジャヴだったらとふと思い、また八代のデジャヴのことを考えた。なぜ八代の周りでだけ鮮明なデジャヴが起きたのかと考えると、脳の奥に雷光が走り、仮説が突如出現した。

・それはいつか悟の口から聞いたような気もするがあまりにも無唐無稽な話だったので聞き流した。だけどそれが冗談でなかったのだとしたら、すべてが噛み合う。だがそんな仮説、そのまま裁判所に持っていける代物ではないし、そもそも弁護士の仕事ではない。しかし次の瞬間、まるでその仮説が正しいとでも裏付けるように探し求めていたもうひとつの答えまでも唐突に目の前に現れていた。

・厚くたれ込めていた曇天の裂け目に僅かな光を見たような気がした。光と信じてよいかわからないほどの小さな煌めきだったが、今のケンヤには十分だった。弁護士は意に沿わぬ弁護であっても依頼人の利益のために働かざるを得ないとずっと思っていたが、意に沿わないなら引き受けねばいいだけの話だった。弁護士という仕事が間違っているわけではなく、かつて目指したヒーローたり得ないものではなかった。世のすべての仕事と同じように、その場所で戦う価値のあるものだった。

・弁護士とは、吹き荒れる残酷な風の中、言葉にならぬ小さな声を真摯に拾い上げることなんだ。ようやくケンヤは明確な意思のもと決断した。八代学を全力で弁護する。それは八代の無罪を守るためではなく、ひとりの人間として、弁護士として、その仮説を知る第三の人間として、被告が本当に望んでいることを手助けするために弁護する。そう、やるべきこととは、彼らの戦いの結末をただ誠実に見届けることだった。

【九章 逆転 手記による述懐】

☆最終章。最高裁判所大法廷。

・傍聴席には八代学こと、元市議会議員「西園学」によって家族を奪われた人たちがいて一番前に藤沼悟がいた。この事件は遺族の数が多いので、佐知子や加代、ヒロミたちは入れなかったようだ。裁判所の外にも関係者やマスコミが判決が下されるのを待っていた。担当検事が席に着き最高裁判事が入場し開廷する。

・本人確認の後、起訴状の朗読、黙秘権の告知。真実を述べることの宣言を終えると最初の八代とケンヤの陳述機会がきた。前日に確認した通り、すべての罪を認めた。冒頭陳述、証拠開示は裁判の流れで省略。八代には情状証人もおらず被告人質問もすべてが「ありません」という言葉で裁判はスムーズに進行していく。

・担当検事が通称「八代手記」は精神障害を訴えるために意図的に作成されたことは明白で、高裁判決の根拠となった手記の信ぴょう性が崩れた今、被告には極刑が相応しいと主張。続いて最終弁論。八代は証人台に進むと「何も申し上げることはありません。すべて私のしたことです。そもそも私は一度も精神障害を主張していない」と答えた後に言った。
「ただ、ここにいる皆さんにひとつおききしたい。長く険しい道を歩いてきて、ほとんどスタート地点でふと落とし物をしたことに気がついたとき、どうしますか」

・傍聴席が騒ぎ出し、裁判長は事件と関係ないことは述べないようにと注意したがケンヤは、被告は責任能力のすべてを認めていて当法廷を侮辱するものでも判決に不服でもないので発言の機会を与えてくださるようお願いしますと言い、裁判長は続けなさいと言った。八代は一礼して口を開いた。

・「忘れ物をしたことに気づいたとしても、まず取りに行くことはしない。大多数の人がその気の遠くなるような距離を前に諦めるでしょう。しかも、よくよく考えてみれば、その落とし物は自分のものですらなく、赤の他人のものであった場合などは。この事件の主旨はおおざっぱに言えばそういうものです」
「つまりこの一連の事件は、私が過去にした落とし物を懸命に千里の道を戻って取りにいってくれた人間の物語であるということです。私は自分が何かを喪失した人間だと感じていたが、いざそれを指摘され、落としたものが思っていた以上に大切なものだったことに気づいた。それがあのノートの記述です。その落とし物がなんなのかを自ら探るためのものであり、他に意味などない」

・(ケンヤ) 落とし物はつまり少年期に兄の暴挙を止められなかったという悔恨だ。それが八代のスタート地点となった。救えなかった少女を改めて解放していく。そんな歪んだ「使命」へと行き着いてしまった。が、八代のこの言葉は手記を読んだ捜査関係者でも理解できないだろう。この僕でさえあの仮説に思い至ってなかったら、今考えている推論自体が崩壊していると思うし、その仮説は立証不可能だ。

・検察サイドは八代が精神障害を訴える手段に出たのではと慌て始めたが、反論する前に八代は笑い出し、それを、この私が精神障害を装うとしたものであると? その程度の読解力しかないから、この世から犯罪がなくならないのですよと言った。事件に関した供述のみをしなさいと注意されるが八代は続けた。

・「皆さん、一度でいい、自分はひょっとしたら馬鹿なのではないのかと疑ってみたことはありますか。正しいと思って為してきたことが、実はすべて間違っていたのではないかと」 検事が立ち上がったがケンヤは被告はこのような発言が自分の不利になることを覚悟した上で述べています。どうか最後まで発言を認めてくださいと言った。静まり返った法廷に八代の声が響く。

・「私はあります。そしてその馬鹿とは、愚か者とは私のことでした」傍聴席では反省の弁が始まると思ったようだった。八代が続ける。
「私は愚かでした。真の馬鹿とは自らを馬鹿と疑ったことのない者。そう規定していた私自身が馬鹿だったのです。そしてそんな私の落とし物を取りに行ってくれる人間とは、どういう人間なのか。親切? おせっかい? 聖人の為せる所業? それら軽薄な言葉の前に立ちはだかる必要不可欠な概念がある」
「それは、無上の勇気です。到底にわかには信じられないほどの勇気です」

・(ケンヤ) その言葉が法廷に響くと同時に懐かしい光景が蘇った。雪、小学校、懐かしい友人たち。そして藤沼悟の違和感に気がついたあの日。彼が「雛月は殺される」と告げた日、その視線の強さ。救うためには世界とも戦いかねない覚悟。自分はそのためにここに存在すると告げるような言葉の重み。「勇気」の化身。

・その悟の姿が「八代手記」にあった「まるで未来でも見てきたかのようだ」という八代の言葉と結びついていく。八代同様、僕が偽りなく綴って導き出した、その仮説は、

『藤沼悟が、何度も何度も過去に戻って悲劇を食い止めようとしてくれたこと』

・とても裁判で持ち出せる仮説ではない。下手をしたら僕の弁護士としての資質どころか精神性さえ問われかねない。だが、それならすべてが綺麗に結びつく。僕らの街で起きた事件と結びつき八代手記のすべてと結びついてしまう。

☆八代の顔を見つめながらケンヤは自問した。

・人がもう一度過去をやり直せるとして、いったい何人の人が実際にやり直すだろう。すべて最初からやり直しとなってしまうその世界は、どれだけ孤独なものだったろう。未来にいた藤沼悟は、何らかの原因により過去へと戻る。それはいつかの悔いを改めるためだった。雛月が殺されたことなのか、ユウキさんを救うためなのか、そこまではわからないが、それらの陰に正体不明の真犯人が未だ存在していると知って、彼はたったひとりで過去へと戻った。

・誰ひとり味方のいないその世界で懸命にあがき、雛月を、ユウキさんを救い、自らは真犯人の手に倒れた。だがその無謀な時間遡行はひとのつ熱を生む。雛月や僕の心に明かりを灯し、そして八代の心にデジャヴという歪みを生むことになる。歪みは八代の心の中で少しずつ育ち、そして...

☆検察官が立ち上がって「裁判長」と叫ぶ。ケンヤも立ち上がり「あと少しです」と八代の発言を擁護した。八代が続ける。

・「おまえは愚か者だ。絶対に間違っているとただ伝えるためだけに千里の道を何度も何度も舞い戻る。そんなことができるのは、通常、考えられないほどの勇気を持った人間だけです」

「もともと彼は普通の人間でした。しかし私が強烈に負の方向に走ったために彼は生まれた。無上の勇気を奮い起こし、何度も苦しい道のりを馳せ戻り、そして、ついに私の蜘蛛の糸を切ってくれた」

☆天上を見据えるように八代は言葉を紡いだ。

「その勇気へ...今日ここに、私は」

☆ケンヤが、そして悟が、裁判官たち、検察官たち、傍聴席に佇む人々が無言で見守る前で、八代は深々と頭を下げた。

「ここに感謝します」

・八代が長い一礼を終え被告人席に戻ると、傍聴席はざわつき始め、担当検事は被告の横暴をなじり始め、法廷は混乱に包まれた。裁判長が「静粛に」と数度告げるまでそれは続いたが...もう意味はない。すべては終わった。八代学は人生の最後に臨んで、真に彼が伝えるべき相手に言うべきことを言い切った。

・裁判長が静かに告げる。「私も完璧な人間ではなく、あなたの言う通り馬鹿であるかもしれない。本来、人が人を裁くことは傲慢であるとも理解する。そうした考察を経て、被告人に責任能力は十二分に備わっていると認め、これ以上の精神鑑定は不要と致します」

・傍聴席から安堵の声が上がった。何か述べることはありますかとの裁判長の質問に八代は姿勢正しく立ち上がり「ありません」と答えた。事実上、西園学の裁判はここで結審した。

☆「主文、原判決を破棄し、被告人を死刑に処する」

・数週間後、正式に裁判は結審し、八代学こと「西園学」に「逆転死刑判決」が下された。裁判官たちが退席し係官が八代に近づいてきた。ケンヤは八代に声をかけた。

「スパイスとは、ただ単なる『勇気』を指していたのですね」

・八代は僅かに微笑むと「いい弁護だったぞ、ケンヤ」と言い「気にするな、これが意志だった」と言うと続けた。

「つまり、私が間違えていたんだ」そして、説得力にかけるだろうが「この世は生きる価値がある」と言った。そして、

「ただ、そこに私だけがいなかった」

・ケンヤは小学生のときに投げかけられた「ケンヤ、おまえは、この街にいるか」という質問を思い出した。あの日の問いかけの意味が鮮やかにその形を為していった。それはケンヤを解放する児童として認識していたのではなく、自分が正しいことをしているかという問いかけだった。

・選び損ねたもうひとつの道、もうひとつの街。自分は正しい場所にいるのか。ひとり迷子になっているのではないか。そうした不安を「スパイス」という名の「勇気」に自問するようになった。時にスパイスは藤沼悟であり小見苗沙羅であり彼自身でもある、勇気を携えて行動するものの総称だった。

・ケンヤが法廷を出ると無数のマスコミにフラッシュをたかれ質問された。まだ西園学が心神喪失だったと思いますかの問いに、まだも何も、彼は一度だって心神喪失だったことはありませんと答えると、いったい何をするために裁判に臨んだのかと言われた。もちろん、と答えようとしたとき、その言葉が胸に迫った。

「勇気ある行動の結末が悲劇でいいはずがない。そうだろう、スパイス」

・八代学。この世界には、もっと他にあなたを生かす道はなかったのか。天を仰ぐようにしてその叫びを飲み込んだケンヤは記者に静かに答えた。

「依頼人の利益のためです」

・裁判所を出ると悟が片桐愛梨と待っていた。みんなも家に集まっているらしい。悟はケンヤが国選弁護人を引き受けた時になじったことを謝ると、かつて八代学に父性を感じたと話したが、それは今となっては矛盾なんだが、僕の中の正義の味方に感じるものと同じだったと言った。正義の味方か、正義って怖いな。悟が呟きケンヤが頷いた。

・八代学が為そうとした正義。そしておそらく藤沼悟が為したであろう正義。どちらが正しいとか正しくないとか、そんなことは誰にもわからないだろう。この世界を生きる人々それぞれに、それぞれの正義があるのだから。ただ言えるのは正義を主張するものが一番恐ろしいということだ。疑いなく自分こそが正義だと信じているものこそが。

・ケンヤは悟に、八代が法廷から出るとき「この世は生きる価値がある」と言っていたと話した。弁護士に見切りをつけるとか言っていたけど、どうするんだと悟に言われて、撤回だ、この世は戦う価値があるんだろと言った。生きる価値じゃないのかと悟に言われて答えた。「合作さ。そして、おまえが教えてくれた、この世界の真実だ」

・「サトル、おまえは、ちゃんとこの街にいるか。もう、どこへも行かないか」とケンヤ。ただ伝えたかった。おまえはもうひとりではないと。そしておまえの辿った苦難の道を知るものが、まだこの世界には存在するのだと。悟が手を伸ばし、その手のひらを広げると頭の中に雪で白く覆われた僕たちの街が浮かんだ。

☆友よ。僕らは、今もあの街にいて、そして、これからもずっといられんことを。

【感想】
スピンオフというと、別の作品でいくつか読んで、期待外れなものも結構あったので、原作が大好きな僕街とはいえ、正直あまり期待はしていなかったけど、アニメのラストで少しガッカリして、映画にはもっとガッカリした後だったので、かなり楽しみに待っていました。結論を言うと面白かったです。エピソードといっても八代とケンヤのくり返しみたいな感じで、八代の犯罪のシーンは何度読んでも嫌な感じがして、もういいやとか思ったけど、少しずつ導かれて行く仮説は興味深いものでした。感想じゃなくなるかもだけど、読書の記録として並べておくと、

「僕なら助けられたはずなのに」
雛月が殺された時に悟が思ったことで、雛月を救えず、ユウキさんも犯人じゃないと言ったけど信じてもらえず、結果オリジナルの人生では踏み込むことができない大人になってしまったようだけど、これは八代も同じだった。兄が少女を誤って死なせてしまった時、見張りをさぼっていた学はそう思った。それがスタートになっている。兄に対しても嫌悪感ばかりではなく、親を悟の母、佐知子と比べて、自分の親が兄を見捨てて自分ばかり溺愛していなければとか、自分がいなければ兄は違っていたかもとも考えている。

「僕は、正義の味方になりたい人」
ケンヤに聞かれて悟が言った言葉だが、正義の味方になりたくて、正義の味方になろうとしたのは、悟もケンヤも八代も同じだった。ワンダーガイに惹かれたのは八代も同じだったし、ケンヤはヒーローの背中に父を重ね、悟は八代に父親を見ていた。

「勇気」
結局、スパイスというのは、単なる勇気を指していた。私ははじめいろいろと想像したり期待したりしてしまって、一気に読み終えて実は、あれ?っていう感じだったけど、お話にもあるけど、書くことっていいね。いや実際にはパソコン入力なんだけど、あらすじ記事を作ろうとまた読み直して入力してよくわかった。

悟が何度も過去に戻ってみんなを救おうとしたことが、八代の手記からケンヤにも伝わった。八代は自分の蜘蛛の糸を切ってくれた人物に感謝していることを伝えることができたし、悟に憧れただけで弁護士の仕事に疲れてしまっていたケンヤも、この世は生きる価値も戦う価値もあると再確認することができた。よい結末だったと思う。

「僕だけがいない街」
悟は長い月日を眠ってしまったが、自分のために友だちが人生の貴重な時間をさいてくれた、僕だけがいない街、僕だけがいない時間が宝物となった。彼らの心は今もあの街にあって、これからもそうあり続けることだろう。そして、それは、八代にとって「僕だけがいない街」であった。

本の内容とずれるかもだけど、八代の僕だけがいない街のくだりを読んで、いいなと思うと同時に、かなりガッカリした映画の結末もありかなと思えてきた。まあもともと私は過去をやり直すなんてそんな都合のいいこととか思ってもいたし、やり直せるなら迷いなく戻ってみたいと思っているのだが、歴史を変えた代償は15年眠るくらいは仕方のない事だと思うし、原作者はラストを決めてそこに向かって行く書き方は好きじゃないみたいなことを言っていたので、原作の結末を知らずに作ったのなら、悟が死んじゃうあの結末もありかとも思う。好きではないけどね。

コミックスの完結巻はこれから発売だけど、私の中では、連載の原作のラストが素晴らしかったので、僕だけがいない街はこれで終わりでいいと思っていましたが、スピンオフ小説のAnother Recordもとてもよかったです。私は乱歩が好きで、僕だけがいない街の原作にはそのにおいを感じて読み始めました。ケンヤの名字が小林てのもあったけどね。作者も少年探偵団とか好きなのかなとも思った。原作者の三部けい氏は、一肇氏を「自分にとってもう一人の乱歩だ」と評していました。6月から僕だけがいない街外伝(仮)の連載が始まるようです。完成度の高いスピンオフ小説の後に、三部先生がどんな物語を見せてくれるのか楽しみにしたいと思う。

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Last updated  2016.04.25 22:50:05
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