銀の鬣●ginnotategami

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●ありのままのスクランブル・エッグ




  3ヶ月の入院も、後3日で退院となる。
  僕にとっては、初めての貴重な体験の日々だった。
  何時の間にか、この僕が、この205号室の最古参となった。

  病室の住人は、ある意味、運命共同体だ。
  好き嫌いを問わず、強制的に、一室の住人となる。
  夜中中ナースコールを押す者、咳が止まらずあえぎ続ける者
  ヘタをすると、食事中にベッドの上でトイレをする者・・・

  厄介なのだが、病気と言うよんどころ無い理由があり
  「ごめんね」とその患者さんから言葉があると、許さない同居人はいない。
  なぜなら、皆が病人なのだから。弱点をさらした人の集まり。

  人には皆、卵のカラがある。カラに包まれている間は食えない。
  病気と言う弱点は、カラを破る絶好の機会だった。この僕にとっても。
  カラが無くなったら友達もできる。隣のベッドのオジサン。20歳も年上。

  二人で看護婦さん(看護士)の眼を盗んで、屋上でタバコを吹かし無駄話。
  なのに、自分の足では、この病院を出て行かなかった。僕は見送るだけ。
  「元気出しなさいよ、退院したらデートしてあげるから」とナースのO嬢。
  おいおい、穏やかじゃないぞ。でも嬉しいよ、冗談でも。

  悲喜こもごも、人は色々なものがいっぱい混じっていて、面白い。
  かき混ぜられて、黄身と白身が分からなくなる。だから人生はマイルドになる。
  「おいおい、そんなにかき混ぜたら、ぐちゃぐちゃになるじゃないか」
  「バカね、これがスクランブル・エッグって言うのよ」

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