青き天体研究所

青き天体研究所

第十九話  理由



イリスは目をつぶる。そしてゆっくり目を開ける。

「私は約10年前の記憶が無いんだ。自分の名前も年齢も全て!」

「名前もってそれじゃあイリスとは・・・」

「記憶を失った時に拾ってくれた恩人が付けてくれたものだ。その人に殺しの術を教えてもらった。」

「・・・・・・」

「その後医者で肉体年齢を調べてもらい、現在17歳である事が分かった。だが・・・。」

イリスの目には涙が流れる。セインはただ聞く事しか出来なかった。

「私の記憶はいっこうに分からなかった。その時連合から依頼が来たんだ。」

「それが俺の暗殺か・・・。」

イリスは首を縦に振る。

「成功したら私の過去を教えると言ってきた。だから引き受けたのに・・・。何故お前を殺せないんだ。何度も殺そうとしたのに・・・。」

そう言ってイリスはその場で崩れ、涙を拭った。その姿を見てセインは口を開く。

「好きになったんじゃないか、仲間といる空気が。」

「えっ・・・!」

その言葉を聞きイリスはセインの顔を見た。

「俺を殺せばもう二度とこの空気にはいられない。本能がそう思ったんだろう。優しいからな、イリスは。」

「私が・・・優しいだと?何を・・・。」

「気付いていなかったのか?まぁ良い。」

そう言ってセインは微笑む。その姿はイリスには同情と言うより本当に心配しているようあった。

「・・・済まないが連合とは縁を切ってくれないか?」

ふざけないで!! 私がどんな思いで自分の事を知りたいと思っている!!私は・・・。」

俺が必ずイリスの過去を探す!! 自分が何者なのか知らない辛さは分からない・・・。

でもイリスが苦しがってるなら俺は迷わずイリス助ける!!だから・・・。」

言い終わりしばらくの間静寂が流れる。イリスは涙が止まりしばらく呆然としている。

重苦しい空気がセインの部屋を包み込む。

「俺はもう・・・嫌なんだ・・・。仲間を救えないのは・・・。」

セインはそう呟くと部屋の外に出ようとした。

「何処へ行く?私の事でも報告するのか?」

「報告する気は無い。一応ながらこの中で一番偉い事になっているんだからな。・・・信しているぜ。」

そう言った後、セインは部屋の外へ出て行ってしまった。

「初めてだな・・・。こんなに私の事を心配してくれる人は・・・。」

イリスはそこにあったセインのベットに座り、しばらく考えていた。

数分後、イリスは通信機らしきものを手にとって何処かに連絡を取っていた。








昼間、30度以上あった外では逆に冷え込んでしまうほど涼しくなっていた。

その中セインは一人、何かを考えていた。

自分の甘さを少し噛み締めているのか、その表情は悲しげであった。

「探しましたよ。本当に貴方達の考えることは理解出来ません。」

その言葉と同時にセインに近づく足音が聞こえた。

その声に気付き、セインは振り返らず話し出す。

「連戦続きだったんだ。少し栄喜を養った方が良いだろう。」

「そうですね・・・。」

月の光が声の主を映し出した。

「独自に調べてたみたいだが何か掴めたのか、シュウ。」

その声の主-シュウ=シラカワ-はそう言われると首を横に振った。

「いえ、全く・・・。ですが面白い事が分かりましたよ。」

「面白い事だと?」

「ええ。どうやら連合はオペレーションデスティニーなる物を計画してるそうです。」

「そうか・・・・・。」

「後、伝言でマオ社からの伝言で『Rー1は完成した。補充パイロットと共に受け渡す。

例の機体も一緒にな。』だそうです。私を使うなんて良い度胸してますね。」

「全くだ。・・・・・・まだ合流しないのか?」

セインはシュウに尋ねる。だがシュウは失笑し振り向いた。

「私がいるとマサキがうるさいですからね。それでは・・・・・・」

そう言い残して暗い影の中に溶け込んでしまった。

セインはその姿を見送った後、後ろにある戦艦-クロガネ-を見つめた。







翌日、クロガネのクルー全員は出発の準備を行っていた。

まだ出航まで2日程あるのだが愛着のあるこの戦艦の整備をしておきたいのだろう。

その様子をセインはボーっと見ていた。

何か手伝おうとすると決まって、「大丈夫ですから。」「副指令にそんな事を・・・」等言われてしまいやる事が無い為である。

「セイ兄、ここにいたんですか!?今日こそ海に行きましょうよ♪」

「フィス・・・、何度も言うが俺は行かないからな!クソ暑いのに体力を消費するような事して何が面白い。」

「そんな事言わずにお願いします。皆さん待っているんですから・・・。」

何時にも増してしつこいフィスを振り払おうと走り出そうとするのだが、コートを引っ張られつまずいてしまう。

その拍子に額を岩に激突してしまい悶え苦しむセイン。

「こんな暑いのにそんな格好しているからですよ。早く行きましょう♪」

外の気温35度以上あるにも拘らず、セインはコートの下に長袖のタートルネック、青いジーンズ更には薄手の手袋をしている。

現地の人が見れば「こいつ○チガイじゃねえの!?」て言うような格好をしているのだ。

それでも頑固として海には行きたがらない。

(こんな物見せられるかよ。それにまたアレが来たら・・・・。)

そんな考えなどお構い無しにフィスは連れて行こうとする。最早これまでかと思ったその時!

「セイン、済まないがみんなを集めてくれないか?あの事を話したい。」

そこには夜中見せていたフード姿ではなくラフな格好をしているイリスがいた。

地獄に仏!そう思ったセインはすぐに答える。

「分かった!フィス、すぐにみんなを呼びに行ってくれないか?」

「え!でも・・・。」

「いいから!早くしてくれ!!」

そう叫ぶとフィスは慌てて呼びに行った。少しながら文句を垂れていたのだが・・・。

フィスがいなくなった事を確認するとイリスの方を向き尋ねる。

「・・・・・・暗殺の件を言おうと思ってるのか?」

イリスは黙って頷く。

「言わなくても良いだろう、そんな事は!何故言おうとする!?」

「・・・・・・言わなければ仲間になれないと思ったから。たとえセインに言われてもそれじゃいけないと思ったんだ。」

「どう反応しても知らないぞ!?」

「何故セインは仲間の事を信じない?仲間の大切さを教えといて。何故!?」

「ッ!!」

「・・・・・・例えどんな反応をされても私はそれを受け入れる。それだけだ。」

その言葉を聞きセインはただ立っている事しか出来なかった。




数分後、フィスは重要メンバーだと思われる人達をレクレーションルームに集めた。

集まったのを確認するとイリスは自分の事を全て話した。

本来の目的の事、約10年前の記憶が無い事、それをだしに連合の依頼を受けていた事、そして連合との契約を破棄した事を・・・。

イリスの口から語られる事実は集まったメンバーに衝撃を与えた。

恐らく彼らにもその辛さが分からなかったからだろう。

「・・・・・・私が話しておきたかった事は以上だ。その後の決定は彼方達に委ねる。」

イリスは話し終わると目をつぶり受け入れる状態に入った。

「一つ聞いて良いか?何で契約を破棄しようと思ったんだ?」

「・・・・・・初めての感覚だったから。こんな気持ちの良い空間は。それに・・・。」

そう言ってイリスは首にかけている十字架のネックレスに触れる。

その様子を見て彼らはこれ以上突っ込まない事にした。

「・・・ではイリス。君の処分についてなんだが我々に手を貸してくれないか?」

「えっ!!」

レーツェルの言った言葉を聞き、イリスは驚き目を開いた。

「君のその決意に免じて処分はしない事にする。その代わり我々を手伝ってくれるか?」

レーツェルの言葉に同意するように全員が頷く。

「・・・・・・確かにお前はセインを殺そうとしたかもしれない。だがそれは過去の事だ。・・・気にするな。」

「ゼンガーさん・・・。分かりました、私が出来る事なら!」

「では!改めて歓迎するよ、イリス・・・。」

「はい!!」

イリスは今まで見せた事ないような笑顔で答えた。

その様子をセインはただ見ている事しか出来なかった。








マオ=インダストリー社ではタウゼンフォスラーにR-1とセインに頼まれた機体を運ぶ準備をしていた。

タウゼンフォスラーでは月から地球まで約2日程かかる為食料も準備している。

「大丈夫か?俺らも行く予定だったのに急に一人で行く事になっちまったけど・・・。」

「貴方と違うんだから大丈夫よ。私達も用が終わり次第行くから気を付けてね。」

「・・・・・・・うん。」

どうやら運ぶパイロットは女の子らしく少しばかし不安そうな顔をしていた。

「どうしたんだ?不安そうな顔をして・・・。」

「私はもう乗れないから足手まといになっちゃうと思って・・・。」

「心配しないの。そんな事無いから!」

「でも・・・・・・・。」

「心配するな!もしお前を泣かすような事があれば俺たちが駆け付けに行くからさ♪」

「みんな・・・。行って来るよ・・・。」

女の子はヘルメットをかぶりタウゼンフォスラーに向かう。

「気を付けてね・・・、ラト。」

「うん♪」

ラトと呼ばれた女の子はタウゼンフォスラーのコックピットに着くと地球に向かって発進させた。

まだ見ぬクロガネのパイロットにこの機体を届ける為・・・・。

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