青き天体研究所

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第二十八話  因縁の白き箱舟



あの少年―――ラファエルの言っていたことを尋ねようとしても聞く耳を持たないようであった。

FATESとは、『化け物』の意味とは、妹のフィスでさえ分からない単語。

その謎を多く抱えつつクロガネは運航していた。

「FATES、『運命』か・・・・。確かにセインはそう言ったのだな。」

「ああ。そして連合はそのFATESに操られていた。」

「ラファエルと言ったな。その少年の戸籍はどうなってる?」

「不明よ。一応国連のデータベースにハッキングをかけて調べたけど無かった。」

「・・・・・・これはもうセインに尋ねるしかないな。」

テツヤ、レーツェル、キョウスケ、エクセレンはミドガルドで起こったことについて会議を行っていた。

何時までも話の目途が立たない為、結論としてセインに尋ねる事になってしまった。

一同はその場を一時解散し、各配置に着き始めた。

皆が離れ始めたところを見計らって、キョウスケはエクセレンに尋ねる。

「エクセレン、俺の頼みの方は何処まで進んでいる。」

「SSS級のプロテクトを解除してるところ。何とか第3プロテクトまで解除はしたんだけど・・・。」

「最終プロテクトが今だ解けないのか。俺の方は全く手掛かり無しだ。痕跡も残していない。」

「そう・・・。ならこの国連のデータベースが鍵を握ってるのね。」

「後はシュウ=シラカワに尋ねるかだな。」

そう言って二人とも溜息を付く。

自分達の言っている事の難しさに嫌気がさして来ているのだ。

「兎に角、進めるしかないな。頼むぞ、エクセレン。」

「そこまで頼まれちゃね。女は義理堅くなきゃ♪」

キョウスケは少し笑みを浮かべ、何処かに言ってしまった。











「セイ兄、いい加減に出てきて下さい!」

「大丈夫だから・・・。気にするな・・・!」

ドア越しの口論が小1時間ほど続いていた。

セインの事が心配でたまらないフィスは何とか外へ出そうとするが、セインは頑なに断っている。

いつもの様子ならあまり心配しないものの、苦しそうな声で言うので余計に心配してしまう。

その様子を心配してみるクスハとブリット。

「兎に角、開けて下さい!聞きたい事があるんです!!」

「FATESの事だろ・・・後で話す・・・。フィス・・・覚えていないのか?」

「えっ!!何がですか?」

「覚えていないみたいだな・・・。その方が良いかもな・・・。」

「一体どう言う事ですか・・・。」

その会話が終わるとしばらくの間、沈黙が流れる。

フィスに関しては少し混乱しているようだ。

「鋼鉄ガンガン!ダッシュバンバン!!・・・っとお前達、何やってるんだ?」

「それより私はリュウセイの歌っている歌の方が気になるんだけど・・・。」

緊迫した空気の中、ラトゥーニとリュウセイがやって来た。

空気を読んでいないのか、今だにあの歌を歌っている。

「すげぇ間の悪い時に来るもんだな、おい。」

「? 何がだ?」

「リュウセイ、気付いていないの?」

「だから何に?」

すぐに気付いたラトゥーニはリュウセイの空気の読めなさに呆気に取られている。

クスハ、ブリットに関しては呆れて溜め息をついていた。

リュウセイはある事を思い出し、話し始めた。

「そうだった。艦長がパイロットは全員、ブリッジに集合だってさ。早く行った方が良いんじゃねぇか?」

「そう・・・ですか。行きましょうか、クスハさん達・・・。」

「え、ええ・・・。」

フィスの言葉に従い、クスハ達はブリッジに向かった。

その姿を見送り、リュウセイは一言ドア越しにいるセインに向かって話す。

「お前が何隠しているのかは分からねぇ。だが俺はお前の事を信じているからな。」

「・・・・・・・・。」

既に返事する気力が無いのか返事が無い。

リュウセイはそんな事を気にせず、ブリッジに向かった。




「はぁ・・・はぁ・・・くそ・・・」

セインは自分の胸を抑えながら悪態をつけた。辺りには注射器らしき物が沢山ある。

「痛み止めが・・・聞かなくなって・・・きてる・・・とはな・・・。仕方が・・・無い・・・」

そう言って別の引き出しから違う形をした注射器を取り出した。

「モルヒネは・・・あまり・・・使いたく・・・なかったんだがな・・・」

注射器を左腕の二の腕部にさし、モルヒネを打った。

数分後、モルヒネの効果が現れたのか痛みが引いていたが、極度の睡魔が襲って来た。

その睡魔を抑える為、セインは近くにあったナイフの刃をを掴んだ。

「ッ!」

ナイフを持った手から血が流れていく。

それにも関わらず、セインはふらふらになりながらもブリッジへと向かった。

「話さないとな。FATESの事を・・・。そして、決めて貰わなくては・・・」











「で、フィスはFATESの正体を知らないって訳ね。」

「はい・・・。ただ私はそう言われただけなんです。FATESを倒せと。」

フィスの様子を見る限り本当の事だろう。

ブリッジに集まっていたパイロット達は少し溜め息をつく。

「やはりセインに聞くしかないか。」

「そのようね。・・・それにしても遅くない?」

既に一時間以上経っているにも関わらずセインは一向に現れない。

さすがに不安になったのか、フィスはセインを呼びに行こうとした。

「待たせたな・・・。」

「遅いですよ、セイ兄。」

着いたセインは顔色が悪く、今にも倒れそうな雰囲気であった。

手に何か握っている事に気付いたが手袋によって何なのか分からなかった。

「早速だがFATESとは――」

「艦長!!」

レーツェルの言葉を遮り、エイタが叫び始める。

「何事だ!」

「正面から戦艦が!?」

「すぐに索敵を開始しろ!分かり次第、こちらに報告するんだ!!」

「やってます・・・・。こ、これは!!スペースノア級、シロガネです!!」

エイタの言葉を聞き、テツヤは目を見開く。

そして突然、シロガネからの通信が繋がった。

『久しぶりだな?テツヤ・・・。』

「リー!よく俺の前に現れる事が出来たな!!」

シロガネの通信から出てきた人物、リー=リンジュンは不敵そうな顔でこちらを見ていた。

テツヤはリーに恨みでもあるのか、怒りが収まらない様子である。

『こちらとて会いたくは無かったさ。だがあの方の命令だったからな。』

「あの方・・・?」

『貴様達がFATESと言っている者達の事だ。私は彼らに感謝してるんだがね。』

「感謝だと!彼等が何やっているのか・・・。」

『知っているとも。彼らはドールを使い、人々を殺している事ぐらいは。だからなんだというのだ?』

「何!?」

『彼らはこの世界、地球の調律者だ。彼らによって生かされているとも言っても過言でもない。最もそこに居るイレギュラー達の排除が主な目的なのだがな。』

彼の一つ一つの言葉が彼らを驚かす要因となっていった。

地球の調律者。その言葉はまさにファンタジーの世界とも言えるのだ。

混乱している彼らの中、何とか落ち着いているリュウセイはリーに尋ねた。

「俺たちがイレギュラーだと!?どう言う事だ!!」

『その名の通りだ。サイコドライバーに人類の守護者、挙句の果てに居てはいけない彼まで居る。まさにイレギュラーそのものじゃないか。』

そう言ってリーはセインを指す。

当のセインはそんな事を気にしていない様子であった。

『まぁ私としてはそんな事はどうでも良い。ただ・・・ テツヤ!! 貴様を殺す事が出来ればな!!』

その言葉を最後にシロガネからの通信が切れた。

そしてシロガネから多数のドールが出撃していった。

「ドールに生体反応確認。本艦がロックオンされています!」

「今すぐ・・・パイロットは・・・出撃。クロガネは・・・迎撃準備を・・・・。」

セインは命令を下している最中もなお苦しそうであった。

少し気になっていたが今はこの場を乗り切る事が大切だと思い、彼らは格納庫に向かった。

次々と機体に乗っていく中、エクセレンはメカニックと抗議を開始していた。

「何でヴァイスちゃんの出撃が不可なの!相手はドールなのよ!?」

「仕方が無いだろう。ヴァイスリッターが悲鳴を上げていたのだから。」

「だからと言って・・・!」

メカニックの反論ももっともな為、これ以上の反論が浮かばない。

ヴァイスリッターはアルトアイゼンと違い、機体その物を改造しておらずテスラドライブのみ改造をしているのである。

その為、機体とテスラドライブとがぶつかり合ってしまい上手く動かない事があるのだ。

その事もありヴァイスリッターは月に一回ほど点検が必要なのである。

そして運が悪いことにその点検日が今日だったのである。

「エクセレン、仕方が無いだろう。ドールは俺らに任せてお前は俺の頼み事をやってくれないか?」

「・・・・・・・分かったわ。気を付けて・・・。」

キョウスケは「ああ」と一言述べ、アルトアイゼンに乗り出撃した。







『ESファントム起動、起動後全速力で後退を!』

『了解。』

機械的な返事が聞こえ、シロガネは後退していった。

「シロガネが消えたな。」

「多分プロトファントムみたいなものを装備しているから。その前に敵機を!」

「分かっている。が、やり難いな・・・。」

そう言いつつR-1はコックピットを避けつつT-Linkナックルで撃墜していく。

「リュウセイ、分かっている筈だ。ドールに乗った者はもう・・・・。」

「でも俺は・・・!!」

「甘い考えは捨てろ!ただ目の前の敵を切り捨てるんだ!!」

参式は参式斬艦刀を最大まで伸ばし、目の前の敵を一刀両断する。

多くのドールが撃墜されていき、数が少なくなっていった。

そこにアルトアイゼンのクレイモアが炸裂し、ドールは成すすべなく全滅した。

その様子を見ていた龍虎王が吠え始める。

「龍虎王が・・・悲しんでる?」

「ああ・・・俺もそう感じるよ。」

人類の守護者といえる超機人にとって、このドールの機能は許せないものなのだろう。

人を道具としか見ない、彼らの事を―――








クロガネに帰還し、彼らはセインに問い詰める事にした。

本当にリーの言ってた通りなのかを―――

「さてセイン。リーの話していた事は本当なのか?」

「・・・分からん。だが俺らが狙われた事だけは確かだ。リュウセイ、クスハ、ブリット。お前達は如何するんだ?」

「「「エッ・・・・?」」」

「お前達は民間人だ。もう連合に狙われる事もない。降りても構わないんだぞ?」

セインの言うとおり、リュウセイ達は民間人なのだ。

連合を倒すとの目的で付き合っていただけで、FATESとの対決に付き合わなくても良い。

セインはそう考えていたのだ。しかし・・・。

「冗談言ってんじゃねぇ、俺は降りねぇぞ!!命を粗末にする奴らを黙って見てろって言うのか!?」

「リュウセイに同感です。私は彼等が許せません!!」

「俺もだ。正直あんな訳分からない奴らが【運命】と言うなってのも気に食わないしな。」

「いいのか?」

「何度言わせる気か?俺らは奴らを倒す!それだけだ。」

「・・・・なら良い。 言えるわけ無い、言えるわけ・・・

「ん、何か言ったか?」

「いや、何でも無い・・・。」

そう言ってセインは何処かに行ってしまった。








「パスワード解析完了っと♪まさかこれがパスワードだったなんてね。」

エクセレンは先ほどのパスワードの解析を行っていた。

その結果、見事ヒットしたパスワードを入力し、セインの個人データを拝見する事にした。

「さ~て、あの子に隠された過去でも見ちゃいましょっと♪・・・・!!!」

その内容を見て、エクセレンは持っていたコンソールを落としてしまう。

―――どうなってるの、これは。言えるわけない―――

その警報が頭の中でずっと鳴り響く。

「有り得ない。でも・・・・。」

エクセレンはすぐにアクセスするのを止め、通信室へと向かう。

―――確かめなければ、本当の事なのかを・・・。

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