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青き天体研究所
第三十二話 語られる真実
目を覚ましたセインは目を開けているにも拘らず、辺りが見えないことに少し疑問を抱いた。
意識はしっかりしている筈なのに見えない。もしかしたら死んだのかと思っていると近くから聞き覚えある声が聞こえてた。
「どうやら目を醒ましたみたいですね。今、目を包帯で巻いているんです。ですから何も見えないと思いますが、安心して下さい。」
フィスの言葉からようやく今の状況を理解したらしい。
彼女の声が何か無理して気を使っているように察して、セインはゆっくりと口を開いた。
「その様子だと、どうやら・・・見ちまったみたいだな。」
「はい・・・治療する際、クスハさんと一緒に。」
目を包帯で包んでいる為フィスの状態が分からないが、何かがセインの手に触れた事だけは分かった。
その手がフィスの物と知らずにしばらくの間、黙り続けた。
「どうしてですか・・・。」
その空白の時間を破るかの様にフィスはぼそりと話した。
「どうして教えてくれなかったんですか!?そんなに私は頼りないですか!?」
「気持ち悪いだろ、こんな体は・・・。」
「そんな事ありません!!そんな事・・・無いよ・・・・・・。」
フィスの涙がセインの手に落ちる。
その時になって、初めてフィスが泣いている事に気付いた。
滅多に泣く事がなかったのでセインは驚きを隠せない。
「何で・・・苦しい事や・・・悲しい事・・・自分の心にしまい込むんの・・・。私達、兄妹でしょ!仲間でしょ!!」
「俺は化け物だからな・・・。ただ、FATESを倒すだけ・・・。」
突然、フィスはセインが話し終わる前に抱き付いた。
「違う・・・兄さんは人間だよ・・・。身体も心も暖かい人間だよ。」
そう言い残して再びフィスは泣いてしまった。
フィスの言葉から何を感じたのか、セインはずっと黙り続けた。
ただ、目の包帯が微かに濡れていた。
「落ち着いた・・・みたいだな。」
「はい・・・。これからどうするんですか?」
「・・・全員をここに集めてくれないか?」
「えっ、それでは・・・。」
セインは黙って頷く。
「奴の言う通り、俺は逃げてたからな。それに・・・。」
突然言葉を切り、フィスの頭をなでる。
「信じてくれたのが一人、ここにいるからな。」
誰にも聞こえないような小さな声でぼそりと呟いた。
フィスにはその声が聞こえていないらしく、突然頭をなでられた事に驚いた。
「兎に角、包帯を外してくれないか?それから話したいからな。」
「あ、そうですね。ですが先に呼びに行きます。集まるまで少し時間があると思いますしね♪」
そう言ってフィスは嬉しそうに部屋を出て行った。
何か嫌な予感がしたが、それが何かは分からなかった。
もちろん、その予感は見事的中するのである。
フィスからの伝言で医務室へと向かったリュウセイ達は今までの疑問を思い出しながら向かっていた。
クスハのみ何を話すのか察したらしく少し暗い顔をしている。
医務室の前に着くと、先に行っていた筈のブリットが顔を赤くして突っ立っていた。
「何してんだ?お前・・・。」「中に入れば分かる・・・。」
ブリットの言葉に疑問を抱きつつ、リュウセイは医務室のドアを開け、閉め直した。
リュウセイは目を擦り、再びドアを開けた。
「何開け閉めしてんだよ。さっさと入ってこい!」
「夢であって欲しかったよ・・・。何つう格好してんだよ、お前!!」
「仕方が無いだろう。目の包帯を取った時にはこの格好だったんだから・・・・。」
リュウセイの声を聞き、外にいた全員が一斉に入ってくる。
そしてイリス以外の彼らはセインの服装を見て呆然としてしまう。
何故ならセインが着ていた服は、ある一定の人物にとってクリティカルポイントである巫女服なのである。
セインの後ろではフィスが嬉しそうに彼の髪の毛をいじっている。
「実は治療が終わった後、服を着せようと思ったんですけど全部小さくて・・・・。」
「そこで私が持ってきたその服を着せたんです。私じゃ大きくて着れなかったんですが、セイ兄が丁度良いとは思いませんでした。」
フィスとクスハが汗をかきながらこの服の説明をする。
「まぁ気にするな。では始めようか、俺達の目的と俺の秘密を明かす話を。」
セインの様子が変化した事を察して、その場に集まった彼らは息を呑んだ。
その言葉を発した後、しばらくの間黙り続けていたセイン。そして口が開いた。
「遥か昔、この世界の状態に疑問を持った科学者がいた。その科学者が調べた結果、世界を調律する存在を見つけた。」
「それがFATESか・・・」
レーツェルの言葉に頷く。頷いた後セインは話を続ける。
「だが気付いた時には既に遅かった。そこでその科学者は自分の子供達をコールドスリープさせ、その子供達に未来を託したんだ。」
「その子供達とは貴方達の事ですね。セイン、フィス。」
シュウの言葉に全員がセインの方を向く。
フィスも信じられないかのようにセインの方を向いた。
当のセインは目をつぶりながら口を開いた。
「ああ。俺達はFATESを倒す為にこの世界に来たんだ・・・。」
「なるほどね。だからあなた達の戸籍が無かったのね。」
「その通りだ。過去から来た俺達にとって戸籍は意味が無いからな。」
エクセレンの反応にすぐに答えるセイン。
あれほどのプロテクトをしていた理由はこの事を知られない為の事であった。
「目覚めた俺はFATESに気付いていたビアン博士に接触し、協力を仰いだんだ。その結果がこの通りだ。」
「なるほど・・・。FATESは一体何なのだ?」
「不明だ。だが唯一分かってる事は奴らは機械生命体であるって事ぐらいと、奴らには天使級と神級の二つがあるということだな。」
「・・・・・・・・・。」
重苦しい空気がこの医務室を包んでいく。
彼から話される事はファンタジーの様に聞こえるが、経験してしまったからには全て本当なのだろう。
唯一分かってる事はFATESにとってクロガネはイレギュラーな存在であると言う事である。
でなければ幾度なくクロガネの前にでてきた理由が見つからないのだ。
「兎に角、俺が知っている事はこれで終わりだ。後は俺の事についてだな・・・。」
そう言ってセインは近くにあった水を口に含む。
一部の事情を知っているフィスは心配そうな顔でセインを見つめていた。
「まずはあの状態の事だな。奴は俺の生命の危機を感じた時だけ出て来る様なんだ。」
「多重人格とは違うのか?」
「多重人格とは本人にとってつらい事、苦しい事から逃れる為に出来る人格の事だ。恐らく違うと思う。」
イリスの素早い捕捉に納得するマサキ。
「昔、ある事が原因で奴が現れ、大勢の人々を一瞬にして肉塊に変えたんだ。それからだ・・・・。」
セインはそう言いながら上着を脱いでいく。
その行動に一同驚いたが、フィスとクスハのみ下を俯いている。
「俺が迫害され、このようになってしまったのは。」
上半身をあらわにしたセインの姿を見て、彼らは口を押さえた。
彼の体は至る所に刃物か何かで付けられた跡が大量にあったのだ。
胸の大きく十字に切られた傷が目に引く。
「何なんだよ、その胸の傷は・・・。」
「ああ、これか。これはアレが出た1日後、一部の大人に拉致され中を見られたになった時の傷だ。」
「中って・・・。」
「その名の通りだ。麻酔をかけられずにやられた為、殺してくれと思ったがな。――――
―――(・・・ヤメテヨ。ボクガナニヤッタッテイウノ?)
四肢を繋がれた少年―セイン―はそう叫ぼうとする。しかし、猿ぐつわされ叫ぼうにも叫べないのである。
大人達はメスを取り出し、麻酔とかけないままセインに胸を十字に切っていく。
(!!!!)
声にならない叫びがこの部屋中に響くが、彼らは無視をし、更に開いた傷口に手を突っ込み何かを探っていた。
(モゥ・・・コロシテ・・・。)
段々と目には生気を感じる事が出来なくなり、涙が乾いてきている。
意識が朦朧としてき、死を察したその時、近くの扉から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ゴメンね。あなたの事、気付かなくって・・・。」
白衣を着た女性が駆け寄り、すぐにセインの状態を確認した。
セインはその声に安堵感を感じたのか、そこで意識が途絶えてしまった。―――
「そんな事が・・・・。」
セインが語った傷の成り立ちに言葉を失う。非人道的なその行動に疑問すら感じた。
「その事が原因で、俺は温度を感じなくなった上、一定周期に謎の発作を起こしてしまう後遺症を抱えたんだ。」
「それで痛み止めとして、これを持っていたのか・・・。」
イリスはポケットに入れていたモルヒネをセインに投げ渡す。
それを近くにあったテーブルにそれを置き、暗い顔をしつつ、セインは隠す様に服を着始める。
話す言葉が浮かばないのか、辺りは沈黙を保っていた。
「そしてこの事は一瞬にして人々に広がって行き、何時しか俺を化け物と呼ぶようになったんだ。」
「恨んだりしなかったのか?そんな事をされて来て・・・。」
「不可抗力・・・はおかしいな。俺のした事が原因であるには代わりは無いからな。それにこの傷があるからこそこの事を忘れずに済む。」
再び沈黙に包まれた。しばらくした後にリュウセイが口を開き始めた。
「もしかして逃げた理由はもし再びあの状態になって俺達を殺さない為だな・・・・。」
リュウセイの言葉を聞き、セインは無言のままこくりと頷く。
その動作を見た瞬間、セインの首元を掴み始めた。その行動に驚き、リュウセイを抑えようとするが、その前に彼から声が聞こえてきた。。
「
何でだよ・・・
何で俺らを信じない!!俺らがそんなに弱いと思ってるのか!?」
「お前は見ていないからそんな事が言えるんだ。あの力は俺達の常識を超えているんだぞ!!」
「んなもん分かってる!俺が言いたいのは何でお前一人でそんな事を抱えるのかって事だよ!?」
止めに入ったライはリュウセイの言葉にハッとなり、掴んでいた腕の力を緩めた。
他の人達も彼の言葉にただ、聴く事しか出来なかった。
「何故俺らに相談しないんだよ!俺らが大切だからか?違うだろ!!お前は逃げてただけだ。自分の事を知られて拒否される事をな!!」
まさにミカエルが言っていたことをそのまま口にするリュウセイ。
本人はその事を知りもせずに話し続けた。
「だがな・・・俺らはそんなに弱くはねぇんだよ!だからな・・・お前の弱いとこ、俺らに見せろよ。そうしないと俺らだってお前の事信じられねぇじゃねぇか・・・。」
「俺は爆弾を抱えているんだぞ!何時奴が現れ、お前達を殺すかも分からないんだぞ!!」
「そん時は俺が全力で止めてやる!だから・・・逃げるんじゃねぇ!!」
その言葉を聞き、セインはハッとする。
辺りにいる彼らは全員、リュウセイの言葉に同調するように頷く。
「お前は一人じゃねぇ。周りをよく見てみろ。こんなにも仲間がいるんだからな。」
リュウセイはその言葉と同時に掴んでいた手を外し、後退した。
掴まれていたセインは力無く崩れたおれてしまった。
「俺は・・・今まで・・・・。」
自分の歩んできた道を振り返ると、確かに自分は急ぎすぎていたかもしれない。
自分の中に潜む悪魔に恐れ、フィスを、仲間を守る為に距離を取っていた。
だが実際は違っており、フィスや彼らはそんなに弱くは無い。
少なくとも自分の過去を話すことが出来ず、逃げ出そうとした自分より強いのかもしれない。
自分を信じ、仲間を信じる事を知っている彼らの方が・・・・。
「少し・・・時間をくれないか?頼む・・・。」
セインの言葉を理解したのか、レーツェルとテツヤとキョウスケはすぐに出て行こうとする。
その行動を見て、フィスとイリス以外後を付いていった。
「セイ兄・・・。」
「大丈夫だ、フィス。セインは弱くない。私に本当の生きる場所を教えてくれたんだからな。さぁ行こう・・・。」
「分かりました。セイ兄、信じてますからね。」
そう言い残して、フィスとイリスはセインを後にした。
「さて、面白い話を聞く事が出来ましたし、私はそろそろここから出て行きますよ。」
「なっ!待ちやがれ!!何処行くつもりだ、シュウ!!」
シュウが格納庫へ向かおうとしている所をマサキが手を伸ばし止める。
シュウはその手を払って話し始める。
「私とて忙しいんですよ。安心してください、私の目的はあなた達と同じFATESの撲滅なんですから・・・。」
「だからって言ってな、テメェを放しておくほど俺は馬鹿じゃねぇんだ。一つだけ言っとくぞ!!」
そう言ってマサキはシュウの首元を掴み、顔を近くに寄せた。
「お前が味方なら心強い面もある。だがな・・・ラ・ギアスのような事しやがったら承知しねぇぞ!!」
「分かっていますよ。私が最も嫌いな事、あなたなら分かりますよね?」
マサキはシュウの一言で、彼が最も嫌いな事を思い出す。
そうしてる間にシュウはマサキの手を払い、グランゾンに乗り込んだ。
「オイ、まだ話は・・・。」
「今の私は安全ですよ、マサキ。・・・では私は私なりに調査をしますから。」
シュウが言った次の瞬間、グランゾンが一瞬にして消えてしまった。
「チッ!まぁ今回はシュウが敵じゃないって事だけでも分かったから良いか・・・。」
「「マサキ・・・・。」」
シロとクロが呟いたのだが、マサキの耳には届いていなかった。
「俺は何してたんだろうな・・・。リュウセイの言う通りじゃねぇか。」
呆然としながらセインは呟いた。
あれから3時間以上経過してるものの、答えが丸っきり見えずただ自問自答を繰り返していた。
果たして自分は如何したら良いのか?本当に彼らといても良いのか?その事のみ頭の中をグルグルと回っている。
「答えが全然分からないな・・・。だが、俺は・・・。」
そう言ってセインは立ち上がり、何処かへ向かおうとする。
その目には不安も満ちていたが、決意を決めたようであった。
ブリッジではセインの話を聞いた全員が集まっていた。
これから何処へ行くべきなのか、FATESをどう対処するべきなのかを検討する為だ。
「待たせたな・・・。」
「セイン・・・。決まったのか?」
話の間に入ったセインの言葉に気付き、彼らがセインの方向を向く。
キョウスケの問いかけにこくりと頷くセイン。
「考えても答えが全く分からなかった。でも、俺は・・・ここに居たいと思った。もし俺を受け入れてくれるならここに居ても良いか?」
不安そうなセインの顔を余所に、彼らは穏やかな笑みを浮かべた。
その表情に気付き、セインは疑問を浮かべる。
「やっと気付いたのか・・・。肝心なのはお前がここに居たいか居たくないかなんだよ。俺らは既に受け入れているんだからな。」
「エッ・・・?」
彼らの答えにセインはキョトンとしている。
「だから、セインはここに居たいならここに居て良いって事よ。私達はあなたを信じているんだからね。」
「そう言う事だ。」
「皆・・・ありがとう・・・。」
その言葉にセインの顔に笑みがこぼれた。
やっと見つけた自分の居場所に喜びを感じているようであった。
「早速で済まないが、これから如何したら良いんだ?」
「・・・・済まないがこれから宇宙に上がってもらえないか?」
「宇宙にか?どうして・・・。」
「マオ社から連絡が入り、アレが全て完成したようなんだ。だからそれを取りに行こうって事だ。」
「そう言う事なら今から出発するぞ!!全員衝撃に備えろ!それからセイン、頼むからもう着替えてくれ。」
「あ・・・。」
テツヤの突っ込みのより今、自分の格好に気付いた。
医務室からそのままこちらに来たのでずっと巫女服のままなのである。
その事が恥ずかしいのかセインは顔を真っ赤にし、そそくさ自分の部屋へ戻った。
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