青き天体研究所

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第四十話  我が娘に祝福を・・・


ヴァルシオーネは辺りを確認する。
まるで打開策があるかのように。そして・・・

「必殺!サイコブラスター!」

その掛け声と共にヴァルシオーネを中心に淡い桃色のエネルギー波が展開し、周りを囲んでいた敵機がそのエネルギー波に飲み込まれていく。
そして数秒後、そこにはヴァルシオーネの姿と先程まで囲んでいた敵機の残骸が漂っていた。

「ここは良しっと。さてと、一応皆の所へ行くとするか。」

そう言ってリューネはヴァルシオーネを転回させ、皆が戦っている方向へと向かった。
その時、雑音交じりの通信が入ってきた。

『リュ・・・早く・・・待って・・・』
「今の声は・・・。まさか!」

しばしの間リューネはその場で考える。
罠かもしれない、しかし・・・

「考えていても仕方が無いか。行って確かめるしかない!」

そう言ってヴァルシオーネはその通信先の方へと向かった。







クロガネや皆の所からどれ位離れただろうか。
そんな事など考えもせずにリューネはその通信先へと急いだ。
自分の考えている通りの事だったらこれほど素晴らしい事は無いだろう。
しかし、もし罠なら・・・・。

(どちらにしろ確かめるしかない。・・・お願いだから幻想にならないで。)

そう思いながらリューネは通信先へと駆けて行った。






(この辺りか・・・何処に居るの?)

ヴァルシオーネは通信先の宙域までたどり着き索敵を開始する。
通信先に来ても影一つ見当たらない事を不自然に思いながらもリューネは索敵を止める気配が無い。
そして数分後、流石に諦めかけたその時・・・。
青白い光りがヴァルシオーネ目掛けて放たれた。
その光りに気付いたリューネはヴァルシオーネを動かし、何とか回避に成功する。

(クッ!そっちがその気なら・・・)

リューネはヴァルシオーネをその光りが発射された方向へ向かせ、両手にエネルギーを収縮させていく。

「これでもくらいな! クロスマッシャー!!

その言葉と同時にヴァルシオーネから桜色の光りが一直線に放たれた。
しかし・・・。

バシュン!!

「!?クロスマッシャーが四散した?」

リューネの言う通り、桜色の光りは何かにぶつかった様に四散してしまった。
その追撃かの様に再び青白い光りがヴァルシオーネを襲う。

「クッ!信じたく無かったけど、やっぱりそうなんだね・・・・・・。」

その追撃を再びかわし、リューネは何かを確信する。
彼女の知るかぎり、ヴァルシオーネのクロスマッシャーを四散する事が出来る機体は一体だけである。

「さぁ、隠れてないで出てきなよ! 親父!!

その言葉に答えるかの様に真紅色の機体、ヴァルシオンが姿を現した。
リューネはその答えに笑みを浮かべながら冷や汗をかいていた。






「貴様の攻撃パターンは既に分かっている。バンカー、食らえ!!」

コックピット目掛けて鈍く光るバンカーを突き刺す。

ドスン!ドスン!ドスン!

その音と同時に深々と刺さっていく。
そして完全に貫通したを確認し、一気に引き抜く。
貫かれた機体は数秒後爆散する。

「俺らがあんなに手こずった量産型ヴァルシオンを一撃で・・・・・・。」
「あの時は弾数も足りニャかったから仕方がニャいニャ。」

自分達が手こずった敵機をたった数秒で倒した事は少なからず衝撃を受けたのだろう。
その衝撃に気付いたシロとクロはマサキをなだめようとする。

「・・・・・・そう思うしかねぇか。済まねぇな、シロ、クロ。」

シロとクロになだめられ何とか気を元に戻したその時であった。
サイバスターのコントロールが利かなくなったのだ。
今まで乗ってきた中でこのような反応は初めてだったので戸惑うマサキ。

「クソッ!?一体どうなっていやがる!」
「分からニャい。こんニャ事初めてニャ!」

コントロールが利かないままサイバスターはサイバード形態に変形し、何処かへ移動を始める。
まるでマサキを何処かへ連れて行きたいかの様に・・・・・・。

「こうなったら自棄だ。何処へでも連れて行きやがれ!」

マサキの声に答えたのか、サイバードは更に加速を始めた。






その頃、ヴァルシオーネとヴァルシオンのぶつかり合いが始まっていた。
ヴァルシオーネはディバインアームを抜き、ヴァルシオンに斬りかかる。
しかしヴァルシオンもディバインアームを抜き、斬り払ってしまう。
元々体格差のある機体ゆえ簡単に跳ね返されてしまうのだ。
リューネは舌打ちをし、ヴァルシオン―――のパイロット―――に呼びかける。

「親父!何時まで黙っているつもりだい!?いい加減、声を出しなよ!」
『・・・・・・・・』

通信先のヴァルシオンは終始無言のままでいた。
再び舌打ちをするリューネはクロスマッシャーを撃つ準備を始める。
それに反応したのかヴァルシオンもクロスマッシャーを撃つ準備をする。
そして・・・・・・

「クロスマッシャー!!」

その声と同時に桜色の光りがヴァルシオーネの両手から発射され、ほぼ同時にヴァルシオンからも青白い光りが発射された。
桜色の光りと青白い光りがぶつかり合う。
・・・が、数秒で桜色の光りがかき消され、勢いの変わらない青白い光はヴァルシオーネを襲う。

「ッ!?」

数秒でかき消された事に驚きつつもリューネは何とかその光りを紙一重で回避する。
だがヴァルシオンは間髪いれずにディバインアームで襲い掛かる。
素早いその行動に驚きつつもこちらもディバインアームを横に構え、ヴァルシオンのディバインアームを受け切ろうとする・・・が。

「グッ!!・・・受け切れない・・・」

襲い掛かる重さにディバインアームの刃が歪み始める。
受け切れない事を確認し、リューネはすぐに後退を開始しその斬激を避ける。
急に後退した為ヴァルシオンのディバインアームは空を斬り、その勢いがヴァルシオーネに襲ってきた。

「くぅぅぅぅ!!・・・ハァ、ハァ。やっぱり強い。如何する、私!!」

肩で息をしながらリューネはヴァルシオンを見つめた。
基本的にヴァルシオーネとヴァルシオンは機体の性能に違いがある。
ヴァルシオーネは小型・改良されたテスラドライブを装備、更にクロスマッシャーを弾丸化する事によって運動性に秀でた機体となっている。
一方、ヴァルシオンはその大きさをカバーするように歪曲フィールドで包まれており、クロスマッシャーをエネルギーでまかなっている為エネルギーの調節をする事も可能となっている。
つまりヴァルシオンにエネルギー系の攻撃は効かない上、調節次第で多数の機体を破壊出来る機体なのだ。
ヴァルシオーネの攻撃を避ける必要の無いヴァルシオンは容赦無くクロスマッシャーを撃って来る。
それを何とか紙一重で回避し続けているヴァルシオーネ。
このままでは決着がつかない。そう思ったリューネはある事を仕掛けようと試みる。

「全く・・・。キョウスケさんみたいになっちゃうけど、これしかないか。」

そう呟くとヴァルシオーネはディバインアームを取り出し、何かが来るのを待つかの様に隙を作った。
その隙を逃さなかったヴァルシオンはクロスマッシャーの発射する為、エネルギーを収縮させていった。

(今だ!)

そう思ったリューネはヴァルシオンに向かって突っ込んで行った。
クロスマッシャーはエネルギーを収縮させる際、僅かだが無防備になる。
しかもヴァルシオーネとは違い自分のエネルギーでまかなっている為、収縮に時間が掛かってしまう。
その隙を狙っていったのだ。
当然ヴァルシオンもその事に気付き、エネルギー収縮を止め発射させる。
発射された青白い光りはヴァルシオーネの左肩を焼き切るが、それにも目もくれずヴァルシオンに突っ込んで行く。

「ハァァァァァァァ!」

僅か一瞬の出来事であった。
ヴァルシオーネはディバインアームを使い、クロスマッシャーの発射口を一閃。
一閃されたクロスマッシャーの発射口は中破を起こし、ヴァルシオンはその衝撃でよろけてしまった。
勿論そのチャンスを逃さないリューネは、そのままコックピット目掛けてディバインアームを突き刺そうとする。
ヴァルシオンも一瞬の内にディバインアームを取り出し、ヴァルシオーネに向かって振り下ろした。

―――殺られる・・・・!―――そう思った瞬間、異変が起きた。

振り下ろされる筈のディバインアームは振り下ろされず、そのまま停止したのだ。
そして、突き刺す為に加速したヴァルシオーネのディバインアームは減速せずにヴァルシオンのコックピットに直撃してしまった。
コックピットをやられたヴァルシオンは機能が停止したかのように動かなくなってしまう。

(動きを止めた?何で・・・?)

戦闘が終わり、息を整えるリューネは脳裏に疑問が浮かぶ。
その時その疑問を打ち破るかのように聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「リューネ!大丈夫か!?」
「ハァ、ハァ・・・。マサキ・・・何とかね。」

サイバードはサイバスターに変形後、ヴァルシオーネに近付いてくる。
戦闘が終わった事を安堵しているリューネは刺したディバインアームを抜かないままサイバスターに近寄って行った。

「これは、量産型?いや、オリジナルか!?」
「その通りだよ。親父が乗っていない事を祈るしかないけどね。」
「リューネ・・・。」

息が整らない様子を見て激しい戦闘であった事を感じるマサキは何も言う言葉が浮かばなかった。
ただリューネと同じように乗っていたのがリューネの父―――ビアン博士―――で無い事を祈るだけだった。
だがその願いは脆くも崩れ去ってしまった。

『残念だけどそのヴァルシオンに乗っていたのはビアン=ゾルダークだよ。最も"部品"としてだけどね。』
「!?だ、誰だ!!」

マサキの言葉に答えるかのように深緑色の機体が姿を現した。
まるで神を表現したかのような姿は何かを断罪しに来たかのようであった。

『私の名はアイオリア。君達の言うFATESの神級の者だ。』
「神級、だと?まさかサイバスターは・・・。」
「それよりそのヴァルシオンに乗っていたのが親父って事は本当なの!?」
『ああ、本当さ。木星圏で戦っていた所を私が確保した。その後戦力とする為に"部品"として"同化"して貰った。』
「じゃあ私は・・・。」
『その通り。君は親を殺したって事だ。まぁ安心しろ。意識は完全に無く、私達の操り人形だったんだから正当防衛とやらに入るだろう。』

アイオリアの言葉を聞き崩れ落ちるリューネ。
知らなかったとは言え、自らの手で親を殺してしまったのだ。その衝撃は強いものだろう。

・・・けんじゃねぇ。
『ん?』
「さっきから聴いてりゃあ、"部品"だと?人間をなんだと思っていがる!?」
『ただの道具だ。まぁもう必要の無い道具だがな。』
「テメェ・・・ふざけんじゃねぇ!何が部品だ、何が道具だ!テメェみたいな奴はシュウ以上にムカつくんだよ!」
『何故君が怒る必要がある、風の魔装機神の操者。君には関係無いだろう?』
「リューネは俺の仲間だ!それにな・・・命を冒涜する奴は許せねぇんだよ!!」

そう言ってサイバスターはディスカッターを抜き、戦闘準備に入る。
その姿を見てアイオリアは少々呆れている。

『まだ幼い魔装機神の操者が私に戦いを挑むと?身の程を知らないようだな・・・。』
「そんなもん端から無いね!さぁ行くぜ、シロ!クロ!」
「「了解ニャ!」」

マサキの行動に同意するかのようにシロとクロはハイファミリア時の小型のビット状態になりサイバスターの近くに寄る。
そして攻撃しようとした次の瞬間であった。

・・・させん・・・!
『!?』

今まで停止状態であったヴァルシオンが動き出しアイオリア機を掴んだのだ。
その行動にマサキ達は勿論、アイオリアも驚いていた。

『・・・やっと私の意志通りで動くか。済まなかったな、リューネ。』
「親父!?親父なの・・・。」

ヴァルシオンから聴こえる聞き覚えのある声にハッとなるリューネ。
その声の主から優しく、そして力強い雰囲気が伝わってくる。

『私のコントロール下にする為には一度、機能停止状態にする必要があったのだ。辛い思いさせたな、リューネ。』
「親父!生きているなら今すぐ脱出を・・・。」
『無駄だ。私とヴァルシオンは繋がっている状態だ。脱出しようにもそれが不可能なのだ。』
「そんな・・・。」

ビアンから話されたその事実を聴き、再び崩れ落ちるリューネ。
その様子を黙って見ている事しか出来ないマサキは唇を強く噛む。

『離せ!この死に損ないが!!』
『リューネ・・・顔を上げろ。良く聴くんだ。』

先程の優しい口調とは一転し、厳しい口調になるビアン。
それをただ黙って聴く二人。

『恐らくこの戦いはまだ序章にしか過ぎないだろう。そしてお前達にはまだ辛い事が続くかもしれない・・・だが絶望はしないでくれ。』
「「・・・・・・」」
『お前達はただ唯一の"希望"なのだ。だから私はお前達に遺産を残す。それが私に出来る最後の仕事だ・・・。』
「親父・・・・。」

何故そのような事を言うのか二人――少なくともリューネ――には分からなかった。
そしてそれが何を指すのかを・・・

『私はお前の親であって良かったよ、リューネ・・・』
『貴様・・・まさか!?』
『さぁ一緒に黄泉路へと向かおうか・・・FATES!』

その言葉と同時にヴァルシオンが青白く光り出す。そして次の瞬間・・・・

ドゴォォォォォォォォン!!

ヴァルシオンはアイオリア機を巻き込み自爆したのだ。
威力から考えるにアイオリアは死んだだろう。そしてビアンも・・・・・・。

「嘘だよね、親父?親父・・・ お父さん!!
「・・・・・・」

その爆発を見て涙を流すリューネを横にマサキは先程より強く唇を噛む。
ビアンに託された思いを真意に受けたマサキの目には、新たな決意が秘めていた。

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