青き天体研究所

青き天体研究所

第一話  龍虎激突


リュウセイ君とセイン君が行方不明になったり、フィスがイリスさんと一緒に捜しに行ったり。
そしてブリット君がその後を追うように行方を晦ましたり・・・。
だけど私は待つ事にしました。
帰ってくる場所を守りたい。そう思ったから・・・―――




「ホント色々あったんだよね、あれから・・・」

そう呟きながらクスハは鞄を持って何処かへ向かっていた。
あの戦いからクスハは色々な意味で有名人になってしまった。
その為世間から変な目で見られる事が度々あるのだ。
幾度なくその目に潰れかけたが、それを支えてくれる何時もいてくれた人もいない。
その孤独感がクスハを縛りつけていた。

「何故したんですか、ミズハ先輩。また変な目で見られたんですか?」

後ろから聞こえてきた声に反応し振り向いた。
そこにはクスハと同じか少し下か、それ位の女性が立っていた。
灰色の髪で背中の真ん中辺りまで伸ばしており、ワイシャツにジーンズと簡単な服装をしていた。
クスハはその女性の事を知っているらしく少し笑みを浮かべて話し始めた。

「ううん、ただ色々あったなぁと思ってね。心配してくれてありがとうね、朝月さん。」
「それなら良いんですよ。・・・・・・それよりまた名字でいうんですね。唯で良いのに・・・。」
「朝月さんも私の事名前で呼ばない限り、私も呼びません。」
「はぅ!?それを言われるとは・・・」

そう言って彼女――朝月唯は考え込んでしまった。

朝月唯、彼女はクスハの事を特別視せず、普通に接してくれるマグネイト=テン高等部の一年である。
彼女自身特別な環境で育っていると言う事もあるので本人いわく関係無いらしい。
それでもクスハにとっては唯一心を許せる存在になりつつあった。

「そう言えば朝月さん、今日は何故して学校へ。」
「え~とですね。ちょっと調べ物がありまして・・・。 それに何か嫌な予感が・・・

唯が口を濁した事に少し疑問を抱きながらマグネイト=テンへと進んでいく。

「大丈夫ですよ。」

突然唯が話し出した。

「ダテ先輩もラックフィールド先輩もブルースウェア先輩達もきっと生きていますよ。だから、ね?」
「・・・・・・ありがとう、唯さん。」

恐らくクスハの表情から何かを感じ取ったのだろう。
その励ましの言葉がクスハの気持ちを少し和らげていく。
唯も名前で呼んでくれた事を嬉しそうにしている。
その時何処からか叫び声と悲鳴、更には誰かが咆哮する声が聞こえてきた。

「な、何?今の・・・・・・」
「ハァ、またアイツか。クスハ先輩、ちょっと待ってて下さいね。」

そう言って唯はその声が聞こえてきた方ヘと走って行った。





マグネイト=テン正門前、三人程の男性が少年の周り囲んでいた。
男性全員がナイフ等の武器を所有しており、何時刺してもおかしくない状況である。

「このガキが!正義の味方気取りか、えっ!?」
「正義の味方だぁ?ただ単にテメェ等みたいな腐った大人が嫌いなだけだ!中等部の奴等を脅して金を巻き上げようとする奴がな!!」
「んだと!殺っちまえ!」
「かかってこい雑魚ども!獲物ごときでビビるような軟な教育を受けてねぇ事教えてやるよ!」

そう言って少年と男達の喧嘩が始まった。
ナイフ等の獲物を持っている分、男達の方が有利だと思われたが実際は違っていた。
少年は一般人とは思えないフットワークで男達を蹴散らしていったからだ。
男の顔に少年の右ストレートが綺麗に決まる。

「グブフ!?」
「ヘッ!何故した?やっぱ口だけなのか。」
「このガキ・・・・・・」

男達はその少年を睨みつける事しか出来ない。
少年があまりにも強すぎるからだ。
そしてもう観念したかのように男達が目を閉じたその時だった。

「この馬鹿葵が~!」

女性――唯の声と同時に葵と呼ばれた少年にドロップキックが入った。
見事に腰にクリティカルしたのか葵はその場で悶え苦しむ。

「い、いきなり何すんだよ唯。」
「黙れ!何人様にこんな酷い事をするの!?少しは手加減ってものを・・・」
「状況も分かってねぇのに口出すんじゃねぇ!大体俺が手を上げたのはな・・・」

二人の口論が続く中、男達は懐から何かを取り出しそれを唯に向けた。
そして出した物の引き金に指がかかる。

「!?危ねぇ!」

そう言って葵は唯を蹴り飛ばした。
突然蹴り飛ばされ驚く唯。
そしてそれに関して怒ろうとした次の瞬間であった。

ダスン!

その音が聞こえてきた瞬間、周りに居たギャラリーが一瞬にして静まり返った。
そして音のなった方へ向いた。
その音の正体は男達が懐から取り出した拳銃であった。
唯はそれにしばし呆然とする。

「・・・・・・・・・・・・」
「外したか。次は外さねぇぞ、ガキが。」

男達は再び引き金を指にかけた。
その間葵はずっと睨み続けている。
そして・・・・・・。

ダスン!ダスン!

男達の拳銃が火を噴いた。
だがその弾丸は人に当たる事は無かった。

「・・・たく。人に当たったら何故する気だったんだか。」

そう言って葵はため息をついた。
男達が引き金を引く瞬間、葵は一瞬の内に男達の傍に寄り気絶させたのだ。
気絶する際銃口は空に向いていた為当たらなかったと言う事だ。
見ていたクスハと唯はすぐに葵の下へと向かう。

「大丈夫?怪我は・・・」
「クスハ先輩!勿論大丈夫だぜ。あんな雑魚なんて簡単に・・・」
「馬鹿!怪我したらどうする気だったの!?」

唯は目に涙を浮かべ葵に叫んだ。
葵は急な事でどぎまぎしていたが、唯の頭を撫でる。

「・・・悪かったよ。だから泣くなって。な?」

その間もずっと鳴咽を繰り返す唯。
その様子をクスハは温かく見守っていた。

黒羽葵、彼もクスハの事を特別視しない一人り、彼もマグネイト=テンに通う学生で唯の幼馴染みである。
彼も色々と事情がある為かクスハの事を全く持って気にしていない様子である。
その為クスハはほぼ何時ものように唯と葵と共に行動していた。





その騒動を聞き駆けつけた警察に後を任せ、クスハ達はマグネイト=テンの校門をくぐり書物館へと向かった。
実は現在、マグネイト=テンの本校は半年前の事件が原因で破壊され使用不可能となっているのである。
その為休学措置を取り、それでも勉強したい者の為に無事であった書物館を解放しているのである。
この書物舘には何十何万と言う本が収容されており、無い本等無いとも言われていた。
クスハはその本の中から医療系の本を何冊か選び、葵や唯のいる机へと向かう。
クスハが来たのを確認すると二人とも彼女の持ってきた本の量に驚く。

「よ、良くそんな量の本読めるな。俺なら数秒でノックアウトだ。」
「た、確かに多いですよね。そんなにする必要あるんですか?」
「元々私は医療系に行きたいからね。こんな量で根をあげていられないんです。」
「ふ~ん。やっぱ将来の事、考えているんだな。俺なんてさっぱりだぜ。」

そう言って葵は転た寝を開始した。
勉強すると言う概念を全くと言っても良い彼は単に付き合いとこの書庫舘の環境が転た寝するのに丁度良いとの理由からだ。
もちろんクスハも唯もその事を理解しているので口を出さずに自分のする事を黙々としていくのであった。



そして数時間が経過した頃、

「ふぅ。そろそろ休憩を取ろうか。」
「そうですね。・・・・・・葵、起きて。休憩を取るよ。」

唯の声に反応し物凄い勢いで顔を上げた。
その表情は明らかに眠そうな顔をしている。

「ふぇ?もう終わったのか?」
「休憩を取るだけだよ。クスハ先輩の提案でね。」
「そうか・・・」

そう言って葵は筋を延ばし立ち上がる。
彼を追うようにクスハと唯が立ち上がり、外へと出て行った。





数時間前の空とは打って変わっていた。
今にでも雨が降りそうで雷のような音がゴロゴロと響いていた。

「何だか変な天気ですね。さっきまで良い天気だったのに。」
「確かにそうだな。雷が落ちてきそうだ。」
「・・・・・・・・・・・・」

現状の空模様に関してそれぞれ感想を漏らしていく。
しかしそんな会話はクスハの耳に入ってこなかった。
誰かが助けを求めているような感じがクスハに襲い掛かっていたからだ。

(何この感じ・・・誰なの?)

もちろんその疑問に答えられる人など誰もいない。

「大丈夫か、クスハ先輩。顔色が悪いようだが。」
「そうですよ。何かあったんですか?」

クスハの微妙な変化に気付いた葵と唯は心配そうに顔を覗き込んだ。
それに気付いたクスハは心配をかけまいと笑みを浮かべる。

「大丈夫。気にしないで・・・」

明らかに作り笑いだと分かるのだが本人が大丈夫と言うのだからそれを信じるしか無い。
そう思ってクスハに手を差し出した次の瞬間であった。
青白い光りがクスハ達が居る約500メートルから1キロ辺りに降って来たのである。
激しい音に一瞬、耳が潰れてしまったような感覚に襲われる。

「何だよいったい!?雷なんて聞いていねぇぞ!」
「私に聞かないでよ!私だって分からないんだから。」

二人が口論している間にも雷は落ち続ける。
そして5回目の雷が落ちたとき、その雷に便乗するかのように巨大な何かが地面に着陸した。

その正体は巨大な青い色をした龍であった。
ただし所々に傷跡があり、弱々しい印象がある。
クスハはその青龍の姿を見て思わず絶句してしまった。

「何だあの龍!?」
「だから私に聞かないでよ!」

異常とも言えるこの状態にパニックが起きてしまう。
ただ一人、クスハを除いて。
クスハは青龍の方を向くと、その龍に問い掛ける様に呟いた。

「龍王機、何でこんな所に・・・・・・」
「龍王機?知っているのかアレを。」

微かに聞こえてきた龍王機と言う言葉から恐らくクスハは何かを知っている。
そう思って葵が尋ねようとした瞬間、今度はマグネイト=テンの方から5つの雷が降り注いだ。
そして雷が全て落ち終えた瞬間、巨大な黒い虎が出現した。

「今度は虎王機!?でも色が・・・・・・」
「クスハ先輩?知っているなら教えて下さい。何ですか、あれは?」
「パーソナルトルーパーでも無ければアーマードモジュールでも無い。あんな機体、見たことねぇぞ!」

若干嬉しそうな声で言う葵と真剣な表情をする唯の顔を見る。
そしてクスハの中で何かを決心し話そうとした時であった。
黒い虎王機が龍王機に向かって攻撃を開始したのである。
その衝撃が間接的に伝わってくる。

「戦い始めたぜ、ヲイ!」
「このままじゃ巻き込まれてしまう・・・。葵!クスハ先輩!シェルターに・・・・・・」
「・・・・・・ゴメン。私、行かなきゃ。」
「えっ?」

クスハの言った言葉に疑問を抱き、唯は振り返る。
しかしそこにはクスハの姿は無く、何処かヘ行ってしまったようだった。

「クスハ先輩!?何処へ・・・・・・」
「唯、追い掛けるぞ!クスハ先輩はあの龍の所だ!」
「えっ?うん!」

葵の言葉に従って、唯と葵はクスハを追い掛けた。







そんな中でも龍王機と虎王機の戦いは続いていた。
虎王機はその素早い動きを利用し、龍王機に鋭い爪で攻撃するが、龍王機はその攻撃を最小限の動きで避け爪で攻撃をする。
その攻撃も簡単に避け、虎王機は龍王機にタックルを食らわせた。
龍王機はそのタックルを食らい倒れ込んでしまう。
比較的に町に損害を与えないように戦う龍王機は、動きを最小限にして戦わなければならない。
だが虎王機はお構い無しに攻撃を仕掛ける。
そんな不利な状況であるにも関わらず、龍王機は戦い続けていた。
倒れた龍王機はすぐに立ち上がり口から炎をはく。
だがその攻撃も虎王機は軽々と避け、再び龍王機を倒した。
倒したと同時に虎王機は倒れた龍王機の上に足を乗せ、動けないようにする。
そして虎王機は乗せていない方の足を振り上げ、龍王機にとどめをさそうとする。
何とか抵抗して逃げようとする龍王機だが、虎王機の力が強く逃げる事が出来ない。

「止めてぇぇ!!」

何処からか聞こえてきたクスハの声も空しく、虎王機の腕が振り下ろされた。
その時・・・・

ガキィン!!

「・・・・・・えっ?」

その音と現状を見てクスハは自分の目を疑った。
そこには龍王機と虎王機の間に見覚えのある機体が入り込み、虎王機の攻撃を防いでいる姿があったからだ。

【全く、奴に言われて急いで来てみればこう言う事か・・・・・・】

その声が聞こえてきたのと同時にその機体は虎王機を背負い投げをする感じで遠くに投げた。
突然宙ヘと投げられた虎王機は何もする事が出来ない。
そんな虎王機に今度は何処からか放たれた砲撃が襲う。

ダスン!ダスン!ダスン!

発射された弾丸が全弾命中し、虎王機はマグネイト=テンの方へと吹っ飛んで行った。
虎王機は改築中であった校舎に当たり、校舎は崩れていった。

【まぁそう言わないで下さい。こうして助けられたのですから。】
【確かにそうなのだが私は奴に使われた事が気に食わないんだ。】
【ははは・・・・・・】

笑い声が聞こえてきたと同時に再び見覚えのある機体と声が聞こえてくる。
その声を聞き驚きを隠せないクスハ。
そんな中、クスハを追い掛けてきた葵と唯が現れた。
彼等も突然出てきた二体の機体に動揺していた。

「やっと追い付いた・・・。あの機体はいったい・・・・・・」
「大丈夫。あれは味方だから。」

クスハの言った意味が良く分からないが、その言葉を信じるしかなかった。






虎王機は態勢を整えると突如現れた二体を見つめた。
恐らく隙でもうかがっているのだろう。
しかしその二体はそれを許さなかった。
先程虎王機の爪を受け止めた機体が一瞬で虎王機の近くに降り立つ。

【食らうが良い・・・・・・。この半年で得た力を!】

その機体は二本の小太刀を取り出すと、流れるような動きで虎王機に攻撃を開始した。
その動きを止めようと虎王機も攻撃をしようとするが、その動きに翻弄されて中々当たらない。
その間もその機体は攻撃を止めない。
このままではやられる――そう思ったのか虎王機は衝撃波を起こしその機体を退けよう口を開いた瞬間、

ダスン!!

強力な砲撃が虎王機を捕らえ、撃ち抜いた。
その威力の高さに倒れ込む虎王機。

【甘いですよ?私をお忘れになったんですか?】

虎王機を撃ち抜いた機体のパイロットが呟く。

油断した――悔しさ故か唸り声をあげる。

【そんな声をあげたところで無意味だ。さぁ、覚悟して貰おうか・・・・・・。】

小太刀を持っていた機体が小太刀を突き付ける。
しばらくの間、唸り声を出し続ける虎王機。
そして一度咆哮した後、一瞬の内に撤退した。
その速さから追いかける事が出来ないと思った二体はすぐに龍王機の元へと向かった。




「龍王機、しっかりして!龍王機!!」

謎の二体の機体と虎王機との戦闘が終了した頃、クスハ、葵、唯は龍王機の傍に居た。
龍王機の状態が心配だった事は勿論だが、龍王機の傍に居た方が幾分か安全だと思ったからだ。

「しかし・・・これが半年前、クスハ先輩が乗っていた機体か・・・。」
「あの様子を見るとそのようね。でも生きているロボットなんて初めて見た・・・」

葵と唯は龍王機を見上げながらそう呟く。
実際、二人とも龍王機のような半生体機動兵器の存在を信じていなかったのだ。
そう驚くのは無理も無い話である。
そんな時、先程虎王機と戦っていた二体の機体が現れた。
いきなり現れた事に驚く葵と唯。

【クスハ、それに・・・え~っと・・・兎に角大丈夫のようだな。】
【お久しぶりですね、クスハさん。龍王機の様子は?】
「イリスさん、フィスさん。久しぶりです。龍王機は・・・・」

その二体から聴こえてきた声に答えながらクスハは俯く。
そんな中、葵と唯はクスハの言った"フィス"と言う名を聞いて驚きを隠せないでいた。
そんな様子など関係無いかのように話は続けられる。

【・・・そうか。もうすぐテスラ研のロバート博士等が来る筈だ。それまで何とかしないとな。】
「そうですね。ちゃんとした設備が無くては龍王機は・・・」

そう言って二人の言葉が暗くなっていく。
何も出来ないと言うもどかしさと早くしないとと言う焦燥感に駆られ、まともな思考が出来ずに居た。

【仕方がありません。私達・・・セイ兄が使っていた設備を使わせて頂きましょう。】
「えっ?この近くに設備なんて・・・・ あ。

クスハが何かを思い出したかのように手を叩く。

【そう言う事です。行きましょうか。私達の始まりの場所へ。】

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