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『MISSING』の中の一編『眠りの海』。 崖から飛び降りたものの自殺に失敗して海辺でたき火に当たる私。傍らには地元に住んでいるという少年がいました。私は少年を相手に、死のうとした理由を話していました。 教師だった私は、母親が不倫相手から金を引き出すためにだけ生まれてきた、私生児の京子と関わるようになりました。私も両親が交通事故で他界していて、お互いの孤独を埋め合うかのようにひかれていきました。 しかし、教師と教え子の恋愛は当然学校内で問題になり…。 少年は、京子の秘めた思いと行動を推理して私に 伝えます。京子と私に起こった事故の本当の意味が明かされるのでした。 共に肉親の愛に恵まれず、心に空洞を抱えてしまったふたりの出会い。きっかけは偶然、惹かれ合うのは必然だったのかもしれません。でも、その関係が長く続かないこともまた必然だったのでしょう。 人生には自分の努力ではどうしようもない要素があります。選べない生まれ育ちであったり、大きな災いにつながってしまう小さな過ちであったり。重いストーリーですが、「私」が暗い海に背を向けたことで、これから開ける未来があると信じたいところです。 私と少年は、最後にそれぞれの方向に還ります。 参照元:本多孝好『MISSING』双葉文庫 から『眠りの海』
September 26, 2024
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『翔る少年』は、乾ルカの短編集『あの日にかえりたい』の一編です。 大きな地震の翌朝、目が覚めると、元は見知らぬ海辺の町にいました。 『ぼくのお母さん』の題名で書く作文の宿題。元のお母さんは亡くなっていて、家には新しいきれいなお母さんがいました。その人を決して嫌っているのではないのに、作文はうまく書けなくて。 元は、出会ったオバサンに道を尋ねました。オバサンはたいそうびっくりして、元を家に連れ帰って傷の手当てをして、元の「したかったこと」をしてくれます。 「振り子時計の中で歯車がかちりとかみ合う音がして」奇跡が起こります。少年は作文をしあげ、オバサンは1分1秒も忘れられない思い出を手にします。 「あの日に帰る」ことはできませんが、「あの日から前に進む」ことができる奇跡の1日の物語です。 参照元:乾ルカ『あの日にかえりたい』実業之日本社
September 18, 2024
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ミステリーの世界で「ワトソン」といえば、シャーロック・ホームズの助手たるジョン・ワトソン氏。読者に代わってホームズに質問しては、推理をわかりやすく砕いて説明してもらう役まわりを果たしています。 大山誠一郎氏の『ワトソン力』に登場するのは、自分では推理できないが、周囲半径20m内の人の推理力を驚異的に高める力を持った和戸宋志です。 警視庁捜査1課の和戸は、非番のとき次々に事件に巻き込まれます。それもいわゆる「クローズドサークル」の状況で。 「ワトソン力(りょく)」の設定と都合良く次々に起こる事件は非現実的ですが、本格ミステリーの王道を行く作品です。 連作短編で、どの事件も容疑者が限られる状況で起こっているので、犯人あてではなく、「なぜ、犯人はこんな状況で犯行を行わなければならなかったか」に焦点が当てられます。登場人物たちが次々に素人推理を披露していきます。 ひとりが推理すると、整合しない部分に反論する人が現れ、また次の推理が提示され、最後に誰もが納得する結果に落ちつくという運びです。その過程はパズルを組み立てるよう。 和戸の名前からしてもじりですが、登場人物があいうえお順だったり、地名ももじりだったり、ユーモアまじりの、けれど根は真面目なミステリーです。 参照元:大山誠一郎『ワトソン力』光文社
September 14, 2024
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「曲球る」で「まがる」は相当な宛て字ですね。話の内容が、戦力外通告を受けたピッチャー柳沢に関係するからこその字です。 柳沢の妻、妙子が殺され犯人は逮捕されました。車の中からプレゼントとおぼしき置き時計がみつかりましたが、誰に渡す物だったのか、柳沢にもわかりません。 たまたま、湯川が柳沢のピッチングの画像を解析し、調子のよかった頃のフォームに戻す手伝いをすることになりますが…。 柳沢は、湯川から時計の秘密を聞かされます。そこに込められた妙子の思いは変化球でした。 湯川は言います。ボールの投げ方による変化は科学で解明できますが、どう投げるかは投手次第で、そこに科学の入り込む余地はないと。選手の精神が大きく身体をも左右するとも。 妙子の最後のプレゼントを、柳沢はしっかり受け取りました。柳沢選手の手から白球が繰り出され…。 参照元:東野圭吾『ガリレオ8 禁断の魔術』文藝春秋社 から 『曲球る』
September 10, 2024
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「時効まであと40日」 涼子はOL時代の同僚、秀美を思い出していました。秀美は、恐ろしくくじ運がいい女でした。恋敵の女性を殺害しながら、15年という年月を逃げ通せる運があるくらい。 まもなく時効を迎えて会いに来るであろう秀美、そのとき彼女は涼子にあることを要求するはずでした。(殺人罪の時効は15年→25年に延長され、現在では公訴時効は廃止されています。) くじ引きで当たる確率は、先に引いても後に引いても数学的には平等です。でも、世の中には、運のある人とない人がいる、これもまた実感します。 もっとも、宝くじの高額当選者がその後めでたし、めでたしで幸せになれるかというと、必ずしもそうではないようです。中には身を持ち崩したり、お金目当てで集まってくる人たちに辟易となることもあるので。 秀美も超ラッキーガールでしたが、新津きよみ氏の作品ですから、素直にめでたし、めでたしとはいきません。はて、秀美と涼子の運命は…? 参照元:日本推理作家協会・編『Doubt きりのない疑惑』講談社文庫 から 新津きよみ『その日まで』
September 6, 2024
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警視庁の大迫警視は、新宿の書店で、かつてハイジャック事件で知り合った、ニックネーム座間味くんに再会しました。1本筋の通った彼の態度に好感を持っていた大迫は、声をかけて飲み友達になります。 『心臓と左手』は、飲みながら大迫が語る過去の事件に、座間味君が鮮やかな推理を返す連作短編集です。 『心臓と左手』 新興宗教団体の拠点になっていた家で、血まみれの男女3人と左手が切り取られ、胴体を切り開かれた死体が発見されました。3人は教団の幹部、死体は教祖のものでした。 教祖は、左手をかざすことで、念派治療を行っていたようです。教祖の死後心臓を食べたものが教祖の力を引き継ぐという遺言に従って、3人の幹部が死体を切り開き争った事件でした。 切り取られた左手の意味も、神聖な手の力にあやかるためだったのか?否、さらに恐ろしい意味が…。 教祖は、手をかざすことで病気を治せるという触れ込みでしたが、偽薬効果と生活改善の勧めによって、症状の改善があったとみられます。「信じる者は救われる」は、ある状況では真実です。 座間味君は、話を聞いて違和感を感じた点を挙げていきます。すると、事件は全く異なる様相を見せるように。切り口は鋭く、確かに「あれ?」と思った点を突いていきます。 事件の真実を暴きながら、その罪を問うことが果たして正しいのか、と座間味君は問います。これも鋭い。 しかし「あっ」…最後にオチがつきます。 参照元:石持浅海『心臓と左手』カッパ・ノベルス 光文社
September 3, 2024
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ハンター&ハンター探偵事務所のぼく、エドと伯父は、姿を消した息子を捜してほしいという農場主ニールソンの依頼を引き受けました。 ぼくは、息子アルビーがくびになった書店や住処、友人に恋人を訪ねて話を聞いて回りました。アルビーが蓄音機や服をトランクに詰めて持ち出したらしいことからロスにでも行ったのでは、と恋人ハニーは推理します。 エド・ハンターものです。 エドは身体を張って調査にあたり、ある疑惑から真相に近づきます。疑いを持った相手にひとりで突撃したエドは、ピンチを切り抜けますが、まさかの推理の誤りに気がつきます。 後から警察と共に来た伯父はエドの活躍をねぎらってくれますが、「そうだね」「そうだね」…しか言えないエドです。 参照元:フレドリック・ブラウン 小森収・編 越前敏弥ほか・訳『死の10パーセント』 創元推理文庫
August 29, 2024
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ミステリーのフルコース短編集『死の10パーセント』から魚料理『女が男を殺すとき』を。 伯父と「ハンター&ハンター探偵事務所」を営むぼくは、狭心症を患うオリヴァーの依頼を引き受けました。妻が自分を殺そうとしているので、異母弟のふりをして探ってほしいという依頼でした。 ぼくが、オリヴァー宅に滞在して調査している間に、オリヴァーは狭心症の発作を起こしてしまします。あるはずの薬はなく…。 生活の保障と世間体を手に入れた妻は離婚に応じず、夫は夫で愛人との間に子どもがいます。新しい遺言状に、愛人と子への贈与が書かれたことから、事態は悪い方へ。絵に描いたようなどろどろの関係ですね。 一筋縄ではいかないところが、フレドリック・ブラウンの短編。殺人の疑いから二転三転、テンポよく話は進みます。 香味野菜が効いた魚料理です。最後は、めでたし、めでたしというところ…でしたが、オチがつきました。 語り手の「ぼく」ことエドとアム伯父のコンビは『シカゴ・ブルース』から登場しました。「エド・ハンターもの」晩年の一編。 参照元:フレドリック・ブラウン 小森収・編 越前敏弥ほか・訳『死の10パーセント』 創元推理文庫
August 27, 2024
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おれ、ラルフはダニーと共同で中古車販売場を経営しています。ダニーはトランペット、おれはサックスを吹いてバンドを組んでいましたが、1年前に商売を始める時、もうプロとして演奏はしないと取り決めていました。 ダニーが誰かに襲われる事件が起き、昔なじみのバンドのサックス奏者が殺される事件まであって、おれは代理でサックスを吹くことになりました。 そして、また事件が…。 なぜ、ダニーが襲われ、サックス奏者が殺されたのか、動機は意外ですが、納得できます。緻密に組み立てられたミステリーに舌鼓を打つこと請け合い。 アンドルーズ警部補が俺に運転させ、車を飛ばして販売場に向かうシーン、最後の警部補の語りは緊迫感がびしびし伝わってきます。警部補の、見えない犯罪に対する怒りも。 最後の一口まで味に手を抜かないローストミート。三人の背後でドアが閉まった。完全に 参照元:フレドリック・ブラウン 小森収・編 越前敏弥ほか・訳『死の10パーセント』 創元推理文庫
August 25, 2024
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フレドリック・ブラウンの短編から小森収が編集した、ミステリーのフルコース短編集が『死の10パーセント』です。 オードブルは『5セントのお月さま』口当たりの良い1品です。 「5セントでお月さまを」ー真夏の夜のミシガン湖のほとりで、月に向けた望遠鏡をのぞかせる商売をしている小男がいました。 黒いソフト帽の男が1ドルを出し「木のあたりでも散歩してきたらいいよ」と言います。男が覗いたのは月ではなく…。 小男は好奇心から、怪しい男の見た物を知ってしまい、事件に巻き込まれることに。なかなかスリリングな展開です。オードブルらしい、重すぎず、しゃれた味わいの作品です。ラストはほっこり。 参照元:フレドリック・ブラウン 小森収・編 越前敏弥ほか・訳『死の10パーセント』 創元推理文庫
August 23, 2024
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「超能力を信じますか?」 東野圭吾が生んだ物理学名探偵、湯川准教授は「信じるに足る証拠の存在を知らない」と答えます。 ガリレオ・シリーズの短編は、宛て字の題名が特徴です。『透視す』と書いて「みとおす」と読ませます。 草薙に誘われたバーで、湯川は透視ができるという触れ込みのホステス、アイに会います。彼女は、黒い封筒と巾着の入れた名刺を透視してみせます。 それから4ヶ月後、アイは遺体になって見つかります。なぜ彼女が殺されたのか?透視能力は本物だったのか? たまたま関わった湯川が謎を解いてみせます。 殺伐とした話の中、なぜアイがホステスになったのかという推理が救いです。 参照元:東野圭吾『ガリレオ8 禁断の魔術』文藝春秋社 から 『透視す』
August 19, 2024
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原稿を受け取るために、作家の辻村園子を訪れた入江伸子は、赤ん坊を抱いて人生相談に押しかけた若い女性に出くわします。 彼女に対する辻村のアドバイスは「あなたの選んだことはあなたが最後までやりなさい。ただし、子供を道具にしてはいけない」。 翌日、伸子は刑事の訪問を受けました。若い女性は自宅の部屋で殺され、赤ん坊は行方不明だというのです。 伸子は、赤ん坊のために怒り、心配し、奔走します。事件が解決すると、最後まで自分の選択に責任を持つことのできなかった女性を、絶対わかりたくないと考えます。 辻村の忠告にも、伸子の怒りにも同調できます。 岡嶋二人の短編集『ダブル・プロット』から。 岡嶋二人は、ペンネームそのままの2人の共著によるミステリー作家です。1975年デビュー、1989年解散後、徳山諄一氏は逝去されましたが、井上泉氏は井上夢人のペンネームで活躍中です。多彩なテーマ、豊富なアイディアで知られます。 1989年刊行の単行本を文庫化した短編集ですが、30年以上経て色あせない内容を持っています。 参照元:岡嶋二人『ダブル・プロット』講談社文庫
August 15, 2024
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著者はジャズ・サックス奏者としての顔も持つ作家さんで、演奏の場面は高揚感に満ちています。ジャズなどわからない私でも、聴いてみたいと思わせる文章です。 「私」のジャズバンドは、ジャズファンで自宅にライブ・スペースを持つ金満家、角山氏に招かれ演奏することになりました。そのスタジオからは、よく楽器がなくなる事件が起きていました。 ライブの前、なんとスタインシュタインのグランドピアノが消えてしまいました。 スタインシュタインは、架空の名ピアノメーカーのようです。スタインウェイのグランドピアノは私も目にしたことがあります。世界三大ピアノメーカーが、スタインウェイ&サンズ、ベビシュタイン、へーゼンドルファーだそうなので、スタインウェイとベビシュタインからの命名でしょう。(どうでもいいですが) 楽器の擬音が独特で、「ボギャオエッ」ってどんな音なんでしょうか。「ドブッ、キシャ、ギシュシュシュシュ…」って?? さて、探偵はサックス奏者の永見(ながみ)。演奏しながら、音を手がかりにグランドピアノが消えた謎を解きます。事件解決のコーダも心地よく耳に響きます。 参照元:日本推理作家協会・編『spiral めくるめく謎』講談社文庫 から 田中啓文『渋い夢』
August 11, 2024
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昔TVで放映していた刑事コロンボを楽しみに見ていました。犯人は冒頭でわかってしまいます。ですから、見所は犯人とコロンボの頭脳戦です。お金も社会的地位もあるぱりっとした犯人が、よれよれのレインコートがトレードマークの冴えない刑事に追い詰められていくギャップが愉快でもありました。 そのコロンボと同じように、しつこく迫って犯人を追い詰める乙姫刑事が登場する短編集2冊目が『世界の望む静謐』です。 乙姫刑事の外見は、コロンボとは全く異なります。「痩せて背が高く、黒いスーツに黒っぽいネクタイ。猫背の身体全体から漂う陰気な空気感。げっそりと痩けた頬に青白い顔色。表情の感じられないガラス玉みたいな目が落ち窪んだ眼窩に嵌まっている。」容姿は、「死神が来た」と犯人をおびえさせます。 表情のない顔で、お世辞や冗談を交えながら、次第に犯人を追い詰めていく乙姫刑事を想像すると…恐怖です。モデル並のイケメンで、なんやかやと言われても常に平静な相棒の刑事も、ちょっと怖い。 逮捕に至った犯人は皆、潔く負けを認めます。「さすがに本職はたいしたものですわ。エレガントですわ」「まいったなあ。それじゃあ逃げ切れるわけがない」「完敗ですね」「脱帽だ、シャッポを脱ぐ」幕切れの爽やかさもコロンボばりです。 参照元:倉知淳『世界の望む静謐』東京創元社
August 5, 2024
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岡目八目…事の当事者よりも第三者のほうが情勢を正しく判断できること。←囲碁からで来た言葉で、実際に打っている人より、傍で見ている人のほうが八目先をよめるという意味から。 乾ルカの短編『岡目八目』は、ちょっとしたミステリーを「私」が解きます。でも、「私」は既に死亡していて、お棺の中。魂が自分の葬儀を眺めている状態です。人の声は聞こえても自分から話しかけることはできません。 ホラーな設定ですが、怖い要素は全くありません。自らの死を受け入れ、周囲の人たちに感謝している「私」の魂には恨みも心残りもありません。 まさにおしゃべりしている人たちより、聞き役の岡目八目の「私」のほうが秘密に近づいてしまったというだけ。 看護師ならではの気づきが新鮮でした。 参照元:乾ルカ『奇縁七景』光文社 から『岡目八目』
July 27, 2024
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「殺人者が、その罪を潔白な者に押しつけようとする場合…」といきなり物騒な言葉から始まる短編。 ヴァイオラ・ロバーンが殺され、遺産を受け取る従兄弟チャールズに殺人の容疑がかかります。明らかな動機と、発射されたチャールズ所有の拳銃が見つかっていることで、ほぼ犯人と目されたのですが…。 迷宮課シリーズで有名なロイ・ヴィカーズの本格推理短編。誰が誰に罪を押しつけようとしたのかが最後に暴かれます。 学究の人を巧みに結婚へ持って行く魅惑の女性、結婚より未開の地での研究を選択した男、教師として女性の信頼を得てきた女、犯罪の動機も凶器についても隠し事のないあっけらかんとした男、それぞれの人物の持ち味も生きています。 プロットも面白く、読ませます。 参照元:ロイ・ヴィカーズ 尾坂力・訳『罪なき者を捜せ』 グーテンベルク21デジタルブック から『殺人者はいつも』
July 23, 2024
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自転車ロードレースのチーム・オッジに所属する俺は、エースの石尾のふるまいに違和感を感じていました。彼は実力も才能もあるのに、周囲と壁を作り過ぎるのでした。 11月の沖縄ツアーを目指す石尾が2回続けてリタイアするという事件が起こりました。 チームメイトの嫉み?誰かの恣意を感じて俺は調べ、推理します。 ミステリーとしての面白さは言うまでもなく、登場人物の心境描写の細やかさに惹かれる一編です。 30という選手としてピークの歳をすぎようとしている俺の心の揺らぎ、エースらしくふるまえない性格を自覚する石尾と、移籍後頭角を現してきた安西の屈託した思い、それらが絡んでほどけていきます。 ロードレースは、エースをゴールさせるため、アシストは風よけとなり、ホイールを差し出し、自らはゴールできなくても全力でサポートする競技です。それができるのは…。 「おまえにはわかるのか」石尾に迫る俺の言葉が響きます。 参照元:『Story Seller2』新潮社 から近藤史恵『レミング』
July 13, 2024
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焼け野の雉夜の鶴…巣を営んでいる野を焼かれた雉は、残してきた雛を思って必死に野に帰ろうとする。巣の鶴は、霜の降りる寒い夜にも自分の羽で雛を覆って暖める。白居易の『五弦弾』が出典の故事。子を思う親の心をいう。 乾ルカの『夜の鶴』のテーマは題名そのもの。 宮崎のプチホテルでバイトリーダーを務める田中は優秀なのに、2回も正社員雇用を断ってきました。社長は今度こそと、人事担当の塩谷に交渉させます。 塩谷は、田中の人となりを知ろうと、バイトの後輩、マッサージ師、厨房責任者から話を聞き取っていきます。 聞けば聞くほど、田中の謙虚で真面目な人柄が浮かび上がってきます。ですが、どうも田中には秘密があるようで…。 田中の人柄を証言するエピソードの中に伏線がしっかり張られています。胸をつく話ですが、温かな人の情が伝わります。 参照元:乾ルカ『奇縁七景』光文社 から『夜の鶴』
July 9, 2024
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法月綸太郎『赤い部屋異聞』は、乱歩、アイリッシュ、クレイグ・ライスらの作品へのオマージュ短編集です。 乱歩の『赤い部屋』をアレンジした『赤い部屋異聞』は、シュークリームのフィリングが乱歩の原作そのままで、トッピングで味にアクセントを加えたというところ。乱歩のフィリングの味わいがうますぎて、トッピングのほうはどうでもいい感じ。(ごめんなさい)乱歩作品は、独特な不気味な表現にも惹かれます。 乱歩の偉大さを改めて思いました。のび太・「赤」 『砂時計の伝言』はいいなと思いました。アイリッシュの短編『一滴の血』へのオマージュだそうですが、オリジナルとはまた違ったテイストに仕上がっています。原作の倒叙ものの緊迫感も生かしながら設定がアレンジされているのが魅力。証拠としての「一滴の血」の伝えるところも、異なるストーリーの中に生かされています。主人公のやさしさが垣間見られる幕引きも好きです。 他の著者からお題をもらって書き継ぐ、リレー・ミステリーの一編として書かれた『まよい猫』も楽しく読めました。最後は思わず頬が緩んでしまいました。 『最後の一撃』も最後の行で一撃されます。 全体に彩り豊かで、興味深く読めました。紹介されている先達の作品も、読んでみたくなります。 参照元:法月綸太郎『赤い部屋異聞』KADOKAWA
July 6, 2024
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アンソロジー『注文の多い料理小説集』は、そのものずばり、料理がテーマの短編集。グラスワインと鮨のマリアージュや、琺瑯(ほうろう)の鍋で炊くご飯、温かな家庭料理に季節の和菓子まで、何でもそろっています。 柴田よしきの『どっしりふわふわ』のメニューはパンです。 パン職人を目指した朋子は、あきらめて専門学校の講師になったものの、経営に関わるようになってから心身ともに疲弊しきって郷里に帰ってきました。 生徒だったヒロとの恋愛も自ら捨てた朋子でしたが…。 50という年齢は新しく何かを始めるなら、最後のチャンス。60過ぎたら、お金を使い、体力を使って新しいことに挑戦するのは難しくなります。まず老後の安泰を考えてしまうから。 朋子は一歩踏み出せるでしょうか。 朋子の故郷は百合が原高原。カフェ・ソン・デュ・ヴァンのオーナー菜穂子が登場しますが、『風のベーコンサンド・高原カフェ日誌』の主人公、菜穂子です。 最後のほうで、「え?やられた!」と思うこともあり、やはり柴田よしきはミステリー作家なんだ、と感じ入りました。 参照元:『注文の多い料理小説集』 文春文庫 から 柴田よしき『どっしりふわふわ』
July 4, 2024
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平和に暮らしていたファンショウ夫妻の元に、夫ジュリアンに生き写しの人物が現れました。 その男は、夫のふりをして妻と一緒に外出したり、伯父から小切手をせしめたりするのでした。妻は、夫と瓜二つの人物が来ていたオーバーコートの生地が、いつもの夫のコートと違うようだと気がつきました。 男の思惑は…? 世の中には自分に似た人物が3人はいるとか。会ってみたい気もしますが、会うのが怖いような気もします。ましてや相手が犯罪者だったら会いたくはないですね。 妻のエルザは夫に、「あなたがジュリアンだってことが、どうしてわたしにわかって?!」と二度も言ってしまいます。そして、疑心暗鬼になった妻の行動が犯罪の立証に一役買うことになります。 サートル警部の最後の言葉がスパイシーです。 参照元:ロイ・ヴィカーズ 尾坂力・訳『罪なき者を捜せ』 グーテンベルク21デジタルブックから 『二重像』
June 24, 2024
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ちょっと見丸顔の美人なのに、大阪の下町育ちで言葉も行動もがさつという、竹内しのぶ先生の登場です。 6年5組、しのぶ先生の受け持ち生徒、福島友宏の父親が殺害されるという事件が起きました。 母親が、金を持ち出して軽トラで出ていく父親を止めるところが目撃されていました。その後しばらくして離れた場所で父親は亡くなったらしいので、家族のアリバイは成立していました。 しのぶ先生には気にかかることがあり、友宏を訪ねます。 しのぶ先生の推理が冴えています。生徒のことをしっかり見てあげられる先生であることも伝わり、軌道を外れた行動も、読んでいて小気味いいです。 ハイヒールの使い方は間違っているような気もしないではありませんが…。 屑みたいな大人もいますが、子どもたちには真っ直ぐ生きてほしいですね。 参照元:『短編ミステリー・コレクション② 名探偵より愛をこめて』講談社 から 東野圭吾『しのぶセンセの推理』
June 18, 2024
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時間を扱ったSFといえばタイム・マシン。ロバート・アーサー描く大金持ちで科学オタクのジェレマイア・ジュピターは、タイムマシンで過去に行き、その証拠を残してくることを思いつきますが…。 ぼくは、ジュピターにピクニックに誘われ、彼の持ってくるピクニック・ランチにつられて承諾してしまいました。夕方の編集者との打ち合わせに間に合うならとでかけましたが、なぜか彼は3匹のチンパンジーを連れ、曲芸を教え込んでいたのです。のび太・画 ジュピターは「時間とは律動的(リズミカル)なエネルギーである」との持論に立って逆律動(カウンター・リズム)によって現在の時間を相殺して過去の時間を得る装置を考え出しました。 なるほどと同意してしまいそうな理論に、共振器という格好いい小道具まで登場しますが、チンパンジーを使うやり方には笑ってしまします。 しかも、過去へ遡ることには成功したものの…、ドタバタ喜劇の展開に。 時間を超えることは一筋縄にはいきませんね。最後のオチまでお笑いです。 ユーモアSFを集めた『SFカーニバル』の中の1編です。 参照元:フレドリック・ブラウン、マック・レナルズ編 小西宏・訳『SFカーニバル』 グーテンベルク21デジタルブック
June 10, 2024
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警視庁サイバー犯罪対策課のトッコこと徳子と豊は、「beans song」と名乗るハッカーの足取りを追って、電話を持たずほとんど自給自足で暮らす布良宅を訪ねてきました。 5月に栗林という偽名で滞在したらしいのですが、なぜここに? 義賊ハッカーのような設定と、「beans song」が残したメッセージのトリックが面白いです。豪放なトッコの性格も新鮮。 福田氏は、航空謀略サスペンスでデビューしたミステリー作家。 参照元:アミの会『11の秘密 ラスト・メッセージ』から 福田和代『そのハッカーの名は』
May 29, 2024
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絵茉は地元の旧家「鷹宮」家の傍流になる「末宮」家のひとり。 地元の歴史に興味を持った高校時代の先輩、拓人から「鷹宮家四訓」について聞きたいと言われました。この家訓には五つめが存在したというのです。 絵茉と拓人は、祖父に話を聞き、そこから本家の当主、二代目当主の娘の多加子さんへと五訓の行方をたどっていきました。 四訓を要約すると「一.傲慢の戒め 二.難事での礼節 三.勤勉の勧め 四.他者との和を尊ぶ」という、ある意味ありきたりな当たり前の内容でした。四訓の額は、本家旧宅(有形文化財指定)の応接間にあり、分家、傍流の者に至るまで、七五三や成人式といった節目に目にするといいます。 母の田舎では、祖母宅が分家で、大きな事があると本家に挨拶に行くということがまだありましたが、今はよほどの旧家でないと、本家・分家などと言わないですね。 五つめの家訓の内容は?その五訓が公にされずにいるのはなぜ?というのがミステリーです。死を覚悟した人からの心からの願いが、五訓めにはこめられていました。文面は「はぁ?」で、背景を知って初めてすとんと心に響いてきます。 参照元:『11の秘密 ラスト・メッセージ』アミの会(仮)ポプラ社 から 大崎梢『もうひとつある 鷹宮家四訓』
May 25, 2024
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レイ・ブラッドベリはSF作家と言われますが、むしろダーク・ファンタジーともいうべき作品を多く遺しています。 『未来を救った男』は、物語が終わった後の主人公を考えるとダークかもしれません。 作家のスティーブの部屋に、銀製のタイプライターが忽然と現れます。ローラーには上質な用紙も挟んであり、深紅のキーボードが並んでいました。さらに驚いたことに、手も触れないのに、タイプライターが勝手に印字を始めたのです。 西暦2442年の未来に棲むエレン・アボットと、500年の時を挟んで、スティーブはタイプライターを介して会話することになります。(今でしたら、パソコンを介してとなるところですが。)このあたりはSFらしいSFです。 タイプライターは日本にもありましたが、西洋ほど普及しませんでした。アルファベット26文字(大文字・小文字の別で52文字)+記号で事足りる英字と異なり、平仮名・片仮名に漢字が加わる和文タイプライターは、誰もが手軽に使えるとはいかなかったのです。 エレンは2442年現在の独裁社会を変えてほしいと、スティーブに依頼します。その方法は…。 「人生には〈もしも〉が多い。」時の分岐点に立ったスティーブが選んだ先には何が起こるのでしょう。 参照元:レイ・ブラッドベリ 仁賀克雄・訳『火星の笛吹き』グーテンベルク21
May 17, 2024
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世田谷区野沢~三軒茶屋と目黒区自由が丘が舞台のミステリー。よく知っている場所が出てくると読みたくなります。昔ながらの面影が少し残る自由が丘 北海道の同じ高校出身の、ダンサーのかおるとフリーライターの真由子はルーム・シェアして助け合って生活しています。真由子に恋人洋平ができてちょっと面白くないかおる。 真由子の彼は奥さんと離婚協議中だったのですが、真由子の元へ向かう途中バイクで事故を起こして亡くなってしまいました。 かおると真由子は三軒茶屋の洋平の家をそっと訪ねてみます…。 貢ぎ体質の真由子は、何の関係もない洋平の母に同情して、何かしてあげたいと言い始めます。大反対のかおるでしたが、突然思いついて一肌脱ぐことにします。 一途で情の深い真由子と、大胆で頭も切れるかおるは、いいコンビですが、2人そろうととんでもない行動に。かおるは、事故だと思われた裏に潜む黒い殺意を見抜きます。 危ない2人を、飲み仲間の警官タケちゃんがサポートして、事件の真相が白日の下へ。 テンポよく読める短編ミステリーですが、トリックは本格派です。 参照元:『短編ミステリー・コレクション② 名探偵より愛をこめて』講談社 より 山崎洋子『その夜、死はウィンクした』
May 13, 2024
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ミステリー、SF、ホラーと多彩な内容が詰まった竹本健治の短編集『フォア・フォーズの素数』の最後を飾る一編が『銀の砂時計が止まるまで』です。 祖父を亡くしたボクは、この星でたったひとりの住人でした。 ボクの空想の中で、時間の神様は、きれいな女の人でした。ある日、ボクはお気に入りの岩浜に座って海を眺めた帰り道で、海辺で倒れている女の人をみつけました。彼女は、思い描いていた時間の女神そっくりでした。 ボクの介抱で彼女は意識を取り戻し、一緒に暮らし初めますが…。 孤独の悲しみが、ひたひたと押し寄せてきます。出会いと別れは、ずっとひとりだった時以上の寂しさを置いていくのです。 この短編集全編に、取り残されていく少年の孤独が色濃くにじみ出ていますが、とりわけこの作品は胸に迫るものがあります。 少年の星の秘密には伏線も張られていて、うまく構成されています。海も空も、嘘のように青くひろがっていた。 少年の視点から書かれたストレートな文章が、きらっとした言葉がそのまま届く作品です。 参照元:竹本健治『フォア・フォーズの素数』角川書店 から『銀の砂時計が止まるまで』
May 3, 2024
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石持浅海の連作短編集『温かな手』は、人間離れした…はっきり言うと人間以外の名探偵ギンちゃん、ムーちゃんの活躍を、そっれぞれの同居人の視点から描きます。 ギンちゃんとムーちゃんは、手を握ったり肩に触れたりすることで人からエネルギーを吸い取り、栄養にするという種族。 長身で整った顔立ちの青年ギンちゃんの同居人は、大学研究室に勤める寛子。小柄でかわいい女子大生ムーちゃんの同居人は、サラリーマンの匠。 二人は無垢な精神と清廉な生命エネルギーの持ち主で、余分なエネルギーを吸い取ってもらうことで、健康でスリムな体型を保っています。恋愛感情はなくても、関一緒に暮らしているうちに情が通い合う関係に。 推理の面白さに加え、ちょっと悲しく温かい人間(ではないか)関係のお話。存在の悲しさは、萩尾望都の『ポーの一族』を思い出します。 参照元:石持浅海『温かな手』東京創元社
April 30, 2024
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とにかく主な登場人物が多いのです。外国のミステリーだとなかなか名前が頭に入ってこなくて、登場人物のページをひっくり返して見ながら読み進むことが多いのですが、日本の作品では初めて。主な登場人物32人!こんがらがります。 ミステリーとして面白いし、登場人物の性格設定も好きだけど、もう少し絞ってほしかったと思います。 探偵事務所の調査と、警察の捜査の場面が交錯して進み、犯人側のデータが入り込む複雑な構成の割にはわかりやすいので、事件と関わる人物を減らせなかったかな、と残念。 ヒロインは好きです。有能すぎるスタッフに囲まれ、自信のないヒロインですが、所長代理を任せられるだけの人柄はあると思います。癖のある周囲の人たち誰からも嫌われず、助けてあげたい、力になりたいと思わせる人柄なんでしょう。 映像化したらインパクトのあるだろうと思うラストでした。 参照元:柴田よしき『青光の街(ブルーライト・タウン)』早川書房
April 22, 2024
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ちょっとした好奇心から立ち寄った金物屋で、ジュールは細長い青のパステル調の蝋燭に目を留めます。灯がともってもいないのに、それは自ら発光していたのです。 店主はジュールに「愚か者は銃を使い、賢い者は蝋燭を点す」と語りかけます。灯をともし、その焔に向かって死んでほしい人の名を唱えると、思いの通りになると店主は言います。 日本でも、蝋燭は呪術の儀式に使われます。蝋燭は人間、その焔は命を表すからです。西洋でも同じ用途に使われるのですね。 恨む相手がいるジュールは、無理矢理蝋燭を手に入れて、呪いを実行するのですが…。「賢い者は蝋燭を点す」とはいかなかったようです。 短編『青い蝋燭』は、レイ・ブラッドベリが売れ始めたころの作品です。ダークで皮肉な小品。 参照元:レイ・ブラッドベリ 仁賀克雄・訳『火星の笛吹き』グーテンベルク21☆蝋…ロウ ☆燭…ソク、ソク、ともしび
April 18, 2024
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大学病院の救命救急センターに運び込まれた頭部外傷を負った少年は、何らかの事件に巻き込まれたようですが、記憶がありませんでした。居合わせた幼馴染みの少女と祖母の目撃談は全く違っていました。認知症による幻覚と思われるのですが…。 センターの医師たちがこぞって推理する中、少年を担当した西丸が現れ、少女の母親に確認して謎を解いてしまいます。(『幻覚パズル』) 救急科医長、診断の天才と言われる西丸豊の通称は「臨床探偵」。彼は、他の医師が見抜けなかった病を解き明かす特異な才能に恵まれていました。『臨床探偵と消えた脳病変』は西丸が、病気とそれに伴う謎を解く連作短編集です。 『幻覚パズル』では、少年の容態は安定していて、それより目撃者たちの証言が食い違っていることが大きな謎になります。 少女の母の証言から、祖母は認知症による幻覚を見たのではないかとされたのですが、そんなにはっきり幻覚が見えるものなのか?が医師たちの関心を引きます。さらに、犯人がどこからどう逃げたのかという謎が残ってしまいました。 レビー小体型認知症がテーマになっていて、きちんと説明が書かれています。ミステリーの伏線もこの中に張られています。 レビー小体型認知症は認知症の二割を占める進行の速い認知症です。 初期から非常にはっきりした幻覚が現れ、人や動物が家に入ってくる様子をはっきり見るそうです。 睡眠中の異常な行動(レム睡眠中に骨格筋緊張が抑制されないことから、夢内容の精神活動がそのまま行動に出てしまい、寝言、大声で叫ぶ、体を大きく動かす行為がある)も起こります。 著者は現役の医師なので、作り物ではない症状を忠実に伝えてくれます。知識のない読者にも必要な知識を丁寧に説明してくれ、ミステリーとしてもフェアです。 病気の診断に留まらず、病気を巡る、母の思い、夫婦の思い、患者と関わった医師の思いが描かれ、無味乾燥な話に終わりません。 『幻覚パズル』も少年の曇りのない心があって読後爽やかです。 参照元:浅の宮遼『臨床探偵と消えた脳病変』創元推理文庫から『幻覚パズル』
April 16, 2024
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アルマが恋した相手は既婚者の歯科医師、ウォルター。 ウォルターの妻は、金持ちだけれど売れなくなった舞台女優のリディアです。旧知のチャップリンを頼ってアメリカで映画女優に転身する決意をしたリディアは、ウォルターの制止に一切耳を傾けず、家も歯科医院も売り払い、アメリカ行きの客船モーリタニア号を予約してしまいます。 アルマとウォルターはリディアを船の甲板から落として殺害する計画を立てますが…。 事態はどんどん意外な方向に進んでいきます。ウォルターは偽名を名乗ったばかりに、高名な引退した警部に間違われます。上流階級の青年と、彼に娘をめあわせたい資産家の母と、ペテン師たちも船に乗り合わせて話は複雑に。高圧的なリディア、恋愛小説が人生の指南というアルマ、主体性に欠けるウォルター、さらには脇を固める登場人物の性格も癖が強めで、演劇や映画を見るようです。 次々に話は展開してテンポよく進みますが、実は冒頭から伏線が張られていたのだと後から気づきました。 時代はチャップリンが活躍したころで、クリッペン事件が人々の記憶に新しいころ。 クリッペン博士は、妻コーラ殺害の罪で死刑に処せられました。実在のデュー警部が、コーラの死体を発見し、愛人ル・ネーヴと共にモントローズ号で逃走したクリッペンを逮捕しています。 あきらめて、デューとして船上の殺人事件の捜査に当たることになり、飄々と証言を引き出すウォルターには笑わせられ、人々が織りなすドタバタ劇にも味があります。 最後はハッピーエンドと言っていいか…。 参照元:ピーター・ラヴゼイ 中村保男・訳『偽のデュー警部』ハヤカワミステリー文庫
April 12, 2024
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「虫が好かない」…具体的に理由や原因を説明できないが、何となく好きになれない、気に入らない。 乾ルカの短編集『奇縁七景』は、よく使われる慣用句をちょっとひねったお話。 一編目は「虫が好かない」。 「自然と親しみ、農作業を手伝いながら、好き嫌いをなくして健康な心と体作り」プロジェクトに、親の手配で参加させられた純也と2人の中学生。やり方さえ適切であればすばらしいプロジェクトのはずでしたが、中身は…。 ひとりの人間に牛耳られる村社会は怖いですね。ついに、犯罪が起こってしまいます。「虫が好かない」オチには笑ってしまいましたが、ぞぞっとする話です。 参照元:乾ルカ『奇縁七景』光文社 から『虫が好かない』
April 5, 2024
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以前読んだイメージではもっと重厚なイメージでしたが、意外にテンポよく読めました。 I&C海運会社の青年事務員ブロートンは、入港した船から積み荷のワインを降ろすのに立ち会いました。 バランスを崩したワイン樽が落下し、ほかの樽と異なる頑丈な作りの樽が破損してしまいました。慌てて確認すると、金貨が出てきて、さらに死体とおぼしきものの手が…。 序盤からセンセーショナルで引きつけられます。その後、樽を引き取った荷主の怪しい行動、加えて樽は盗まれて…、と追跡劇が続きます。 ストーリーの面白さ、美術品運搬用の樽という特殊な入れ物を使ったトリックの面白さは、クロフツの代表作と言われるだけあります。 探偵役の警部や探偵は、真面目でノーマル(いわゆる名探偵は変人が多いのですが)です。時に描かれる背景の描写が、硬くなりがちな作品に風を通してくれます。 4月初旬の、心もうきうきするような午前、…長雨がカラリとあがったときの、あのういういしい光を放ちながら、陽はかがやきわたっていた。 結末はあっさりと書かれていますが、苦労した人には幸福が訪れ、雲間から陽が輝き出すようなエンディングです。 参照元:クロフツ『樽』グーテンベルク21デジタルブック
April 1, 2024
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クロフツの代表作は『樽』『クロイドン発12時30分』ですが、彼の生み出した一番の探偵はフレンチ警部。『フレンチ警部最大の事件』は、その題名の通り、読み応えのある1冊です。 ロンドンのダイヤモンド商会の老支配人チャールズ・デシンが殺され、金庫から10ポンド札とダイヤモンドが消える事件が起こりました。 デシンはなぜ金庫を開けたのか?社長のデューク氏が持つ鍵の複製をどうやって作ったのか?金庫の中身はどこへ? フレンチ警部には、天才的なひらめきも、派手な推理披露のパフォーマンスもありません。こつこつと積み重なる捜査があるだけです。 登場人物も、強烈な個性とは無縁な分、振り回されることもありません。警部が行き詰まったとき、話を聞いて別の角度から思いついたことを話してくれる警部の夫人には、Good jobと言いたくなります。女性が何でも話してしまいたくなる部下も、いそうで面白い。 捜査のためにスイスを訪れる場面など、その土地の景観や街の様子が詳細に描かれていて、内田康夫の浅見光彦シリーズのようです。 キーワードは「変装」。誰がどんな人物に?フレンチ夫人の一言が鋭い。 参照元:フリーマン・ウィルス・クロフツ 長谷川修二・訳『フレンチ警部最大の事件』 グーテンベルク21デジタルブック
March 28, 2024
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O・ヘンリーは、暗号小説やシャーロック・ホームズのパロディーも手がけています。ほかにも、広い意味でミステリーと言える作品もあります。 『お好み料理の春』もコージーミステリーのような一品。のび太「春」 3月のある日のこと、料理店のメニューをタイピングしていたセアラの目には涙が。春になったら結婚を約束したウォルターからの便りが二週間も途絶えていたのです。 セアラとウォルターの誠実で純朴な人柄、互いの愛情深さは、『賢者の贈り物』のふたりを思わせます。 無駄のない話の展開と最後の大転回が、やはりO・ヘンリー。 「やがて暦がウソをついて春の到来を知らせた。本当の春は、それが来るときにやってくるのだ。」という一文に惹かれます。 参照元:大久保博・訳『O・ヘンリー短編集2』 新潮文庫
March 14, 2024
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双子がミステリーに登場すると、入れ替わりのアリバイ工作などを想像してしまいますが、この話の筋は別です。 ミス・オイスター・ブラウンと双子の姉パールは、共に独身で仲良く一緒に暮らしていました。 謹厳で、教会の合唱隊、聖書研究会、近隣女性ギルドなどの活動を精力的にこなすふたりは、教区の二大支柱でした。 ただ、菩提樹通りの彼女たちの家に足を踏み入れた者はありませんでした。 ある日オイスターは、どうしてもその日最後の郵便集配に間に合わせなければいけない郵便があるのに、切手がないことに気づきます。 そこで、オイスターは生まれて初めて犯罪に手を染めることに…。 オイスターは、使用済みなのに、消印が押し忘れられた手紙の切手を、湯沸かしポットの湯気を当ててはがそうとします。たかが切手1枚のことだったのに、湯気で火傷をしてしまったことから、事は大きくなりどんどん事態は悪くなってしまいます。 最後はふたりの姉妹が揃って、余裕のエンディングです。姉妹が仲良く暮らす秘訣は、互いに過干渉にならず、個性を認め合って仕事をうまく分担することでした。1人では乗り切れないこともふたりなら大丈夫。最後までやり遂げられるでしょう。 些細なことが重大な事態になり、重大な事態も些細なこととして片付けられてしまう、不思議な味わいのあるミステリーです。 参照元:ピーター・ラヴゼイ『ミス・オイスター・ブラウンの犯罪』中村保男・訳 ハヤカワミステリー文庫
March 6, 2024
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自殺の名所とされる弓投げの崖にまつわる三つの「~してはいけない」事件と終章から成る連作短編集。事故、自殺とされた内容が、各章の終わりに置かれた1枚のカットを見るとひっくりかえるという趣向になっています。 何だか後出しじゃんけんのようで、フェアな本格推理とは離れますが、目新しい仕掛けが好きな方にはお勧めです。 絵は、第3章と終章はすぐ意味が分かりましたが、第2章は何回か見直して「ここか」と理解、第1章の絵には正直何の意味があるのかわかりませんでした。うーーん、もう少しスカっとしたかったなあ。 道尾氏の描く、国籍や家庭の貧困や虐待といった、理不尽の中で悩み、苦しみ、傷つきながら、立ち上がっていくこどもの姿は心に響きます。この短編集でも、第2章が印象に残りました。 灰色の平和な世界の中でも、珂くんにはまっすぐに生きてほしいと思いました。 参照元:道尾秀介『いけない』文藝春秋社
February 19, 2024
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智紗は母から見せられたお見合い写真に唖然としました。今時台紙付きのこんなツールが存在したのかと思いながら、読んだ相手の家族構成に思わず言ってしまいます。「嘘でしょう…」 なぜ、このお見合いが持ち込まれたかがミステリー。実は智紗にプロポーズしたのは…。最後まで読むとにんまりしてしまいます。プロポーズ大作戦はうまくいくのでしょうか。 参照元:『アンソロジー 初恋』アミの会(仮)実業之日本社文庫
February 14, 2024
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『初恋』はアミの会(仮)のアンソロジー。 アミの会は、現在活躍中の実力派女流作家の会で、アンソロジーを編むことと、たまにお茶したり、食事(withお酒)することを目的に作られたゆる~い会だそうです。 今までに『捨てる』『隠す』『嘘と約束』『毒殺協奏曲』といったテーマのアンソロジーが出版されています。 アミの会という名称は、作家集団「雨の会」へのリスペクトと、「物語を編む」→アム→アミの意味から命名されたそうです。 メンバーは、大崎梢、加納朋子、永嶋恵美、新津きよみ、篠田真由美、柴田よしき、福田和代、松村比呂美、光原百合、矢崎存美、松尾由美、近藤史恵。アンソロジーによっては男性作家もゲストとして招かれることがあります。 好きな作家さんばかりで、アンソロジーが出るのが楽しみです。 大崎梢『レモネード』 全体としてはミステリーともいえないのですが、大きな反転があり、ちょこっと伏線も仕掛けられています。 私たちの年代だと、レモンは初恋の象徴だったような。今でもそのイメージが通用するのかどうか。 亜弥は、駅ビルでのショッピング中、20年ぶりに中学校の同級生リサに再会しました。 明るくきれいなリサはもてる女の子でしたが、ぱっとしない中里くんに思いを寄せていました。わたしは、もてる男の子の島村くんに夢中でしたが、島村くんが好きなのはリサ。 卒業に向けて、複雑な思いが絡み合い…。 「好き」という思いで突き進める若い時代の、甘くほろ苦い思い出は、確かにレモネードの味かもしれません。 今となっては、あのとき見ていたのが現実の彼だったのか、幻だったのか、と亜弥は考えます。ですが、今でも心の中には島村君がいることを自覚します。 女の子たちは、傷ついたりくじけたりを繰り返しながらも、いつも心に1杯のレモネードを持ち続けます。日常の渇きを潤す非日常の。 参照元:『アンソロジー 初恋』アミの会(仮)実業之日本社文庫
February 12, 2024
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立春は暦の上だけ。雪の降った翌日に『真備霊現象探求所』に小学生の女の子が相談にやってきました。 風邪をひいた真備の代わりに、ホラー作家の道尾が相手をすることに。 小4の莉子は、飼ってあげられなかった仔猫の幽霊が動画に映っているというのですが…。 道尾作品では、屈折した悪意というものがストレートに描かれますが、その黒い気持ちが浄化される結末がうれしい作品でした。 道尾は動画の謎を解き、莉子の悩みを解決できる力をもっていました。ワトソン役の記録係は独自に推理できないケースが多いので、珍しいと思ってしまいました。 風邪でダウンした真備の言う「オディ」「デコ」が何だかわかると、トリック?が解けてしまうかもしれません。風邪で苦しそうな真備には悪いのですが笑ってしまします。「白いでこど顔」って? 参照元:道尾秀介『花と流れ星』から『オディ&デコ』
February 3, 2024
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ロスアンジェルスの公共図書館分館で、司書のミス・ベンソンが殺されました。被疑者は4人。 ミス・ベンソンは犯人が近づいてきたとき、タイピングしていたブックリストに「QL696・C9」という文字を遺していました。この意味は? 捜査に当たったマクドナルド警部補は、先輩のニック・ノーブルの意見を聞きに行きます。「日常目に触れるきわめて実用的な」ものを使った暗号が興味深いという編者の評ですが、アメリカと日本では事情が異なるので、よほど知識のある人でないと思いつかないでしょう。日本の図書館司書でも無理かも。 犯行の動機はなるほどと思います。話の展開も面白いです。 参照元:レイモンド・T・ボンド編 宇野利泰・訳『暗号ミステリ傑作選1』 グーテンベルク21デジタルブック
January 30, 2024
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暗号をテーマにした短編集の一編。 ベントリーの生み出したトレントは『トレント最後の事件』で有名なミステリー作家。ロンドン生まれで、チェスタトンとは終生に渡り交友がありました。 資産家ですが屋敷に引きこもっていたグレゴリー・ランデルが死亡しました。遺言執行者は、弁護士のスノウとセルビー。 死の直前、ランデルはスノウを呼んでいたが、遺言書を書き換えてその場所を伝えたかったのでは、とセルビーは考えました。話を聞いたトレントは、ランデルの屋敷を訪ねます。 トレントの見つけた物は…? トレントに解説されるともっともだとわかりますが、英語と英文学に通じていないと答えは出てきません。伏線は張られているので、わかる人にはぴんとくるのかもしれません。 参照元:R・T・ボンド編 宇野利泰ほか・訳『暗号ミステリ傑作選1』 グーテンベルク21デジタルブック
January 28, 2024
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『夫の余命』は、『イニシエーション・ラブ』で有名な乾くるみの短編です。 「わたし」が市民病院の屋上から飛びおりる場面から始まり、話は夫、貴士さんとの日々を遡っていきます。 いよいよ容態が急変した日、ホスピス病棟へ移る日、短い結婚生活、結婚式…。 平凡な愛のストーリーに終わるわけがなく、びっくり箱のような展開が待っています。『イニシエーション・ラブ』より気持ちよく騙されたという感想を持ちました。 「余命」は天の配剤、人の力ではどうしようもないものですが、最後にふっきれた「わたし」とドクターの会話が爽やかです。 参照元:『神様の罠』文春文庫 から 乾くるみ『夫の余命』
January 24, 2024
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シングルマザーで推理小説作家マリアンの長女ダイナ(14)、次女エープリル(12)、長男アーチー(10)は、母親思いで個性的な三姉弟でした。 ある日隣家で殺人事件が起こり、忙しい母の代わりに自分たちが調査し、犯人を捕まえようと考えます。母の手柄にして、小説の売り上げが上がるようにと思ったのです。 3人は、見張りの警官を出し抜き、演技力で翻弄し、なかなかの手腕で犯人を追い込んでいきます。 クレイグ・ライスの『スイートホーム殺人事件』です。小説に集中していると、七面鳥を冷蔵庫の代わりに砂糖箱に入れてしまうけれど、仕事が終わるときれいに粧って子供たちに120%の愛情を注ぐ母の行動はかわいい。 けんかしながら母の代わりに家事をこなし、事件に立ち向かっていく3人は大人顔負けで、年齢からは考えられない働きぶりです。 まあ、重要な証拠をこっそり持ち出したり、偽の証言をする子供たちの行動はどうかと思います。警察の調査でみつからない証拠の品をこどもがみつけてしまうのも嘘っぽい。あくまでも「ユーモア・ミステリー」として、「名探偵コナ○」のようなノリで読むのが正解と思います。 「スイートホーム」はクレイグ・ライスの実生活から書かれたのかと思いましたが、クレイグ自身は幼少時から複雑な家庭環境にありました。叔母や叔父のもとに預けられ育ち、成人後は結婚と離婚を繰り返し、49歳の若さで亡くなりました。アルコール依存症に罹っていたといいます。 彼女の生い立ちを思うと、スイートホームの明るさはちょっと悲しい。 参照元:クレイグ・ライス 長谷川修二・訳 ハヤカワミステリー文庫
January 16, 2024
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道尾秀介の『花と流れ星』は、連作短編集。 亡くなった妻に会いたくて『霊現象探求所』を構えたのに、霊と関係ない謎解きばかりに関わってしまう、真備と助手の凜、友人で真備の記録係のような作家の道尾が登場します。 『流れ星のつくり方』 海辺の宿での1泊旅行で、凜は夜の散歩中に、窓辺でラジオを聞く少年に声をかけられました。少年は凜に「流れ星のつくりかた」なるものを教えてくれます。 人が殺されるミステリーは嫌いだと言って、少年は友人が両親を殺されたからだと話します。 その家は始終玄関が人に見られている状態であったのにも関わらず、宅配業者を装った犯人が入るところは目撃されていますが、出る姿を見た人がいないのです。 「どうやって犯人はみつからずに出て行ったと思う?」と少年は凜に出題します。 謎は半分凜が解き、後の半分は、心配して電話してきた真備が解きます。 凜と少年の会話が多くを占める作品ですが、言葉の使い方がきれいです。少年に対する凜の思いやりも伝わって、素敵な作品だと思います。 凜が見えたという流れ星に、少年が願い事をするラストがいい。願いが叶えられますようにと、願わざるを得ません。 参照元:道尾秀介『花と流れ星』から『流れ星のつくり方』
January 8, 2024
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エラリー・クイーンに師事し、短編を中心に数々の名ミステリーを生んできたエドワード・D・ホックは、シャーロック・ホームズのファンとしても知られます。 ホックが書いたホームズへのパスティーシュを集めたアンソロジー『シャーロック・ホームズ・ストーリーズ』は、ホックの最後の本、追悼本になってしましました。 『クリスマスの依頼人』は、依頼人が実在の有名な人物で、職業、エピソード、言語的な障がいについても忠実に再現されています。もちろん、細部や性格描写は本人と違うだろうと思われますが。 依頼人は数学を媒介にモリアーティ教授とつながります。教授から恐喝されているという話だったのですが、金の受け渡し場所に行ってみると…。 展開の思いがけなさに、ホームズものらしさ+ホックの機転が感じられます。事件が解決した後、お礼をどうしたらいいでしょうと尋ねる依頼人に、ホームズは答えます。「クリスマスの贈り物と考えてくださってけっこうです」 メリークリスマス、たくさんの楽しい本に巡り会えますように。 参照元:『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』 日暮雅通ほか訳 原書房
December 25, 2023
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別れた夫からの度重なる金の無心にうんざりするミリー。昔の卑猥な写真をネタにゆすってくるのです。 怒りが頂点に達したミリーは、思わず大理石の灰皿で…。 ミリーは、娘が大切にしている熊のぬいぐるみから最高のクリスマスプレゼントを受け取ります。 小池真理子のショートショートの一編。 「ヌーヌー」はフランス語で「くまちゃん」の意味。クロード・レイデュの絵本に「くまのヌーヌー」シリーズがあり、大きなくまの人形が活躍します。 参照元:小池真理子『第三水曜日の情事』角川文庫
December 24, 2023
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ダイヤモンド刑事夫妻は、クリスマスを過ごすためニューヨークへやってきました。旧知のジョニー・アラナガン刑事を訪ねたダイヤモンドは、小さな会計事務所の共同経営者メリマン老が毒殺された事件の捜査を手伝うことになります。 メリマン氏は、クリスマスの小パーティー中に苦しみだしたので、容疑者は3人に絞られますが、3人ともに怪しいような…。 毒物はβフェニルエチルアミンという聞き慣れない物質でしたが、アルカロイド系の薬物として気管支拡張、抗鬱剤に使われるものだそうです。胃腸炎に似た症状を示し、虚弱体質の人では心血管系に傷害が出るということです。 毒と薬は紙一重、いや紙の表裏かな。 参照元:『夜明けのフロスト 『ジャーロ』傑作短編アンソロジー③』木村仁良・編 光文社文庫から ピーター・ラヴゼイ 山本やよい・訳『殺しのくちづけ』
December 22, 2023
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