2-1 タンポポ



飛行機は2時間の遅れはあったものの、無事、朝子の故郷である北陸の地に降り立った。5月の北陸は、九州に比べるとかなり肌寒さが残っていて、朝子は降りたとたん身震いした。

なんだか、ずいぶん長い間離れていた気がするわ・・・。

いろんなこと、あったものね・・・。

また涙が溢れそうになり、朝子は慌てて首を軽く左右に振った。

いけないいけない。私は浦原朝子、いちひとのママ!! さぁ、いちひとが待ってるわ!

早足で歩いていくと、祖母に付き添われ、はにかみながらこちらを見ているいちひとが待っていた。

「いちひと~!!」

「ママ!」

朝子は駆け寄って、息子を抱き締めた。

「会いたかったよぉ~~~元気だった!?」

「うん! ・・・でもね・・・」

俯く息子を見て、途端に朝子は不安になる。「なぁに?! 何かあったの?!」

いちひとが上目遣いに母親を睨み、「ちょっと寂しかった!」と言うと、朝子の顔に笑みが溢れた。

「そっか。ゴメンネ」

いちひとも笑顔になった。

「でもぼく、いい子だったよ。おばあちゃんのお手伝いも、いっぱいしたんだよ!」

朝子の母は笑って、「本当によく頑張ってたよ、ね、いっちゃん。でも、やっぱりママが恋しかったみたいで、昨夜はちょっとだけ泣いてたんだよ」

「そうだったの・・・寂しい思いさせてごめん。次はみんなで旅行に行こうね」

朝子の心は激しく痛んだ。私、この子に寂しい思いさせた上、パパじゃない男に抱かれてたなんて・・・母親失格ね・・・。

朝子は「夕飯をうちで食べていけば?」という母親の申し出を断り、4日ぶりに浦原家へ帰った。

「はぁ~やっぱ家は落ち着く~。いちひと、おやつ作ろうか!?」

「やったぁ~僕ドーナツがいい!」

「よーし! 手伝ってよぉ~~~!?」

「まかせて!」

息子が喜んでエプロンを取りに行く後ろ姿を見て、朝子の目に涙が滲んだ。

この幸せを、私は守りたかったのよ・・・。

しかし、冷蔵庫に卵がなかったので、朝子といちひとは手を繋いで買い物に行った。

はしゃいで走ったり、道端のタンポポや名も知らぬ雑草を摘んだりしながらの帰り道は、二人とも最高に楽しかった。

しかし帰ってドアを開けようとしたとき、鍵が開いていて朝子は硬直した。いちひとは玄関を開け、そこにある大きな靴を見ると喜んで部屋に駈け入った。

「わーい、パパ~!!」

「おーーいちひと、元気だったかぁ~!?」

「・・・お帰りなさい。どうしたの、早かったのね」

朝子は無理に笑い言った。彼女の手の中で、タンポポが着々としなびていく。

夫の篤(あつし)は、朝子を見て微笑んだ。

「ママこそお帰り。長旅、ご苦労様」



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