2-7 悲しみの旋律



宏信は、しばらくして重い口を開いた。

「君は、熱中症のおかげで助かったようなものだよ。あのタイミングで倒れなかったら、腕じゃなく命にかかわる個所を撃たれていたかもしれないと、居合わせた警官が言っていた」

それを聞き、有芯はぼそりと言った。「じゃあ、俺は朝子に助けられたようなものだな・・・。あいつを夢中で探し回らなきゃ、熱中症になんかならなかっただろう。・・・」

「有芯・・・」

宏信が言葉を続けようとしたとき、有芯がそれを遮った。

「宏信・・・ありがとう」

宏信は意味がわからなかった。「・・・え?」

「朝子を探してくれたんだろう・・・?」

「・・・ああ、まぁ・・・」

「それに、俺を撃ったピンク髪野郎も捕まえてくれたんだろう・・・?」

「・・・それは、父が働きかけてくれたからで、警察が・・・」

「お前が言ってくれなければ、親父さんだって動かなかった。そうだろう? お前は命の恩人だよ」

「・・・・・」

有芯は涙でボロボロの顔でニヤリと笑った。宏信は、自分がひどく無力に思え、震える唇を噛んだ。

「有芯・・・なぜ、朝子さんは・・・」

「帰ったのかって?」

有芯は自虐的に笑い、自分の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。

「振られた。・・・プロポーズしたんだけど、すっぱり断られた」

「プロポ・・・って、それ・・・・・!」

「もう俺にはあいつしかいないと・・・俺はそう思ったんだけどな。あいつは子供や旦那の方が大事だったみたいで。・・・ははは、ははははははは」

有芯の発する「は」の羅列が悲しみの旋律にしか聞こえなくて、宏信は思わず有芯の頭を右腕で抱え込み、少しだけ動く左手を添え、彼の頭を抱き締めていた。

「なんだぁ。お前、そういう趣味ねぇんじゃなかったのかぁ」

自分の腕の中で震えて、不自然な姿勢で涙を流しているくせに口の減らない有芯を必死に抱き締めながら、宏信の目からも、熱いものが流れ出ていた。




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