2-55 突然の告白



有芯の母親が、部屋から出てきた朝子を見て、奥の部屋から声をかけた。

「あら、もうお帰り?」

朝子は僅かに目に浮かんだ涙をそっと拭うと、明るく言った。「はい・・・手当てして頂いて助かりました。お邪魔しました」

そう言って朝子が行こうとすると、「川島さん」と呼び止められたので、彼女は足を止めた。

「はい?」

有芯の母親は立ち上がり、「お急ぎの用事でも?」と聞いてきた。

朝子は質問の意図するところがわからず戸惑った。「いいえ、そういうわけでは・・・」

「少し、休んでいってくれないかしら? お茶くらいしかないけど」

母親の優しげな笑顔を見て、朝子は断れず頷いた。

朝子が遠慮がちに座布団に座ると、有芯の母は朝子と自分の前に「ちょうどお湯を沸かしたところだったの」と言いながら、緑茶の入った湯飲みを置いた。そして、朝子の斜めにゆっくり腰を下ろしながら口を開いた。

「ごめんなさい。・・・有芯が、なんだか怒鳴ってたみたいだから」

「え? ・・・いいえ。有芯君が悪いんじゃないんです」

本当にそうよ。・・・私が出て行ったせいで、なんだか尚のこと足を引っ張っちゃって。結局、また守ってもらったのは私・・・・・。何してるんだろ。私・・・一体、本当は何がしたいんだろう?

朝子が俯くと、有芯の母は優しく言葉をかけた。

「川島さん、あの時・・・本当にありがとうね」

朝子は意味がわからず聞き返した。「・・・あの時って?」

「演劇部がなかったら、あの子はきっともっとぐれてたから」

「・・・・・ああ。でもそれは私のおかげじゃないですよ。演劇には―――何というか、魔力があるんです。一度取り付かれると、くせになるというか・・・」

そう言い苦笑する朝子を見て、有芯の母はニコニコと優しく笑っている。

「あの子もそんなことを言ってたような気がするわ」

「そうですか・・・」

言いながら、朝子はふと、有芯と付き合う直前の部活の風景を思い出した。あの頃が一番楽しかった―――私もキミカも有芯もナマっちも、みんな演劇が大好きで・・・あんなに一生懸命になったことなんて、それまで絶対なかった。

有芯の母が、ふと思い出したように言った。

「そういえば・・・ご結婚なさったの?」

「・・・ええ。5歳の息子がいます」

「まぁ・・・もうそんな大きい子が?! 私も年をとるわけだわ・・・」

有芯の母はそう言うと、口角を上げ笑った。その笑い方が有芯に酷似していて、朝子は思わず目を細めた。

「有芯君は・・・お母さんに似てるんですね」

朝子の言葉に、有芯の母はにっこり楽しそうに笑うと、目の前の湯飲みを見つめた。

「そうかしらねぇ? でもちょっとした癖や、話し方なんかは死んだお父さんにそっくりだわ」

「・・・そうです、か」

目を伏せた朝子に、「そんな、気にしないで」と、明るい声で言う有芯の母に、彼女は多少安心した。が、母の次の言葉に、朝子は驚愕した。

「実はあの子・・・有芯は、私たちの本当の子供じゃないの」




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