once 56 空腹



窓の外を夕焼けが照らし、外にある木の陰がカーテンに伸びてきていた。有芯と朝子は、もう何度目かも分からなくなったセックスを終え、ベッドに並んで呼吸を整えている。

しばらくすると、朝子が天井を見上げてつぶやいた。

「おなかすいた」

有芯は、自分のとなりにぴったりくっついている朝子の顔を見つめた。「俺は、朝子がいれば何もいらない」

有芯が、身体を曲げて朝子にキスしようとしたとき、グーという音が部屋に響いた。

しばしの沈黙が部屋に降り立つ。

「ぶっ・・・あはははははっ!! 有芯もおなかすいてるんじゃなーい」

「笑うな!! 今のは・・・きっと鳥の鳴き声だ!」

「仕方ないよ、私たち、タイボク君の午後の用事に気を使って帰ったんで、気付けばお昼も食べてないんだもん。おなかすいたよぉ」

有芯は、無言で顔を逸らし、朝子を抱き寄せた。

「まだこうしていたい」

「外、出たくないの?」

有芯は頷いた。

朝子はため息をつくと言った。「今日だけなんだけどな、私たちがデートできるのって」

「・・・行く」

有芯は慌てて服を着た。その様子を見て朝子がまた笑ったので、彼は朝子を睨むと、彼女を再びベッドに押し倒した。

「まだ裸のくせに笑うなよ」

「服を着させてくれなかったのは誰?」

朝子は悪戯っぽく笑った。有芯もニヤリと笑い、そっとキスをすると、立ち上がって落ちている朝子の服を持ち主に放った。

「さて。どこに行きたい?」

髪を上げると、下着を着けながら朝子は言った。「有芯の方が詳しいでしょう?」

「詳しいってほどではないぜ? こっちでデートはしたことがないんで」

「ふーん。とりあえず、おなかすきすぎて気持ち悪いから、食事行こう」

「何食べる?」

「・・・空腹通り越して、食べたいものが分からない・・・」

「えぇ?! ・・・うーん。あ、そうだ、お前、こっちでちゃんぽん食べたか? 近くにいい店がある」

「本当?! 行く行く! 急げーっ」

朝子はバックを手に持ち走り出そうとしたが、その様子を見た有芯は目が点になった。

「お前、下着で外、出る気か・・・?」

「あ・・・・・。ははは、冗談冗談」

こいつのことだ、本気でそのまま出るつもりだったな・・・。「全く・・・色気より食い気かぁ」

有芯は苦笑すると、朝子を抱き締めた。そうすれば、朝子が抱き締め返してくれることが、何より彼は嬉しかった。

腕の中の朝子が、自分を抱き締めているのを感じて有芯は、「愛しい・・・」気付くと、思っていることをそのまま口に出していた。

そして、そんな有芯の言葉に朝子は微笑み、背伸びしてキスをした。





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