鮭太朗のつぶやき

鮭太朗のつぶやき

関西弁の詩



お母ちゃん、うちにあれ見せてくれはれへん?
小さいときに一回だけ
誰かの葬式の時聞かしてくれた
なんや木琴によう似た形の
塗りの綺麗なあの楽器
うちには変な音に聞こえたけど
ねきで聞いてたお父ちゃんは
俯いて静かに泣いてはったやろ?
なんやしらものすごあの音を
聞いてみたい気ぃがするねん

そやね、お前ももうええ歳や
あれの本当の音ぇのわかる頃やね
じいちゃんの供養もあるさかい
しばらくぶりに叩いてみよか

お母ちゃん、これほんまは何やのん?
あの時のお父ちゃんやあらへんけど
なんや涙が止まらん音色や

これは骨琴云うのんや

ほろん ほろん 一番低い音ぇは
優しかったじいちゃんの骨

かららん かららん 華やかな音ぇは
ハイカラやったばあちゃんの骨

きりん きりん 可愛らし音ぇは
生きてたらもうじき十八になる
三つで死んでしもたあの子の骨

ああそれでやね
そやからこんなに
胸に沁みる音ぇを出すのやね

うちも、お父ちゃんも、お母ちゃんも
いつかはみんなここに並んで
それぞれの音ぇになるんやね
その時は誰がうちらを思うて
静かに泣いてくれるんやろか




アマリリス

 おにいちゃん、ぼくにオルガン弾いて?
 学校で歌なろてきてん
 どっかよその国の歌やねんけど
 なんやものすご可愛(かい)らして
 ぼく、ごっつう好きになってん

よく通るボーイソプラノで
弟が歌ってみせたのは
愛らしいけれど、どこか儚げな
短い調べ アマリリス

姉のおさがりのオルガンで
弟の気が済むまで何回も
同じ旋律を繰り返した

 お兄ちゃんとずっと一緒に居りたいねん

小児病棟のベンチに座って
細くなった脚をゆらしながら
すがるような目で僕を見た
小さな肩を胸に抱きとって
声をたてずに泣く弟の
柔らかな髪をただ梳いていた

何度も巡った季節の中で
オルガンはどこか他所へやられ
空で覚えていた曲も
みんな忘れてしまったけれど
時折指を机に立てて
無意識のうちに弾いている
弟によく似た、愛らしく
儚い調べ アマリリス



   神さん

   神さん神さんお願いや
   ぼくとあの人の縁結びして
   毎日拝みに来るさかい
   賽銭ぎょうさん入れとくさかい
   今まで正月一回きりしか
   拝みにこなんだん堪忍や

   ぼくが好きで好きでしょうないのんは
   数えで九つ歳の離れた
   隣の町の書生さんやねん

   この前ハルちゃんとこ遊び行って
   帰りに川べり歩いとったとき
   大きな石に蹴つまづいた拍子に
   思い切りこけてしもうてん

   鼻緒は切れるし でこちん擦るし
   もろた菓子撒くし わややってん
   情けないやら ごっつ痛いやらで
   こけたまんまでべそかいとってん

   そのとき袴の汚れるのんを
   ちょっとも気にせんと 手ぬぐい裂いて
   鼻緒すげてくれたんが その人やねん
   真っ白な手ぬぐい裂く白い歯ァと
   凛とした横顔じっと見とったら
   ぼく、なんやしら心臓が
   破裂するぐらいに高うに鳴って
   風邪でもないのにいっぺんに
   身体中から熱出てしもてん

   ぼく、まだ子供でようわからんけど
   神さん、これ、恋いうねやろ?
   ひと目惚れいうのてほんまやねんな

   お母ちゃんにはよう言わん
   お父ちゃんにはなおさらや
   何あほぬかすて言われるだけや
   そやけど黙ってられへんねん
   あの人好きやて言わずにおれん

   神さん、ぼく、あほちゃうやんなあ・・・

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