衣擦れの音。
パリに着いた当日、
現地の人を介して、
思いつきで予約してしまったディナーショーがふたつ。
そのひとつが、ムーランルージュ。
ずっと観たいと思っていたショーのひとつだ。
実は、ヒトッティー、
以前仲間内でパリを訪れた際に、
一度このディナーショーに申し込んだことがあるそうだ。
ところが、
ショーの当日になって、
どうも乗り気がしないと言って、
土壇場でキャンセルしてしまった。
もともとヒトッティーには、
そういう天の邪鬼なところがあるので、
私としては大して気になることもないが、
今回はドタキャンは、どうぞ勘弁。笑
私はというと、
母と一緒にパリを訪れた際、
コーディネートしてくれた代理店をしている知り合いに、
シャンゼリゼ通りにある、
ヨーロッパ最大といわれるキャバレー「LIDO(リド)」の、
そちらを観たことがあったのだが、
ムーランルージュは初めて。
「LIDO」のディナーショーも、
迫力があってとても面白かったのだけど、
実はムーランルージュも当時から気になっていて、
少し前にニコール・キッドマン主演の映画にもなって、
それを観てからますます、
『機会があったら是非行ってみたい!』と思ったのだ。
ちなみに、
こちらでLIDOのショーの雰囲気を垣間見ることが出来ます。
↓
EARTH NAVI(地球案内)~パリ「LIDO」~
そんなわけで、
このディナーショー、
ヒトッティーはTry Again、
私はずっと観たかったショーを見ることが出来て、
超ラッキー♪
日中、オルセー美術館まで出かけていったのだが、
今夜のショーへ出かけるために、
早めにホテルへ戻ってきた。
もちろん、着替えのために。
ヨーロッパは往々にしてそうなのだろうが、
ご多分に洩れず、
というよりも、特にパリでは、
夜のディナーや観劇の時は、
基本的に正装をしなくてはならない。
とはいっても、最近では、
そんなにかしこまった格好をする必要はないが、
それでも男性は、
ジーンズやスウェット素材のパンツは不可で、
まちがいなくジャケット着用を求められる。
ジャケットといっても、
毛皮などが付いていないものであれば、
わりとどんな形のものでもいいみたいだが。
その点、女性は、
どんな格好でも許される。
私が感じるに、
女性の服装に関しては、
どんな格好も、
それがファッション、
それがオシャレなのだろうと、
こちらの人は受け取ってくれるようで、
男性に対しては、
逆に身だしなみという観点なのかも。
男性のほうが、断然ドレスコードは厳しい。
着替えを済ませ、
待ち合わせの場所から、
車でムーランルージュに向かう。
ムーランルージュのあるモンマルトルは、
サクレ・クール寺院やモンマルトルの丘などで、
有名なところ。
長い間、芸術家の街として、
多くの芸術家が生まれた街だけど、、
最近では、
あまり治安のよろしくない場所のひとつで、
パリで唯一の歓楽街でもあり、
アダルトショップが立ち並ぶ風俗街でもある。
夜の街へと遊びに繰り出した人たちで、
ごった返している通りの真ん中に、
ムーランルージュの明るく輝くネオンがあった。
歓楽街のシンボルにでもなっているかのような、
堂々たる風車。
でも、そんなムーランルージュの看板風車が、
歓楽街とは少々似つかわず、妙に可愛い。
表の通りまで長い行列の出来た入り口の脇から、
滑り込むように中に入った。
ムーランルージュ。
画家のロートレックが通いつめた、
古き良き、キャバレー。
館内は撮影禁止で、
クロークにカメラは預けてしまったので、
食事やショーの内容は、
写真に収めることができなかったのが少々残念。
館内は、
なんというか、昔のパリ、
パリの下町の趣きが残っていて、
ちょっとタイムスリップしたような気分。
約1時間30分~2時間くらいのディナータイムの後、
約2時間のショーが始まる。
長い夜の始まりだ。
食事も、
イベントのお飾りみたいに、
とってつけたようなものではなく、
それなりにちゃんとフルコースで、
シャンパンやワインもふんだんに振舞われて、
美味しくいただくことができた。
更に、出てきた食事のメニューに驚いた。
実は、
夕方前、ホテルへ戻る道すがら、
ヒトッティーと一緒に、
せっかくのパリだから、
この度で食べたいものは?なんて話をしていたのだ。
二人が共通して食べたいと思ったものは、
鴨肉。
子牛肉。
新鮮なシーフード。
クロワッサン。
チーズ。
生牡蠣。
そしてエスカルゴ。
すでに、
生牡蠣も鴨肉も、
そして新鮮な伊勢えびも堪能したし、
朝食では、
美味しいクロワッサンもチーズも、
何度か味わったので、
さて、今夜の食事は何が出てくるのかな、
なんて思っていたら、
なんと、「エスカルゴ」。
これには、ヒトッティーも私も、
お互い顔を見合わせて笑ってしまった。
ガーリックの効いた美味しいエスカルゴに、
魚料理のメインディっシュ、
そして隣に居合わせた、
お酒好きの初老のご夫婦との、
楽しい会話に花が咲いて、
シャンパンを酌み交わし、
大いに盛り上がり、
ショーが始まるまでの時間も、
あっという間に過ぎていった。
館内が暗くなって、
さあ、ショーの始まり始まり。
私たちの座った席は、
相撲で言えば、砂被りのような席。
踊り子さんたちが、
舞台の袖に下がる通り道の、目の前の席。
こちらでは、これが良い席なんだとか。
「LIDO」に比べると随分窮屈な席なのだけど、
これがまた情緒がある。
歌あり、ダンスあり、
あの有名なフレンチカンカンありで、
一瞬にして、ショーに引き込まれた。
途中でベテラン芸人による、
大道芸なども披露されて、
長時間のショーであっても、退屈しない。
それでも、ヒトッティーは、
先ほどのシャンパンが回ってきたのか、
途中で、コクリコクリと居眠りしはじめた。
もともと、
酒は好きでも、強くないヒトッティーは、
飲めば眠くなる性質(たち)なので、
私はそのまま放っておいたのだけど、
隣の老夫婦のご主人は、
せっかくのショーが勿体無いと気を使ってくれたのか、
時折、ヒトッティーの肩をつついてくれる。
その度、ほんの一瞬目を覚ますのだけど、
また再び、コクリコクリ。
一つの演目が終わるたびに、
豪華絢爛な衣装を纏ったダンサーたちが、
流れるように舞台袖に下がっていく。
そのダンサーたちの、
ダンスもさることながら、
容姿の美しいことといったら!
世界中の応募の中から、
厳正な審査を通り抜けて、
晴れてこの舞台に立っている、一流のダンサーたち。
そんなダンサーたちの衣装の羽が、
舟を漕いでいるヒトッティーの頭の上を、
シャラリシャラリと次々に掠めていく。
軽快な足音と衣擦れの音。
こちらまで聴こえてくる、
そんなダンサーと観客の距離感。
それでも、ヒトッティーはお構いなしで、
気持ちよさそうに居眠りをしていた。
きっと、
夢の中でも美しいダンサーが現れていたのかも。笑
クライマックスフィナーレまであと30分ほどになったとき、
ヒトッティーの目が覚めた。
ヒトッティー、
すっかり眠気も飛んで、
最後は一緒にショーを楽しんだ。
ショーが終わって、
表に出る頃には夜も随分深まって、
通りは、いっそう人で溢れていた。
先ほどのショーでの、
感動や興奮の冷め遣らぬ私たちとは裏腹に、
後ろから、
黒人の大きな男性が付いてくる。
といっても、彼はボディガード。
それを知ったヒトッティーは、
彼に気軽に声をかける。
「オヤジギャグ」的なトークだったが、
やはり「笑い」は万国共通だね。
ボディガードの彼も、
ヒトッティーに笑いでツッコミを入れていた。
彼は、
少し離れたところに停めてある迎えの車に、
私たちが安全に乗り込むまで付いていてくれた。
こういうあたりは、
やはり歓楽街、そして風俗街。
夜も更けてくれば、物騒にもなる街。
一瞬にして、街の現実に引き戻された。
ホテルに帰るなり、
二人して着替えもそこそこに、
ベッドに倒れこんだ。
思っていた以上に、
興奮し、疲れてしまったらしい。
お酒もだいぶ飲んだことだし。
さっきまで観ていたショーを思い出しながら、
半分夢心地の中で、
口々に
「よかったよね~♪」
と言いながら、
いつの間にか眠りに付いた。