このオーギュストの物語は、主人公ヴァランティーヌの物語と平行して描かれる。ジュネーブ大学の学生であり、モデルのバイトもしているヴァランティーヌには、今はロンドンに住む恋人のミッシェルがいた。彼はしばしばヴァランティーヌに電話をしてきたが、それは愛からであるよりも、彼女が貞節であるかどうかを確認するためのようだ。彼女がミッシェルに「愛してる Je t'aime?」と言っても「ボクもだ Moi aussi.」と言うだけで、決して自分から「Je t'aime.」とは言わない。「私を愛してる?」と彼女がきいても「そう思うよ Je crois que oui.」だ。そして近くに肌を感じることも出来ない。たまたまある日、休憩時間に外に出たという偶然が、ヴァランティーヌとミッシェルを出会わせ、二人は恋人になった。真実の愛を見つけたいというヴァランティーヌなのだけれど、この偶然、あるいは選択、それはあるべき運命に収斂されるものではない、間違ったものなのかも知れない。そして彼女に言い寄る写真家ジャンも決して彼女の求める真の愛の人ではない。
ある夜ヴァランティーヌは1匹の犬を撥ねてしまい、首輪にあった住所にリタというその犬を連れて行く。怪我をした犬に無関心な飼い主(J=L・トランティニャン、後で退官した判事とわかる)の様子に怒りを覚えた彼女は、その犬リタを自分で獣医に連れていく。幸いリタの怪我は大したことはなかったが、そこで知らされたのはリタが新しい生命を宿していることだった。彼女はリタを連れて帰って面倒をみ始める。ある日カフェ Cher Joseph で新聞を買うと、そこには麻薬で補導された彼女の弟マルクの写真が載っていた。中に入ってスロットのレバーを引くと、見事チェリーが3つ揃ってコインがじゃらじゃらと出てくる。「悪い予兆か?」と問うカフェの主人に「ええ、理由はわかっている」と答えた。気を紛らすためでもあるかのようにヴァランティーヌは傷も良くなったリタを公園に連れて出る。しかし逃げないと思ってヒモを解くと、リタはいきなり走り去った。しかし見つけることは出来ず、やむなく彼女は飼い主の家を訪ねる。呼鈴を鳴らすとリタが走り出てきた。遅れて出てきた飼い主。ここでのリタがらみでの彼女の笑顔は美しい。飼い主は送った治療費の精算のため小銭を家の中に入ったまま出て来ない。