四方山話に夜が更ける

四方山話に夜が更ける

June 25, 2008
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カテゴリ: 恋愛小説

 蓮がカメラを顔の前に構えて、シャッターを押す素振りを見せた。

 「始めようか」

 「ここで、このまま服を脱ぐ?」

 「ここでも、そこでも、どこででも」

 そう言って、蓮は遮光カーテンを引いた。私は窓際に寄せた椅子に座ったまま、約束

 通りに服を脱ぎ、蓮が指差した光の下に向かって歩き出した。

  私は、ただ何も考えずに、蓮が言った通りに動き続けた。本当に私の頭から足の

 先まで撮るつもりのようだった。カメラが向けられるのは手だったり、足の先だったり、

 顎の線だったり、首筋だったり。後ろから肩に向けられていることも、背中のどこかを

 撮っているようにも感じられた。背中越しに聞こえてくるシャッターの音は心地よく、

 それは私の心がスローモーションで、自由に四角い空間の中を漂うような感覚に

 させてくれた。

 「はだかの写真って、ベッドに横たわって撮るものだと思ってた。蓮も私にそういうことを 

 要求するとばかり思ってた」

 「ああ、そうね。 そういう時もあるけど、おんなの人のきれいな表情って、ベッドに

 横たわっている時だけってこともないでしょ」

 「でも、手や足の先の写真しか撮らないのに、私が服を脱ぐ必要はあるの」

 「間違いなく、ある」

 「そうなんだ」

 「そう、椅子に座っていても、部屋のど真ん中に立っていても、手の先しか写って

 いなくても、そうする意味があるの。人の素肌は、確実に想像を掻き立てる」

 「私に色気がなくっても? 髪が長くなかったら、少年Aでいけちゃうよ、私」

 「琉夏は、きれいだよ。魅力的な少女Aだ」

 そんな言葉が蓮の口から出るとは思わなかった。彼は今までにどれくらいこんなせりふ

 を、私の知らない、美しい身体のパーツの持ち主に言ったのだろう。そう考えると、心臓

 をぎゅっと締め付けられるような痛みが私を襲った。

 「まいったね。少女Aか。私には全く色気がないって口ぶりだ」

 「そんなことないって」

 「気を遣わなくてもいいよ」

 「琉夏は不思議なやつだな」

 「何が?」

 「夏琉は服を身につけていても、つけていなくても、とても自然に人と話すんだな」

 「あ・・・ごめん」

 「なんかさ、男とか女とか越えて、別の世界から来た人みたいだ」

 「それって褒めているの、けなしているの」

 「いや、褒めてるつもりだけど」

 通りに面した小さな窓にかけられたブラインドの隙間から差し込む光が、いつの間にか

 オレンジ色に変わっている。蓮の横顔が夕日に映えて悲しげに見えた。

 「この時間が一番好きなんだ。なんだか心の中が波ひとつない夕凪の海のように静かに

 感じられる」

                                                  つづく






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Last updated  June 25, 2008 01:48:54 PMコメント(0) | コメントを書く
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