愛 こ と ば・心 の 散 歩 路

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2023/03/28
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 ^-^◆ むかつく & キレる・言葉で考える世代の違い[下]


阿武「紀長さん……、でしたよね……。
   さっきから黙って聞いておいでですが、
   何かおっしゃりたい事あるのでは……?」

衛品「ああ、そう、そう、紀長さん、どうぞ……」

紀長「いゃー、どうも……、ありがとうございます。
   けっこう面白く聞かせて頂いていますよ。
   私は『きれる』という言葉の話に関心を持ちました」

阿武「……ほうー……『切れる』にね……」

紀長「私が若い人のこの言葉を聞いたときに、
   頭に浮かんだ言葉があります。
   それは『堪忍袋の緒が切れる』という言葉です」

阿武「……なるほど。
   その『切れる』は……昔からある……」


紅い実


紀長「堪忍袋の緒というものはですね……、
   人が歳を重ねると共に太く大きくなっていって、
   それにつれて胆っ玉もちょっとやそっとでは動じない
   ものとして、形作られるというのが私の感じ方です……」

衛品「ふーん、堪忍袋の緒か……昔から良く聞く言葉ですね。
   ……でも紀長さん、堪忍袋と肝っ玉って
   関係あるんですかねぇ…」

紀長「ええ、肝っ玉もキモって言う位だから、
   肝臓のイメージですよね。
   ……いわゆる内蔵だし、よく言われる五臓六腑ってものも
   堪忍袋に包まれているのではないかって考えたんですが、
   無理がありますかねえ……」

阿武「ご存知のように、
   五臓六腑が煮えたぎるという表現がありますね。
   これは、怒りの極限を表した言葉です。きれる直前、
   堪忍袋の緒が切れる直前の表現かもしれませんね。
   堪忍袋の緒がだんだん強く鍛えられていくにつれて、
   五臓六腑(肝っ玉)もちっとやそっとでは動じないレベル
   に形作られていくという考え方ですね……紀長さん……」


城戸花


紀長「……ええ、堪忍袋の緒というのは、
   若いうちはつまらないことですぐ切れます。
   ホントにたいした事では無い場合が多いです……。
   しかし……、歳を重ねた人が切れたら……、
   それなりの重みがあって、こちらサイドも反省させられ
   ます。多かれ少なかれ誰でも切れるのでしょうが……、
   堪忍袋の緒は、内臓と感情とをつなぐ生命線で、
   その人そのものではないかと想像してしまいます……」

阿武「…………」

紀長「私は、堪忍袋の緒を肥やすというか……、
   太くする為には自分が『がまん』することが大切だと
   感じています。そうすることによって、自分と相手とが
   身も心も『理解』できるのだという道筋を
   示す必要があると考えています。
   ……かく言う私も結局は色々な局面で『がまんが足りん』
   というのが実態ですがね。ははははっ……」

阿武「うん……。言葉について話し合うことは、
   実に興味深いことですね。
   紀長さんとは今日で二度目ですが、今、紀長さんの、
   お話を聞いているだけで、ひとつの言葉に対する感じ方の
   違いを凄く思い知らされます……。
   こういうところから、お互いが意識しない内に誤解や
   気持ちのすれ違いが発生していくのでしょうね………」





紀長「えっ?阿武さん『堪忍袋の緒が切れる』という事に
   関してですか……?
   だったら、ぜひ阿武さんとの感じ方の違いを聞かせて下さい。
   私の場合は相手や状況に応じて堪忍袋の緒を切ったり
   つないだりしたいと、いつも思っています。
   なかなかそうはなりませんが……」

阿武「うーん……とらえ方にも違いがありますね。
   紀長さんは、
   『緒』……つまり紐に着眼した理解ですね。私の場合は
   『袋』に重点を置いた理解になります」

紀長「……ん……。……といいますと………」

阿武「変な例ですみませんが……、
   私の大好きな艶歌の歌詞で例えますと
   『恨みつらみの百万言は腹に収めてにっこり笑う』
   という、この『腹』が『袋』に近い概念になります」

紀長「……フム」

阿武「紀長さん……、堪忍袋の緒は何故切れるのでしょうね。
   ……どんな力が加わって………」

紀長「えっ………!!」





阿武「私は、袋が一杯になって、はち切れてくるからと
   考えます……。
   それじゃー袋の中には一体何が入っているのか………。
   それは…………ですね、
   『我慢した気持ち』や『辛抱した気持ち』では無くて
   『堪忍してやった気持ち』なんだと私は思うんです。
   我慢や辛抱といった気持ちは、もっと感情の浅い部分に
   収納されていて、日常の生活の中での通常の意識と葛藤
   しているのでしょう……」

紀長「………『我慢』と『辛抱』と『堪忍』の違いが
   わからないんですが…………阿武さん」

阿武「あっ、すみません……。
   言語学的には……きちんとした違いがあるのでしょうが、
   私なんか自分の経験則で言葉の概念を作ってしまうので
   邪道といわれるかもしれません………。
   まぁ、物事の説明の仕方くらいに思って聞いて下さい」


ゴジラ


紀長「……はい、分かりました……。
   教えて下さい……」

阿武「私の場合……、あくまでも私の場合……、
   『我慢』は主に自分の欲を押さえ込む意味に……、
   『辛抱』は大きな目的の為に苦労に耐える意味に……、
   『堪忍』は怒りを納める意味に使い分けています……」

紀長「……フム」

阿武「世界チャンピオン目指しての苦しい練習も、
   じっと『辛抱』を重ね、食べたいものも『我慢』して、
   減量してきましたが挑戦者選びの不正だけは
   『堪忍』出来ませんでした…。
   ……というような具合です」

紀長「……ナルホド……」


閻魔


阿武「……また、我慢する、辛抱するとは言いますが、
   堪忍するとは言わず……、
   堪忍してやると言うことが多いですね。
   堪忍袋に入ってくるものは、その人の許容できる
   怒りだと感じます。
   ……そして、それは性格の奥深い核心部分と、
   深い関係があると思っています…………」

紀長「…………」

阿武「これで、袋が一杯になって緒が切れないためには、
   袋そのものが大きいか……、
   あるいは怒りが少ない『おらかさ』がどれだけあるか、
   ということになりますかね……。
   太っ腹か……、慈愛が深いか……でしょう。
   こんな大切な、その人の性格の根幹に関わる所が切れると
   言うのですから……、これはもう命がけと思うんです。
   一生に一度のようなレベルの事だろうと思うんです……」


真っ赤


紀長「そんな、大層な事とは考えませんが………」

阿武「……私はそう考えます。
   NHKの大河ドラマ等でやる元禄物……あの忠臣蔵の
   最も有名な松の廊下の場面がありますよね」

紀長「……ええ」

阿武「昔からあの場面で堪忍袋の緒が切れるという表現が
   よく用いられています。
   『生来、短慮の長矩公……、
    おのれ憎っくき上野と、心は弥猛に逸れども、
    殿中で刃を抜いたなら、家は断絶、身は切腹……。
    捨つるこの身は厭わねど、残る家来が不憫じゃと、
    …………こらえこらえた14日。
    松の廊下の入り口で、犬侍じゃの、妊非人、禄盗人
    じゃと罵られ………、

    もうこれまでと堪忍袋の緒が切れた。

    まえ半に、た挟んだ、小っさ刀に手が掛かり
    上野! 待った!と斬りつける………』
    てな具合…………」





紀長「知っています。なるほど……。
   昔の人にとっては堪忍袋というのは、
   その人の命を賭けた『我慢』の限界だったの
   かもしれませんね」

阿武「いや……拘りますが……『堪忍』の限界ですね。
   私はそう考えます…………。
   ……でも、紀長さんのとらえ方も私は、今日非常に
   参考になりました。
   若い人には案外多いのかもしれませんね。
   ……今後、十分に参考にさせて頂きます……」

紀長「私も、少し、考えを膨らませてみようと思います。
   ありがとうございました」





阿武「こちらこそ、ありがとうございました」

衛品「えー……、では、私もひとつ………、
   えー、以前、キレルといえば……、
   それは誉め言葉だったんですよね……」

阿武「えっ……?」

紀長「フム……………」

衛品「『頭の切れる…………』へへへへっ。
   ……忙しいけど切れる人は優秀な人で、
   忙しくてすぐキレてしまうのが……私……。
   …………へへへへっ」

阿武「ダハ……! (>_<)」


          <完>






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Last updated  2023/03/28 12:34:17 PM
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