魂の叫び~響け、届け。~

パピヨン PHASE-10


ぼんやりとした意識がとろとろと覚醒する。



水の中から浮き上がるような感覚に身を任せ、
キラはうっすらと目を開いた。




見慣れない室内に一瞬困惑したものの、
ここがイザークの私室である事に思考が辿り着く。


隣では秀麗過ぎる程に整った顔立ちの恋人が安らかな寝息をたてていた。



「・・・寝顔まで見惚れるくらい綺麗だなんてズルいんだから」



寄り添う肌の温もりを確かめたくて、イザークの白い胸に頬をすり寄せた。


「俺の寝顔はお前だけが知っていればいい」


間近にある口元がニヤリと歪められると、
アイスブルーの瞳が覗く。


「起きてたの?」


つい咎める口調になってしまった僕の言葉に、
ついばむような優しいキスを顔中に何度も落としては甘くあやす。


「くすぐったいよ、イザークってば」


「ふむ・・・このままずっとこうしていたいが、
 プラント入港の瞬間を隊長自ら放棄する訳にもいかんな」



秀麗な顔を思案気に顰めると、
いやまてよ?だがしかし・・・と、
何やらしきりにブツブツと口の中で唱え出した。


「・・・イザーク?」


「決めたぞっ!」


イザークはそう言って起き上がると、手早く軍服を身に着け始める。


「キラ、ついて来いっ」

「ええっ!?」

「ああ、そうか、まだお前は動ける状態じゃないか・・・」


そんなイザークの言葉に、
昨夜の艶っぽい出来事が一気に脳内をフィードバックした。

瞬時にして顔に熱が集まるのを止められない。



こんな時は涼しいカオのイザークを恨めしく思える。

「よっ・・!」

掛け声と共に、
僕は身体に巻き付けたシーツごと軽々と抱き上げられてしまった。

細い腕の割には力持ち・・・いや、重力の違いのせいもあるか。



扉が開くエア音と共に通路へ出ると、
イザークは迷いのない足取りで先へと進んだ。



「ちょ・・?!どこ行く気っ!?僕まだ服着てな・・」


「しっかりつかまっていろ!」


何それ!その悪ぅい笑顔が怖いんですけど~!


あろうことか、イザークは僕を抱えたままブリッジに飛び込んだ。

当然ながら、
クルーの視線はいきなり突入して来た指揮官と、
その腕の中で硬直しまくっている人物に集中砲火を浴びせた。


羞恥と混乱でキラはシーツの中に顔を伏せると、
イザークの身体にギュッとしがみつく。

うう、視線がイタい・・・。

「え?」

「隊長?」

「姫?」

呆気に取られたような声が次々と上がる中、


「うっわ・・これはさすがに想定外だぜ」


覚えのある声に恐る恐る顔を上げると、
ディアッカが目を丸くして僕を覗き込んでいた。



「オペレーター!緊急放送だ!全ブロックに回線を繋げ!」

「はいっ」

指揮官の声に、オペレーターは手早く回線を開く。
一体何する気なの!?



「あー・・・こほん。皆、よく聞け。
 こちらヴォルテール、イザーク・ジュールだ。
 キラ・ヒビキは俺のモノになった!
 今後一切、俺の許可なくこいつに触れるのは許さん!
 間違って手を出してみろ?
 死んだ方がマシだって思いをさせてやるからな!
 よぉぉぉく覚えておけよっ!以上っ」



「アッハッハッハッ!グゥレイト!イザーク、お前ホント最高だよ」


「ふん、
 言っておくが貴様も例外じゃないぞ、
 気安くキラに触るのは許さんからな」


「イザークってば」


「何だ不満か?だがキラ、悪いが今回はお前にも文句は言わせん。
 言ったろう?後悔しても無駄だ、と。


 俺はこれからも不測の事態にはプラントの為に剣をとって戦う。
 机にかじりついてただ議論だけしていては、ついて来る部下なぞいなからな」


アイスブルーの瞳は、その決意の深さを示すように強く煌めいた。


「お前も・・・一緒に来い!」


イザークを好きだと思い知るのはいつもこんな瞬間。

真っ直ぐで潔く、
誇らしい恋人。


僕はその度に、
こうして何度も惚れ直すんだ。





「もう・・・イザークってば・・・
 大好きだよっ!」


初めてキラの方から贈られた口付けは、
極上の媚薬となってイザークを酔わせた。



「おぉっと、ジュール隊、回れ右っ!
 隊長と恋人殿に全員敬礼!」



ディアッカの掛け声に、
艦内は悲鳴と歓声と黄色い声に包まれながらの入港となった。




*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  


■PHASE-11■へ続く


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