恋涙～ renrui ～

前世の追憶壱拾五

私は背筋が凍りつくような感覚に囚われる
逃げなくてはいけない、本能が判断する
私は大きく唾を飲み込み逃げ道を模索するも逃げ道は一つしかなかった
緑青の背越しに見える開け放たれた給湯室の入口

私の背はひんやりとした壁に当たる

「来ないで・・・来たら舌を噛むから」

私は強く唇を噛締めてみるもまるで声は届いていないかのように
ジリジリと距離を縮め緑青は私の両手をそれぞれで掴みそして一つ
にすると私の頭上に上げ片手で押さえつける
押さえつけられた腕から電気のような痛みが走る

「痛っ・・・んんっ」

次の言葉を口にする前に私の唇は緑青の薄い形のいい唇によって
塞がれる、その強引に口付けられた唇の感触が私の躰全体に一気に
広がり更にその唇から紅い舌が捻じ込まれ私の舌を掬うように絡めとられる

「・・・ぁん・・嫌」

私は思いっきり緑青の唇を噛むとようやく離され潤む瞳で緑青を見ると
唇が赤く滲んでいる、それを私の手を掴む逆手の親指で拭い妖しく微笑みを
浮かべる緑青

『渡さない・・・アイツなんかに』

その瞳は更にギラつき腕を掴む手がキツクなる、緑青の手は首筋に伸ばされ
すべるように鎖骨に行きその腕は私のシャツの中へと侵入しようとした瞬間

「私に触れて良いのは、若狭様だけ。貴方になど触れて欲しくはありませぬ」

私の口から放たれた言葉、それなのに私は驚いてしまった
数秒の間の出来事。自分の意識を誰かに奪われた気がした
私の言葉に緑青の舌打ちが聞こえるもその腕は止まることなく私の
膨らみへと辿り着こうとしていた

意を決した私は思いっきり履いていたパンプスで緑青の足を踏みつける
緑青は痛みからか拘束していた私の手を離し蹲る
私はその隙に緑青の横をすり抜け給湯室から出ようとした時
私の片手を緑青が掴む

私はブンブンと大きく手をふり暴れると近くにあったヤカンに手が当たり
幸運にもお湯の雫が緑青にかかり手は緩み更にうめき声をあげる緑青を後目に
私は給湯室から出ると乱れた身なりを気にも留めず会社から飛び出す

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