”晴 また来るからね
元気でね 
牛乳飲みなさいよ”



この言葉を、もう何回聞いただろうか。






俺の家は、両親が離婚した。
今時、そう珍しくもない。
ただ、当時45歳を過ぎていた母さんには、学生である俺を育てられるだけの、預金も仕事もなかった。
だから、仕方なく出稼ぎに出ることになった。
まあ、出稼ぎといっても、そんなにオーバーなモノではなく、4ヶ月に一度は会える。
俺はと言うと、物静かで厳格な祖母に預けられた。
その祖母は俺にとって、少し怖い存在だった。だから甘えることなく、会話弾むことなく、堅苦しい感じの生活だった。
世の中には、いろいろな人がいる。
俺には、家族や家がある。
きっと十分に幸せなほうなんだ。










「1・・・2、3・・・・4・・・。」
晴(ハル)はぼやいた。
どうやら、学校の休み時間、偶然見たカレンダーを眺めているようだ。
その少年は、背丈が小さく153㎝あるかないかくらいである。
その割に目つきが鋭く、まるで小動物のように凶暴そうだ。
「もう、4ヶ月たったんだ・・・・・・。」
その凛とした顔が微妙にゆがみ、晴はそこから離れようとした。
すると、一人の男子生徒が話しかけてきた。
「おい 晴、な~にカレンダー眺めてんだ?」
その男は、晴の小さな背丈に、覆い被さるように体重をかけてきた。
そんな悪ふざけに少し沈黙すれば、晴はその男子生徒の腕をつかんだ。
「進二 重い。」
その男は進二(シンジ)とも呼ばれ、重いとも言われたのだが、まったく気にしない様子。
それどころか、何してんのと晴に乗っかかり、くつろぎながら繰り返し問う。
これはもう、言うだけ無駄だと思い、晴は進二のみぞおちにヒジ打ちを一発。
「ぐはぁ!!  っ痛ってぇー!! 相変わらず小型なのに凶暴だな、お前。」
「別に・・・避けない進二が悪い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と思う。」
「なんじゃそりゃ!!」
「文句あるか。」
「・・・・・こんにゃろ。」
「ま、いーや!それより今日、俺ら部活ねーよな。」
進二は唐突に話題を変えた。
「うん。」
そう、今日は部活動休止日なのだ。
「んでよ。そう言う日は遊ぶべきだと思うワケよ。
仮にも受験生だとしても、そうそう日は神様が俺に「遊べー遊べー」っていうんだよな!これが。」
自分の世界に入って熱弁する進二。
それを聞きつつも、机に戻って、ちゃくちゃくと次の授業の準備をする晴。
「それで?」
しかもきちんと聞いている。その行動が妙に手慣れているのは、やはり付き合いが長いからだろうか。
「まあお前は、毎回テストで10番以内に入ってんだ。
だから、少しは頭をリラックスさせれば、お前のナカの眠れる才能が開花するかもだぞ?!」
「・・・・んで?」
何が言いたいかは分かったが、一応聞き返す晴。
「と、いうことで、遊ぼうじゃねえか!!ボーリングのタダ券が4人分あんだよ。だから、弘樹とか響子とか誘って行こーぜ!!」
やっと本題を言い、お疲れ気味の進二。
「・・・・・・別に、いいけど。」
「お!そうかそうか♪そう言うかと思って、実はあの二人はもう誘い済みだったりする♪」
「・・・・・あ、そ。」
半分あきれ気味で冷たく返す晴。
だが、返事をしておきながら、晴の心境は微妙なモノだった。

今日、母さんの来る日だ。
だけど、どうせ、機械の扱えない祖母のために直接生活費を渡しにくるだけだ。
俺が居なきゃいけねえ理由なんてどこにもねえ。
・・・・・別に、遊んでたって・・・・・・。
だが、そうは思うものの、晴は昔から母さんが帰ってくる日いつもずっと家にいた。
それまではすべて休日に来ていたから、休日は今日が初めてだ。
だから、普通に部活があったと思えば、問題がないはずだ。
だけど、晴のナカには、なにかざわつくモノが残って仕方ないのであった。







「んあ~!楽しかったな♪」
空はもう薄暗くなったと頃、そう、時刻は6:30を過ぎていた。
そんな中で、さんざん遊んだ四人は帰路についた。
「そりゃ、お前らのペアが勝ったもんな~。」
弘樹という男は、皮肉っぽく言った。
「ははは!!バレー部ホープの俺と、バスケ部エースの晴に勝てると思ってたのかー!」
進二は鼻をならし、弘樹につっかかる。
「・・・・・・未来の、ホープだろ??」
弘樹はツッコミにかかった。確かに、晴はエースなのだが、進二はエースと言うわけではない。
「そう・・・未来、未来だけど、いつかなる!!」
「・・・・・・・・何を根拠に・・・・・・・。」
そんな会話が続いた。





「んじゃ、俺らはここで。じゃーなー。」
「バイバーイv」
弘樹と響子のカップルは、晴達と途中で別れた。




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