バル対策本部  元帥の間

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四章 可愛い暴君 第一話



「癒李!はよそのPCから離れ!!」

「このPCと居ったらあかん!!うち等を不幸にする!!!」


四章 可愛い暴君 第一話 


俺は、このゲームを始めて間もない

ただの礼儀知らずな初心者だったはずだ

何をどうすれば良いかもわからない

導いてくれる奴だって居ない

初めは皆そういうもんだろ?


長い事やって、徐々に打ち解けて

沢山の仲間ができて

この世界を有意義に過ごせたはずだ

でも、俺には

普通のプレイヤーが体験する楽しみを得られなかった

俺が得られたものとは

他人を恐れる不安と恐怖

そして俺は狂鬼と言うポゼッションPCに出会った

この名は悪魔憑依=possession PC

PPCなどと呼ばれたが、これは後にGMから聞く事になった

まぁ・・・それはまだ先の話だが




俺は狂鬼と別れた後、必死に自分のレベルを上げていた

気を紛らわせたかった

当時俺はまだ世間一般のガキだった

あの光景を、思い出しただけで

リアルの自分は鳥肌が立っている

スプラッターゲームなはずは無いのに

笑って済ませられない光景

そして悪い事に全て現実

さらにこの事実を全て受け入れなければいけない


「うぁああああああああああ!!!!」


叫びながら、目に焼きつけられた光景を必死に誤魔化した

何故、俺はあんな所で平常心を保っていた・・・

「その・・・そいつらを殺したってことは、天使は?」

「始末・・・したのか?」

俺はあの時何故こんな言葉を口にした!!?

くそ・・・俺も

狂ってきてるのか?


武器を地面に落として、俺は膝からしゃがみ込んだ

何もかも今は忘れたい・・・

・・・はは・・・言ってたな・・・

『心を・・・精神を強く保ってください』って・・・

・・・俺は

・・・・・あいつみたいに強くねぇよ



俺はこの日を境に、このメイプルストーリーにのめり込むようになった

こんなゲームすぐ辞めて、他のMMOでもやれば良かったのだが

そんな気にさせない不思議な魅力がこのゲームには有った

ほんと・・・何十年サービス続いてんだ・・・

不動の人気・・・か

それでも普通のMMOとしては明らかに妙だ

評判など限りなく低いはずなのに

そして今やサービス停止の危機だ


・・・見届けてやる

こう考えている今でも、どっかで見てんだろ?

俺は、ここの最後を見届けてやる

もう、この問題は俺に関係大有りになった

「俺は・・・この力から逃げない」

悪魔が居るなら、俺が利用してやる!!


そして、俺は黙々とレベルを上げていった

相変わらず、鎖位はまだINしない

雷破はどうやらあの悲劇から完全に立ち直っているようで

ほぼ毎日のようにINしていた

俺はレベルも30を超え、まず最初の目標のスピアマンになることができた

2時転職して、これで本格的に槍を扱う事になったわけだ

不思議とチェイサーはこの期間俺の前には現れなかった

まぁ・・・現れない方が良いんだが・・・


「よし、これで38レベか・・・」

「ルディブリアムか、結構経験値は稼げるな」

「もうそろそろグループクエスト行けんのかな・・・」

「・・・はは・・・トラウマになってやっぱ行く気がしないな・・・」


あの悲劇を思い出しちまう・・・

これじゃ雷破も誘えない・・・

まぁ・・・レベル上げできる場所なんて幾らでm


「あの・・・」


不意に後ろから誰かに呼び掛けられた

俺は後ろに振り向いてみると、背の小さな女性PCが立っていた

・・・小学生並みにちっせぇ・・・・


「なんだ?」


「あ、あの・・・クエスト・・・パーティー組んでくれませんか?」

「ルディクエなんですけど・・・」


ルディクエって事はグループクエストか・・・

・・・せっかくだけど、断るか


「悪いが、今忙しいんだ・・・」

「他当たってくれ、休日だから簡単に人見つかるだろ・・・」


忙しいってのは嘘だが・・・

この際仕方ない・・・よな


「そ、そこを何とか・・・」

「このままパーティー集まらなかったら・・・」

「また・・・殴られるんです・・・・」


は?・・・殴られる・・・?

ゲームでか?・・・もしかしてリアルでか!?

いや、そんな訳ないと思うが・・・なんか怯えてるしな・・・

ゲームなんだから相手の表情や感情なんて分かんないで良いのに

疑似体験ゲームってのは嫌いだな・・・

昔はしょーもない2Dゲームだったらしいが


「どうしても組まなきゃダメか?」


「い、いえ!・・・別に、そういうわけでも・・・」

「あの・・・申し訳ございませんでした、失礼します!」


放って置けば良かったものを・・・

訳ってか・・・聞いちまったしな


「分かった、やるよ、グループクエスト」

「一回だけな・・・」


「え!・・・あ、ありがとうございます!!!」

泣きそうだったそいつの顔が笑顔に変わったと思えば

俺の手をぐいぐい引っ張ってリーダーの元に連れて行こうとした

「なぁ、さっき殴られるって言ってたが、誰にだ?」


「私の友人です」

友人ね・・・自分の事を怯えるほど強く殴る友人・・・

それは友人と言えるのか?・・・

そういう考えを過ぎらせている間に

ぐいぐい引っ張られてたせいか気がつくと


「着きました!緋花って方がリーダーさんです!」


緋花ね・・・

あ、あれかな・・・女性PCか

誘いに来たこいつよりは少し背が大きいな

それでも小さい方か・・・


「遅っそいな~待ちくたびれたっちゅぅねん!」

「癒李!30分以上かかってやっと1人かいな!?」

「しかも38レベスピアマン・・・うっわ最悪や・・・」


何故俺は会ったばかりの奴に最悪とか言われてるんだ

・・・やっぱ断れば良かったな


「ん・・・!!?」

「あ、・・・あんた」


緋花が声を震わしながら俺を指差しながら見ている

何だよ・・・指差されるとすげぇ気分悪いんだが・・・

途端、緋花の表情が驚愕と恐怖の入り混じった顔になっていた


「あんた・・・どえらいもんに憑かれとるな!」

「癒李!はよそのPCから離れ!!」

「このPCと居ったらあかん!!うち等を不幸にする!!!」


四章 可愛い暴君 第一話 完


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