バル対策本部  元帥の間

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四章 可愛い暴君 第四話



「癒李の居場所を作ってあげれたんや」

「あんたは・・・なんでここに居るんや?」


四章 可愛い暴君 第四話 


俺の意識が・・・PCから遠のいて行く・・・・

感覚が・・・PCから引き剥がされる・・・

あれは・・・緋花か?・・・・

目が赤く光って・・・口から黒い煙が出てる・・・

そうか・・・俺は飲み込まれたんだな・・・悪魔に

だから・・・俺は、お前に殺されるんだな・・・


「ウァアアアアアアア!!!!!」

「3分やでアバドン!もちろん殺さへん程度にや!!」

「頼むで!助けたってや!!」


緋花が苦しみの表情で叫ぶ

そして緋花の意識が完全に消えると

目が赤く輝き、髪の毛はゆらゆらと逆立っていた

口からは黒い瘴気を吐き出し、その姿はまるで

悪魔そのものだった。


「承知した、宿主」


緋花の口から出た言葉は

明らかに緋花のものではなかった

緋花の悪魔 アバドン

名前の意味は、破壊者


これは緋花の危険な賭け

必ずしもアバドンが悪食を殺さないとは限らない

アバドンが内から出てこれる時間は3分

この3分の間に悪食の悪魔自身に深くダメージを与える事

3分では、殺す気でやらねば殺られる

だが、殺してはいけない

助けるのだ


「行くぞ」


緋花が地面を強く蹴り、地面のデータが勢い良く剥がれた

両手の武器を消し、素手の鎧のまま

悪食に向かって走り出した

悪食の前には既に何十体ものチェイサーが出現しており

悪食を攻撃しているが、悉く斬り捨てられていく有様


チェイサーがこちらに向かってくる緋花に対し

腕を変形させ、黒い弓を緋花に向ける

緋花は動ずることなく悪食に向かって猛スピードで走っている


黒い弓から矢が一斉に放たれ、緋花の頭に突き刺さる


「3分というのは意外と短いもの・・・」

「期待は・・・裏儀らない!」


頭に突き刺さったはずが、黒い矢を歯で受け止めていた

そして怯んだ様子も無く、再び悪食に向かって走り出すが

行く手を防ぐように数十体のチェイサーが立ち塞がる

悪食は意識を失いながらもチェイサー達を薙ぎ倒し

無理やり緋花の前に出て、こう囁いた


「カイナラサレタカ?」


声からして悪食の物ではなく

恐らくは悪食の悪魔である事を悟った


「多分な」


至近距離で近づいてきた悪食の顔に小さな拳をめり込ませる

悪食は一瞬怯んだが、途端に笑い出した


「カイナラサレタカ、タカガヤドヌシニ」

「キサマハヤドヌシニシタガウノカ?」


「それが可笑しな事か?」


緋花が言い返した後、悪食はまた大笑いした

そして吐き捨てるようにこう言い放った


「キサマハ、アクマシッカクダナ」


緋花は気にする事無く、言い返す


「聖を取り込んだ貴様に言われたくないな」


この会話はもはや悪食と緋花ではなく

ルシファーとアバドンによるもの

二人はそのまま戦い続けた

互いの攻撃がぶつかり合う衝撃で大勢のチェイサーが吹き飛ぶ


「貴様の宿主は、とても弱い」

「だが、いずれ貴様は、従うのではなく支配されるだろうな」


緋花の膝蹴りが悪食の腹に入り

悪食が地面に膝を付いた

だが、顔は苦しみに歪んでは居ない

緋花の言葉を嘲笑うようにケラケラ笑っていた


「ハハハハハハ・・・コレハオレノモノダ!!」

「シハイサレル?シハイスルノハオレダ!!!」


二本のパルチザンを狂ったように振り回す悪食

右手のパルチザンを地面に刺し

勢い良く上に振り上げる

振り上げた場所から一直線に地面のデータが剥がれ散り

その衝撃が緋花を貫通する

直撃を確認し笑みをこぼす悪食

だが、それはただの残像だった


「もうすぐ3分だ」

「殺さないから、せめて静まれ」


後ろから聞こえたアバドンの声

怒りの表情で奥歯を噛み締める悪食

悪食の背後には、既に緋花が武器を構えていた


「宿主、私は期待に答えた。」








声がする・・・

誰だ?・・・

ここは何も無い暗闇・・・

声が・・・聞こえる・・・・


「おっ、やっとお目覚めやな」


緋花・・・

目覚めた?・・・

俺は・・・


「俺は・・・何をした?」


「うちらに攻撃。」


攻撃・・・

じゃぁやっぱり・・・俺は

でも・・・死んでない


「なんで、殺さなかった?」


殺さなきゃいけない状況だったはずだ

自分でも分かっていた

染まりすぎてはいけないと分かっていた


「アホか、まだ11年しか生きてへん子を人殺しにさせるんか?」


「・・・・ごめん」

「でも・・・何で俺生きてるんだ?」


時間が経てば収まるようなもんじゃない・・・

緋花から何らかの攻撃を受けたはずだ

でも、どこも痛まない・・・


「はっきりとした事は言えんけど」

「うちの賭けや」


賭け・・・

そんなに酷い状況だったのか・・・

チェイサー達はもう居ない・・・

一般プレイヤーも少なからずINしてきている

この広いルディブリアムを埋め尽くす程のチェイサーが居たなんて

よく生きてたよな・・・

・・・そういえば、癒李が居ないな・・・


「癒李ならもうログアウトしたから心配せんでええで」

「今回のは流石に危なかったしな」


そうか・・・

結局また、助けられたな


「緋花・・・お前はこの世界が好きか?」


「うちにとっては、好きにはなれへんなぁ」


「なら、何故ここに居られるんだ?」


「うちがここに居る理由なんて」

「ただ、癒李とここで過ごしたいだけなんや」

「癒李の居場所を作ってあげれたんや」

「あんたは・・・なんでここに居るんや?」


「俺か?」




「分からない」


四章 可愛い暴君 第四話 完

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