あい・らぶ・いんそん

別離9



その頃ジェミンの会社に、サムと弁護士が訪れていた。

「ほんとうにありがとうございました。おかげできっとミスターカンも

幸せだったと思います。」

サムが涙ぐみながら言った。

「今日はカン・イヌクさんの、生前のご指示でうかがいました。まずは

カンさんからお預かりした手紙とそれから、これは銀行のプライベート

ボックスのキーです。ここに詳しいことが書いてありますので、良くご

確認ください。また、今後の事につきましては又改めてうかがいます。」

と、弁護士が書類などを置いて帰った。

(あいつが俺に手紙を?)

イヌクからの手紙を手に取り、ジェミンは早速読み始めた。



親愛なるチョン・ジェミン

スジョンと最後の時間を過ごさせてくれたことを、心から感謝する。

おまえがこれを読む頃には、俺はもうこの世にはいないだろう。

だが、最後におまえにはどうしても、謝らなければならない事がある。

それはおまえが入院中、疲れ果てて眠っているスジョンを一度だけ抱い

たことだ。

どうかスジョンを責めないでくれ・・あいつは泣いていた。おまえを

思って泣いていた。それでも、最後に・・俺はスジョンが欲しかった。

医者にこのままでは余命幾ばくもないと診断された直後、おまえ達に

出会った。

神様がくれたチャンスだと思った。スジョンのそばで静かに逝きたい・・

・願いはそれだけだったが、多くの苦しみをスジョンやおまえに残してし

まった事を謝る。

きっとスジョンは自分を責めることだろう。どんな状況でもおまえを裏

切りたくなかったはずだ。

だから、俺はその変わりに残された命と、引き替えにしようと決心した。

生きる可能性があると言われた手術は断った。このまま生きてスジョンを

追いかける人生なら、この辺であいつを本当に自由にしてあげたいと思う。

もう苦しむことも、苦しめることにも疲れ果てたよ。

薬ももう飲まないことにしよう。せめてスジョンがそばにいてくれる間に、

静かに旅立とうと思っている。

だから、どうかスジョンを責めないでくれ。責めるなら俺だけを責めてくれ。

今度生まれ変わったら、おまえとスジョンと兄弟で生まれてこよう。

勿論長男は俺だ、そして俺たちの可愛い妹を二人で心から愛そう・・もし

かして、またライバルだったら、今度こそ俺がスジョンを取り返してみせ

ようか・・・そんなことを考えていたら、死への恐怖も孤独もなくなって

きた。

スジョンが、そばにいてくれるおかげかも知れないな。

おまえは憎いライバルだったが、今は懐かしい・・兄弟のように。

死と向き合って、多くの事を学んだような気がするよ。あのときおまえに

撃たれていたら、これほど満ち足りた気持ちでは死ねなかっただろう。

スジョンを頼む。たくさんの苦しい想いをさせてしまった。どうかスジョン

を幸せにしてやってくれ、それが俺の願いだ。

そしてもうひとつ、おまえに頼みがある。お袋には、俺がどこかで生きて

いると思わせてくれないか。

毎年12月5日、お袋の誕生日には俺の名前で便りを送ってくれ。今、死

を前にして考えてみれば、こんな事を頼めるのはおまえしかいなかった。

せめておまえだけは、憎んでもいいから俺を覚えていてくれ。おまえが愛

した女を、同じように愛したカン・イヌクという男がいたことを忘れない

で欲しい。

P財閥の株はすべておまえに譲る。帰ってスジョンと幸せに暮らせ。

俺がスジョンにできる最後の贈り物だ。

友よ、ライバルよ、先に逝く。

そして愛するスジョン・・お別れだ・・永遠に



ジェミンは泣いた。

そして言った。

「カン・イヌク・・・おまえも俺も、命がけでスジョンを愛した。違う

のはただ・・・スジョンが俺を愛してくれたということだ。俺がもしも

おまえなら・・・やっぱり同じ気持ちになっただろう。命を引き替えに

していったおまえの気持ちを、絶対に無駄にはしないから・・安心しろ。

男と男の約束だ。」

そしてそれと同時に、スジョンがどれほど苦しんでいたかを思うと、

スジョンが哀れでならなかった。

たまらずスジョンを抱きしめたいと思ったジェミンは、会社を飛び出し

スジョンの待つ我が家へと急ぐのだった。

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