あい・らぶ・いんそん

愛再び~最終回



涙を見せまいとうつむきながらスジョンはチケットを取り出した。

そして、今にもゲートに入ろうとしたとき

「お嬢さん・・忘れ物ですよ」

と目の前で、大きな声がした。

スジョンが驚いて顔を上げると、そこには目を潤ませながら優しく

笑っているジェミンの姿があった。

「おまえも・・そそっかしいなぁ・・・俺を置いて・・・何処へ行く」

少しでもスジョンの心を軽くしてあげたいジェミンは、さりげなく迎え

入れてあげたかったのだ。

しかし、スジョンを見つけられた安堵感で、ジェミンの瞳から涙が幾筋

も流れ落ち始める。それでもジェミンは、スジョンを優しく見つめ笑お

うとしていた。

驚いて顔を上げたスジョンの頬にも、幾筋もの涙が伝っていた。

一瞬逃げようとするスジョンの腕をジェミンは引き寄せて、力強く抱

きしめた。

「もう・・苦しむのは終わりにしよう。おまえ達を幸せにするから・

・・約束するから・・だから、もう何処にも行くな」

スジョンは自分の耳を疑った。

ジェミンが「おまえ達」と言った言葉に、ジェミンの愛の強さと深さを

知った。

すべてを知って、ジェミンが許してくれたことを知ったのだ。

スジョンの張りつめていた心の糸がぷつんと切れた。

「あなた・・」

ジェミンの胸に顔を埋めて大声をあげて泣くスジョンに、ジェミンが

言った

「おまえの子は俺たちの子供だ。愛して・・育てて・・幸せにして

あげような」

スジョンを抱きしめながら、ジェミンも又溢れる涙をこらえることが

できなかった。

「だから、何処にも行くな・・俺を置いて、もう何処にも行くな」

人目もはばからず二人は抱き合い、唇を重ねた。

それは、愛と憎しみの狭間で翻弄され、傷つき、命を懸けた長い・・

・長い流浪の旅路だった。

そして、多くの傷みを知った、深い愛だった・・・・。


時が流れ・・・。


イヌクの母が公園のベンチで一人、イヌクからのバースディカード

と一緒に入っていた小さなぬいぐるみを手に、寂しそうに想い出に

ふけっていた。

『母さん、お誕生日おめでとう。可愛いぬいぐるみを見つけたので

送るよ。俺だと思ってかわいがってください。体に気をつけて・・

・俺は元気です。イヌク』

「ぬいぐるみだなんて・・・子供みたいに・・」

と、つぶやきながら何度も読み返しては、愛おしそうにぬいぐるみ

をなでていた。

そのぬいぐるみの中にはイヌクの遺髪が入っていることを、母は知ら

なかった。

ジェミンが特別にぬいぐるみを作らせ、その中にイヌクの遺髪を入

れて誕生日のプレゼントと共に送ったものだった。

するとそのとき、赤いボールが転がってきてイヌクの母の足下で止まった。

「おばぁちゃん・・・それとって」

見ると小さな男の子が、にこにこ笑いながら走り寄ってきた。

「はい」

イヌクの母がボールを手渡すと

「ありがとう」

と大きな声で言った。

「あら・・偉いわね。ボクは何歳?」

「ボクは5才です。」

「そう・・・お名前は?」

「チョン・イヌクです。こっちは弟のチョン・ドンウオン、3才です」

すると弟のドンウオンも

「3才です」

と言ってぺこりと愛想良くお辞儀をした。

「イヌク?そう・・ボクの名前もイヌクなのね。おばぁちゃんにも

イヌクって言う子供がいるのよ。お仕事が忙しくて、世界中を飛び

回っているの」

すると

「ふ~ん、そしたらおばちゃんは可哀想だね。寂しいでしょ?」

と小さなイヌクが言った。

「うちのパパとママはボクたちがちょっとでもいないと、すぐに寂

しかったって言うよね」

「うん・・しゃみしかったって・・ね」

弟が相づちをうった。

「二人で公園に来たの?」

イヌクの母が心配そうに聞くと

「ううん・・あそこにパパとママがいるの」

すると少し離れたところに、ジェミンと3ヶ月の女の子を抱いて

いるスジョンがベンチに座っていた。

イヌクの母はそれが誰だかはまったく気付かずに、にっこり微笑ん

で挨拶をすると、ジェミンたちも挨拶を返した。

「優しそうなパパとママね」

「うん・・パパがねいつも言うの。パパはみんなを愛してるよ・・って。

だから、みんな仲良しだよって。」

「だけどね・・ボクはパパのひみちゅを知ってるよ?あのねぁ・・」

弟のドンウオンが、イヌクの母の耳元でそっと言った。

「パパが一番愛しているのは、ママなんだよ」

そして3人で笑った。

「おばぁちゃん・・遊んであげようか?」

「遊んであげようか?」

二人の子供達の小さな手が、イヌクの母の手に包まれる。

利発で弟思いの兄は、お茶目な弟を面倒見ながら遊び始めた。

イヌクの母は、一緒に遊んでいると何故か、どこかで会ったような懐

かしい思いがしていた。

やがて、3人でボールを追いかけて遊び始め、楽しそうなはしゃぎ声

が聞こえる。

ジェミンとスジョンはその様子を嬉しそうに眺めていた。

「寒くないか」

幼子を抱くスジョンのストールを肩に掛け直しながら、ジェミンが言った。

「ええ、大丈夫よ」

スジョンは幸せそうに答え、ジェミンの肩にもたれかかるとジェミンは

そっとスジョンの肩を抱き寄せた。

スジョンの腕の中で眠る可愛らしい娘を優しく見つめ、そしてジェミンは

ゆっくり空を仰ぎ、そっとイヌクに話しかけた。

「イヌク・・見ているか?これで良いだろ?おまえのお袋さんと俺達の

子供達が楽しそうに遊んでいるよ。おまえが命がけで愛したスジョンと、

俺達の子供そして、おまえのお袋さんも必ず、俺が守っていくからな・・

・男と男の約束だ。」

青く澄んだ空に真っ白な飛行機雲が一筋・・・ゆっくりと流れていく。

公園に子供達の笑い声が響く、穏やかな初冬の昼下がりの事だった。 


                     完

『愛再び』を読み終わった感想、作者yumehanabiさんへのメッセージは コチラ まで。

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