ねこねここねこ

十月の部屋で

     十月の部屋で



床が冷えてきた
誰かを悼んでいるような気がしてきた

勝浦という小さな港町で
椅子を壊している老人をみたことを思いだした
癒すような壊しかただった

そこの砂浜で
私はクラワンカの残欠をひろっている
洗われて優しくまるくなっていた
こうした拒絶の意志もあるのだなとそのとき思った

すぐ暮れるのに十月の午後はひろい
「手もとから崩れ遠方で成就する
別の地方の名もない希望」
数年まえに こう私はこの部屋でかいている
どういうつもりでかいたのか忘れたけれど
いま 私は柔らかな大きな上着が欲しかった
崩壊と転生 季節の風がカーテンを大きくふくらます

老人の手仕事のさきにも
なにか越えがたいような明るい飛躍があったのだと思う


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