ねこねここねこ

わがトロイメライ

   わがトロイメライ

夕ぐれ
受話器から
シューマンがきこえてきた
しかし
ほんとうに
それがシューマンだかなんだか
私は知らないのだ
だが
仮にシューマンでないとしたら
世の中のことは
たいがい
わからなかったというような悲しみを誘うのだ
彼は
ピアノのために
指のあいだを
スウーッと切り
ピアノを駄目にした
だから
彼は
駄目になったピアノの前で
曲をかくよりなかった
以上かいたこと 全部がでたらめでないとしても
そのあいだにも
ヒゲは伸び
朝の傷の
水たまりは少しちぢまり
物価は確実に上昇
タクラカマンのような高原を
牧者が歩いて行く乾いた足音もきこえ
ウイスキーが欲しくなり
あい変らず
背なかを茶色にまるめて
傷だらけの指から
したたりおちてくる 夕焼けの部屋で
否応なしだなと思って
シューマンをきいていた


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