ねこねここねこ

「途中」考序説

   「途中」考序説

スプーンが宙にふっと止まる
カレーライスをたべかけていて
うまい? と女房にきかれたら
うまくも不味くもないと、こたえるだろうか
唐突に話しをうつすが
滋賀から大原をぬけて京都にむかう街道がある

ことしの夏
京都へでて大原に行った
寺院のことは略す
いまとなっては
目的地でもなんでもない
ふっと宙にういた
スプーンのようなもの?

街道は京都から滋賀にむかって
二本の白い箸のように並んでいて
いずれもバスが走っていた
その箸が
ものをはさむように
一点にかさなる一帯を
「途中峠」というらしい
大原の駐車場で客を待つ
そうして、暑いいちにちをじっと過ごす
バスの前後にそのようにかかれていた
――このバスは
途中までしか行きませんよ
ええ、結構ですと誰がいいきれよう

しかし「途中」という地名があるのである
余計なことだが
地図によれば途中から北にむかう
もう一本の街道がのびていて
越前の小浜にとどく
あらためて地名の索引を調べたところ
「途中」は日本にたった一個所しかないのである
さかしらなことよ、とさりげなくいなすべきか
うつむくべきか
さぁて、これで皿洗いも済んだと
台所で女房の快活な声
あいかわらず宙にういたままの
ぼくの見えないスプーン



* 「途中」・・1.ある場所に行き着くまでの間。2.物事がまだ終わらないうち。『角川新国語辞典』より


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: