アサハカな論考もしくは非生産的妄想

アサハカな論考もしくは非生産的妄想

August 30, 2004
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テーマ: 新撰組!(307)
カテゴリ: カテゴリ未分類
私はあなたに出会い、あなたに賭けた。

しかし、それはもう自分の手に届かない所へ行ってしまった。
ここにはもう、私の居るべき場所はない――。

隊を自分の居るべき理想の場所へと導く力は今の自分にはない。居るべきでない場所で自分を偽って生きるほど図太くもない。追い詰められた山南の心身は、気がつけばすっかり疲れ果てていた。もはやここから脱け出すよりほかに、この絶望的な疲労感から逃れる術はないように思われた。連れ戻されれば切腹は必至だが、それならそれで構わない。居場所なく悶々と過ごすよりずっとよかった。

傍らには明里がいる。彼女といるときだけが今の山南にとって唯一の安らぎの場だった。水仙を菜の花と無邪気に言い張る彼女にその誤りを優しく諭しつつ、山南は彼女との江戸での穏やかな暮らしを想像した。彼女の役に立つことなら私にもできる。自分の居るべき場所が、そこにならあるのだろう。

団子の残りは串の尻から食べればよい。明里が得意気に説いた何げない知恵が妙に引っかかった。物事を時には逆から見てみたら――。逃亡のみが救われる唯一の道と頑なに思い詰め、追手が来る前に早く急がねばと、気ばかり焦っていた自分が滑稽に思えた。東へ、東へと向けていた視線を、ふと逃げ来た道に移した。総司の姿が目に入った。追手だった。総司には到底敵うはずもなく、脱走が頓挫したことを知った。無念――。明里とのささやかな夢は露と消え、かわりに「死」が眼前に突き付けられたことを実感した。

だがやがて山南は、追手が「総司」である意味を察する。脱走者を見逃す訳にはいかない立場の勇や歳三にできる精一杯の温情だった。山南はしばし瞑目し、あらためて自分の感情を冷静に理解してみようと試みた。心のどこかでこういう展開を待っていたような気もする。総司の姿を見て安堵している自分も確かにいた。山南は自分の運命を受け容れることを決意し、自ら総司を呼びとめた。いつもの穏やか微笑を満面にたたえて。

「こうして君と会ってしまった以上、もう私は逃げるつもりはない」。逃げてくれと懇願する総司に、山南はきっぱりと覚悟を告げた。新選組に自分の居場所はないという絶望は山南にとって不動だったが、そこにはかけがえのない友が居る――そのことに今さらながら気づいたのである。脱走時は永倉と左之助に助力を乞い、勇と総司には最後の助言をせずにいられなかった。彼らはいつでも頼りでになる存在であり、あるいはどうにも気にかかる存在だった。そんな彼らに背を向けることは間違いであるように思えてきた。死を現実のものとして意識するに至り、山南は自分が本当に求めていたものを明確に理解したのだった。



なにより、彼らが自分の命を惜しんでくれる友誼の情が嬉しかった。それで充分だった。私は、ここに居たかったのだ。自分が信じ、惚れ込んだ友が居るこの場所に、本当はずっと居たかったのだ――。山南は自分の本心をあらためて確信する。「近藤さん、私はあの日、試衛館の門を叩いた事を少しも後悔していませんよ」。この言葉に些かも嘘はない。山南は、ようやく確保した居場所を慈しむように、彼らが開け放った障子をことごとく自らの手で潔く閉じた。

明里が異変に気づいたのは、対面が許された場での山南の激昂と困惑を見たときだった。我がままを言っているのはどちらなのか。山南もそのことは重々承知しているが、死を選んだ身としてはこれ以上どうすることもできなかった。救ってやるべき女を救うことができず、それだけが心残りだった。やがて死装束をまとった山南のもとに現れた明里は、咲くはずのない菜の花を握りしめていた。「私の負けだ・・・」。何と心地よい敗北だろうか。うちは先生が思てはるほど阿呆やないんよ――そう言われた気がした。後ろめたさから解放された心地がした。無力な自分を許容してくれた明里に深く感謝し、山南は静かに障子を閉めた。静寂の後に残ったのは、果たすことの叶わぬ約束だった。「先生は人の道に背いたわけではない」。無念さがにじみ出る山崎の言葉を耳にしたときが、明里のけなげな配慮の限界だった。

山南の前に最後に姿を見せたのは、歳三。山南をここまで追い詰めたのが自分だということを、歳三は痛いほど理解していた。山南に面会し、情に流されて決心が鈍ることを恐れた。だが、歳三は現れた。最期の時を迎える友に正面から対峙する必要があると思った。どうして逃げ出したりしたんだ! 何故逃げ切らなかったんだ!――後悔混じりの悪態が喉まで出かかり、飲み込んだ。その答えは歳三自身が充分知っているから。

歳三の見るところ、山南は見かけによらず短慮な一面がある。上京途中での村上俊五郎との諍い、軍議での突然の激高。それでいて妙に諦めが早い。大坂船場の岩木枡屋では、刀が折れた後、脇差しに手を掛けながら抜くことができず、あっさりと観念の表情を浮かべた。今回もそう。後先考えず隊を脱け、追手に見つかると何の抵抗もせずに戻ってきた。目的遂行のために泥臭く粘る執念に欠けており、それが歳三には歯痒かった。

「あんたの進むべき道は俺が知ってる」。歳三は山南の危うさに気づいていた。歳三は芹沢に自らとどめの一撃を加えることで修羅の一線を越えたが、山南は平山を斬ることができなかった。到底実戦向きではない。歳三は戦闘の最前線から山南を外さざるを得なかった。だが、誰よりも山南を必要としたのもまた歳三であった。山南のように時勢を的確に捉える能力や、武士としての高潔な哲学は自分にはない。山南が勇に深く心酔し、その身を捧げようとしていることも知っている。歳三は日々の隊務は自らが強力に取り仕切ることを決意し、一方で山南には、勇の傍らで勇を支え導き、大局的見地から隊の行く末を見極めること、強引になりがちな自分を後方から見守り、手綱を締めてくれることを期待した。それが歳三が山南に用意した居場所だった。閑職だとは決して思っていなかった。

「奴を殺したのは俺とお前だ」。葛山の処罰は組織の非情な論理の帰結である。だが、そうした暗部を組織のトップに担わせることはできない。勇は常に崇拝されるべき存在でなければならない。結局、ナンバー2が処分の決定から刑の執行まですべてを担い、その責任を一身に背負わなければならないのである。歳三はその覚悟はできていたが、鬼の副長も時には罪悪感に心を引き裂かれそうになる。誰かこの苦しみを引き受けて欲しい。それを頼めるのは山南しかいなかった。勇を支える両輪は自分と山南でしかありえない。隊士の手前、弱音を吐くことは許されないが、山南なら分かってくれると思っていた。分かっていて欲しかった。

「悔やむことはない。君は正しかった」。山南はそんな歳三の深慮をすべて察していた。尽忠報国の大義を第一に考えるなら歳三のやり方に同意することは断じてできないが、歳三の立場ではそうするほかないことも理解していた。歳三はその役回りを一人で引き受けていたのだ。歳三の新選組に賭ける情熱には友として敬意さえ抱いている。勇に対する熱き友誼は互いに共有している。そして、自分にとって歳三は間違いなく莫逆の友だった。そのことをどうしても歳三に伝えたかった。不器用な歳三からはなむけの言葉が聞かれることはなく、最後の障子が歳三の手によって閉じられる。もはや思い残すことはない――山南は万感の思いでその背中を見送った。

新選組総長・山南敬助は逝った。作法に則った見事な切腹だった。総司に介錯を促す微笑みは苦痛に歪んでいたが、その目は限りなく優しく澄んでいた。

友誼に殉じた男の命は果てたが、肥大し続ける組織にあって、隊士たちの受け止め方は一様ではない。皆が山南除名に奔走する中で我関さずと書を読んでいた武田。歳三が島田を見張りの場から引き離す口実に使った石田散薬も、食いついたのは「背が伸びる」という一点のみだった。円満な解決を求めたが拒まれ、切腹の場で動揺を隠し切れない伊東。これが新選組かと底暗い戦慄を覚えていた。惜別の歌を詠む伊東に決して他意はないが、勇たちの慟哭とは次元が違っていた。山南と似て果てしなく心優しい平助。彼なら山南のナイーブな心情を理解できたかもしれない。だが彼はこの切迫した場におらず、隊士たちの狂おしい葛藤を味わっていない。微妙に生じる温度差は、またしても続く次なる悲劇への序章なのだ。

いとしき友はいずこに
この身は露と消えても

誠の名に集いし 遠い日の
あの旗に託した夢を――

山南の死を三谷氏がどのように扱いたかったのか。それはタイトルがすべてを物語っている。芹沢暗殺の回のタイトルは「新選組誕生」だった。芹沢の丁寧な心理描写は特筆されるべきだが、あくまでも「新選組」という組織が生まれるプロセスとして扱われた。それに対し今回は「友の死」。伊東は有能な志士を失ったことを悲しんだが、勇や歳三にとって山南敬助は、そのような一義的な存在ではなかった。寝食をともにし、熱き想いを共有し、同じ夢を追い続けた「友」だった。雄弁だが詰めが甘く、沈着を装っているが情に流されやすい。長所も欠点もすべて含めて、そんな「友」の全人格を彼らは無条件で愛していた。勇と歳三の嗚咽は、かけがえのない「友」を失った言いようもなく深い悲しみと悔恨の放出だった。「友の死」は、新選組という組織よりはるかに崇高な存在だった、山南敬助という一人の愛すべき「友」の物語なのである。

*****

芹沢暗殺の第25話「新選組誕生」以降、前回第32話「山南脱走」までの間、「新選組!」のレビューは掲載していなかった。個人的に忙しかったせいもあるが、要するにその緻密な構成や絶妙な演技を伝えるには、僕の筆力では到底追いつかなかったのである。書きかけては自分の受けた感銘との落差に毎回失望した。こんな駄文ではせっかくの感動が色あせていく気がして、アップすることを断念していた。だが、この第33話「友の死」は不朽の名作と断言して差し支えなく、さすがにとことん想いを巡らさずにはいられなかった。先週の放映以降、毎日毎日(五輪観戦の合間を縫って)レビューを書き直していたのだが、思い入れが強すぎるあまり陳腐な仕上がりに我慢できない。しつこく登場人物たちの心情を追い、その解釈を試み続けた。1週間以上粘った挙句ようやく一通り書き終えたが、その出来栄えははなはだ心許ない。「あなたに何が分かるというのだッ!!」と勇に叱られそうだ。だが、物語はまだまだ続く。第34話「寺田屋大騒動」も「友の死」と違う意味で実に見事な仕上がりであった。このレビューも早く書いてみたい(こちらはわりあい気楽に書けそうだ)。とりあえずこの第33話「友の死」の総括についてはこれ以上テンションを維持するのは難しい。これにて一区切りとしたい。すでに次週の放映も終わり、何とも間の抜けた時期ではあるが、恥ずかしながら公開させていただく。





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Last updated  April 15, 2012 03:30:57 AM
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