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法喜が語る
天使の涙(バンコク)2
排気ガスをまき散らしながら、トゥクトゥクやバイクが脇を通り過ぎていく。二つ
しかないテーブルは、タイ人のカップルと俺で埋まっている。
米から作られる麺クイッティアウというラーメンの屋台では、毎日多くのタイ人や
外国人の胃袋を満たしていく。町のあちらこちらにあるタイ料理屋台の定番である。
米の麺は程よい弾力であっさりしている。米を主食とする日本には無い、米の食べ
方である。
半透明な麺でラーメンの麺を平らにしたようなのがセンレックといい、細麺はセン
ミー、太麺はセンヤイ、普通のラーメンの麺がバーミーという。屋台で注文する時は
麺の種類を選ばなくてはいけない。しかし言葉で伝えなくても指で指すだけで注文も
簡単だ。旅行者でもタイにくれば一度は口にするはずである。
目の前に運ばれたどんぶりをのぞくと、透明な汁の中にセンレックとその上には少
しの青菜とルークチンといわれる魚のすり身のだんご、そして香菜といわれる葉が
乗っている。
香菜といわれる葉はタイ語ではパクチーといい、俺の嫌いなセロリとも似ているよ
うでまた違う味がする。どうして受け入れられない味だ。食べた瞬間俺は全身に悪寒
を感じ毛穴が震えた、急いで脇にあった水で流し込まなければいけなくなった。そし
て浮いている葉を全てどんぶりの脇につけなくては、それ以上食べることが出来な
かった。丁寧に緑の葉をどんぶりの端につけてスープに浮いているのが無くなると、
麺に紛れていないか確かめながら麺を口に運んだ。パクチーさえなければおいしい食
べ物である。
量は日本のラーメンの3分の2程度で60円ぐらい。暑く食欲のなくなった俺には
ちょうどいい。
昼間の暑さを避け木陰で眠る犬たちの活動時間は、夕方日が暮れてからである。
ちょうど屋台の準備が終わる頃に犬たちは屋台の近くに様子を伺いにくるのだろ
う。犬たちは屋台のおこぼれを貰いに来るのだ。
クイティアオ屋台の周りには焼き鳥屋台、フルーツの屋台、パッタイの屋台と様々
な屋台がつらなるので犬達はくれそうなところに行けばいいのだ。食いはぐれること
は無い。
タイの犬は普段上目使いで人の様子を伺っている。それは屋台の周りでもそうなの
だが、一匹の何か不機嫌な犬が居ると、突然その犬が吠えると同時に他の犬たちも一
緒に吠。人間と同じで野次犬になるわけだ。プロ野球で当事者同士以外がやりあうか
のように、犬たちもまったく関係無い犬が紛れてかみついたりするから厄介である。
タイの犬は日本では絶滅した狂犬病が多く蔓延しているので、噛まれたら厄介。な
んせ狂犬病は発病したら死を待つのみ。エイズのように薬が開発されているわけでも
なく、また自分が気を付けていても、犬に突然襲われるということもあるのだから。
熱帯のタイは皮膚病の犬も多く、日本のようになぜたいと思う犬も少ない。屋台に
集まる犬は栄養がいいのか毛並みがいいようだ。それでも食べ物争いか怪我をしてい
る犬が多い。
残りものを食べる野良犬達は、タイの辛い食べ物もなれてしまったのか。それとも
タイ人同様に刺激がほしいのか、しっかり辛いものもたべている。
汗をかけない犬たちが、この暑い気候で辛いものを食べてどうやって熱を発散する
のだろうか?人間は辛いものを食べて汗をかけば、気化熱で体温が奪われ熱が体にこ
もることがない。しかし犬はそれが出来ないのである。
砂糖は暑さを抑え、酢は食欲増進、唐辛子は新陳代謝を促し、ナンプラーは塩分補
給。タイの屋台に置いてあるこれらの調味料は、まさに熱帯ではうってつけなのであ
る。
自分なりに調味料を調整するので、はじめは同じ味でもさまざまなアレンジで個人
の味になる。調味料を入れなければ、酒の後に腹を満たすのにちょうどいいかもしれ
ないし、調味料を居れればメインの食事である。
水も飲まずにパクチーを避けながら一気にクイッテアオを食べきると、全身から汗
が吹き出るのを感じた。心地のよい汗である。しかしじっとしていると汗が止めども
無く溢れてくる。
お金を払い、席を立ちあがると先ほどは感じなかったわずかな風も、涼しく感じた。
席を立つとすぐにまた席が埋まっていく。屋台はタイ人の活力の源であるようだ。
*夜の天使*
多くの車が行きかう中、横断歩道が無い道を渡ることが出来なくあたりを見渡す。
渡ろうとしている人がいたので、その人のタイミングで渡ることができた。
街路樹が広場を囲う。その向こうにはライトで浮かび上がる王宮の光。遠くに美し
く揺らめいている。目を凝らすと手前の広場では多数の人が横になっていた。薄暗い
が危険を感じなかったので広場の周りを歩いてみた。
この人たちはここで夜を明かすのだろうか?ベンチの横では何やらマッサージらし
きものをしているようだ。白い塔みたなものが在ったので道を渡り、中を覗いたが閉
まっているのでつまらなくそのまま北上。
バス停の暗闇ではなにやら怪しいものを売っていたり、バスを待っているのか女性
も影に立っている。なにやら女性に声を掛けられたが意味がわからないので、早足で
カオサンの方へ足を向けた。
カオサンにつくとやはりここは別世界である。安全な無法地帯。コンビ二では
ジュースとお菓子をかい部屋に戻る。ガイドを開いたはいいが薄暗く、疲れからか電
気をつけたまま寝てしまった。
外が騒がしく目が覚めたので時計をみるとまだ1時過ぎではないか。この町は眠ら
ないのだろうか。電気を消し眠りに入るが、今度は怒鳴り声に目が覚める。いいかげ
んにしてくれ。耳をすますとどこからかあえぎ声も聞こえるではないか。SEXをして
いるのだろうか。その声は犬の鳴き声に消されいつのまにかに女性の声は消えてい
た。しかし頭の中ではその声が響き続けている。手は自然にペニスをしごくがむなし
くなり手をとめ眠りにつく。
やっと眠りについたと思うのもつかの間、今度は朝まで蚊が体に付きまとい安眠ど
ころではない。
こんな宿では睡眠も出来ずと、翌朝近くのホテルに宿をかえる。そのホテルはカオ
サン通りの中ほどでかなり大きく、エントランスにはレストランと写真屋があった。
部屋は前よりも綺麗で、シャワーもお湯が出た。ここならなんとかなるだろう。昨晩
の寝不足から軽くベット横になる。目覚めたらびっくりしたことに午後3時。慌てて
起きてシャワーを浴び、カメラをもってホテルを出る。
通りにある15バーツのパッタイを食べながらカオサン近辺を歩く。裏通りに行く
と、日本語で書かれたダイビングショップがあり、中から笑顔で挨拶された。冷房の
効いている店の中は居心地がよく、気さく店員はバンコクの事、ダイビングの話など
をしてくれた。アルバムをめくると海の世界がカラフルに貼られていて、そのページ
をめくるたびに楽しそうに話しをしてくれる。しかしそのときは考えて見ますと、パ
ンフレットを貰い店を後にした。
歩いているとすぐに汗が流れてきて疲れる。バーガーキングで涼みながら、これか
らの旅行について考えてみることにした。あらためて何をしようと計画してみると、
タイには様々な遊びがあって何をしたらいいのか検討も付かない。
気が付いたら腹が空いてきたので食堂に行く。食堂ではごはんの上にそぼろ肉が
乗っているのを食べた。びっくりするほど辛かった。インゲンに紛れて青唐辛子が混
じっていたのだ。ペプシで辛さを逃れようとしても、炭酸が舌にしみる。顔を真っ赤
にしてふーふーしていると、日本語で
「大丈夫ですか?タイは初めてですか?」
と言われたので、
「はい。これ唐辛子が本当に辛いですよ。びっくりしました。」と俺が言うと、飴を
くれながら
「はじめまして、僕達もタイに来たのはじめてなんですよ。多分明日の朝も辛いです
よ。」
「え?なんですかそれ?」
「めちゃ辛いもの食べた翌日、便器にまたがると肛門が熱くなるんですよ。」
「本当ですか?」
「俺らは1週間前にタイに来たんだけど、二人してびっくりしました。」
「タイはどこ行きました?」
「否、俺らまだバンコクしか見てないんだ。流石に一週間も居るとバンコクに飽きて
きたので、南の島に行こうと計画しています。いつバンコクは?」
「昨日つきました。南の島ですか?海綺麗ですよね。」
「そうなんですよ。だからダイビングでもしようかと思って今日申し込んできまし
た。なんでもタオ島は安くライセンスが取れるそうじゃないですか。実はあまり泳げ
ないんですけど。楽しそうだから。それにショップの人良い感じだったから。」
「それってもしかしてBBですか?」
「あれ知ってるんだ。」
「さっき俺も話し聞いてきました。いつから行くんですか?」
「明日出発。」
「ところでバンコクはどこが面白かったですか?ガイド見てもいろいろあってなんか
迷いますよね。」
「うーん、俺達昼間だいたい寝てるんですよ。暑いですから。でも王宮や中華街は
行ったかな。サヤームなんかは日本みたいでしたよ。」
「っていうか夜遊んでるから、起きれないんだけど。」
「あ、今日もこれから僕達ゴーゴーバー行こうと思ってるんですけど、一緒にどうで
すか?」
「ゴーゴーバー?」
「あ、酒を飲むバーなんですけど、女の子達が目の前で踊ってるところです。タク
シーで行きたいので一緒に行ってくれると安くいけるんですけど。」
「酒は弱いですよ。」
「でも、見てるだけでも面白いですよ。日本には無いし。バンコクではすごく有名で
すから。どうですか?社会勉強。」
「じゃお願いします。」
俺は一緒にタクシーでパッポンという歓楽街に向かった。
閃光色の行きかう薄暗いステージの上を、ビキニを着た女性が艶めかしく微笑んで
いる。光に浮き彫りにされる白い下着姿。大きめなボリュームでロックが女性が腰を
絞るように揺るがしている。
ステージを囲むように客席が連なり、視線は自然と女性の方に注がれることにな
る。女性はステージの上から男性に視線を時々落としアピールする。手すりにまとわ
りつき、自らの体の動きに酔い時々客席の後ろの鏡に視線をやる女性もいれば、踊り
なんか気にせずステージの脇の席の目の前の白人に話し掛ける女性もいる。
ステージに焦点も定めるもなく見ていたら、ある女性と目が合ったのでびっくりし
て視線をそむける。のどが渇き、目の前のタイビールを流し込む。ウエイトレスが近
づいてきて何か言ったが、聞き取れなくきょとんとすると、その女性はそこに座って
もいいかと聞いているようだ。
「いいじゃん。彼女可愛いよ。」
と言うので、うなずいたらそのウエイトレスは「ジャパニー?」と聞くので、俺はう
んうんとうなずく。そしたら彼女はどの女がいいというような仕草をするので、首を
振ったら「ユー ライク マン?」というので、思わず吹き出してしまった。彼女も
つらて笑っていたがそのままどこかへ行ってしまった。音楽が一段落したのかステー
ジの女性が入れ代わった。
店の中は音楽が大きく、ほとんど俺達は会話もなく眺めていた。
しばらくすると目の前には先ほど目が合った女性がいつのまにかにいた。手を出さ
れたのでびっくりして手を出したら、ちょこんと指を握り可愛く会釈した。そして
「アリガト」と日本語をつぶやいたのにはびっくりした。
うむをいわさず私の横に腰を下ろし、
「私ノーイ。あなた?」
「しんいち」
とこたえる。
「ちんいちヨロシク」といわれた。
しかしノーイの日本語はそこまでである。どこから来たとか何しに来たという質問
が終われば特に話すことも無く、ノーイは横に座っていた。しばらくすると先ほどの
ウエイトレスが来てノーイを指差しながら「コーラ?」というのでうなずいたら、
ノーイは「アリガト、コープクンカ」といい合掌した。
コーラが来て乾杯をした後は二人黙りステージをみる。先ほどまでステージにかぶり
ついていた白人は先ほど話していた女性とどこかへ消えていった。
ノーイは「ダンシング」というとステージに向かい踊っていた女性と入れ代わっ
た。ステージの上でノーイは少し恥ずかしげに小さく腰を動かしていた。
「彼女気に入った?お金払えば連れて帰れるよ。」
「え?」
「ここはさー酒を飲みながら女を選び、女を買えるんだよ。」
俺はびっくりした。彼女達は売春婦だということに。
先ほどは幼く見えたノーイはステージの上でも小さく華奢な体つきをしていた。肩
にかかるかかからないかの黒髪があどけない少女らしさを際立たせ、とても体を売っ
ているようには見えない。きっと俺なんかよりも過酷な世間を知っているが、しっか
りとけなげに現実を見ているのだろう。
ウエイトレスが横に来てノーイを指差しながらOKの手をして「ペイバー500バー
ツ」という。ノーイを買えというのだ。俺はどうしていいのかわからなかった。ノー
イが望むのであればペイバーしてもいいのかもしれない。しかし俺にはその勇気がな
い。金で女の体を好きにする。SEX=金である。このSEXには愛などないのだ。
女性はただ自分の体を商品として男性の性のはけ口にする。男性は自らの性欲を抑
えるために女性の体を弄ぶ。売買春がお互いの合意だとしても俺には何か納得の出来
ないものを感じた。俺の考えなどあまちゃんの戯言なのかもしれない。
売春はもっとも古い職業だともいう。買われる女性は生活がかかっているのだ。う
わべだけの正義感で女性が幸せになれるものでもない。
俺は首を横に振るしか出来なかった。
「もったいないじゃん。彼女良い感じだよ。君のこと気に入ってる見たいだし。」
「あ、いやいいんだ。」
「そっか、じゃ行こうか。」
「うん。」
通りにはお土産はが溢れ、偽者のローレックスやコピーのブランドバックなど売られ
ていた。
タクシーに乗ると
「どうする?帰るか?」
「うん。俺はもういいや。」
「そっか、俺達も明日移動だもんな。」
「じゃ、あそこ寄って帰ろうぜ。」
「たっく好きだな。まいっか。」
タクシーの中ではゴーゴーバーや風呂屋などバンコクの女遊びの話しを聞いて、こ
れから行くところはSEXのみの置屋ということを聞いた。
タクシーはカオサンにの方に向かうが途中のセブンイレブンの前で止まった。暗い
道を抜けるとホテルのような建物があり、
「ここはさーSEX一発1300円ぐらいで出来るんだよ。見てみる?」
と、一緒に中に入っていくと、タイ人の男が2,3人いて、その先には左右の部屋に
数人の女がいて、手前の2部屋はそれなりの若い女が居たが、奥の4部屋にはおばさ
んとしか言えないような女が、ベットや椅子に座って化粧をしていた。
「あ、俺彼女にするよ。お先にーーー。」というと女と共に2階へ上がって行く。
「今日は俺いいや。先帰るぞ。」
「わかった。じゃホテルで。」
「一緒に帰るか?」
「いいんですか?」
「うん。昨日も来たから。ここからカオサンまで歩いても15分ぐらいだぜ。歩こ
う。」
「はい。」
ちょっと薄暗く怖いと思ったが二人なので一緒に歩いて帰った。
「昨日も来たんですか?」
「うん、でもいつもあまりいい女いないよ。」
すぐに大きな通りに出て、暗闇に浮かぶワットサケットなどの所につくと怖さはなく
なった。
「あいつさー本当に女好きなんだよね。今回タイに来るって二人で決めてから、イ
ンターネットやら本でそっち系ばかり調べてやんの。」
「危なくないんですか?」
「え?何が。多分大丈夫なんじゃない。そんな危険恐れていたら、なんにも面白く
無くなっちゃうよ。」
「タイはエイズが・・・。」
「あ、エイズね。ゴム付ければ大丈夫でしょう。だってエイズ検査してるっていう
し、日本のすぐやらせる女よりは安全だと思うけどね。あいつなんか遊びでやった女
が毛じらみ持っていて、それを彼女に移して分かれられたんだぜ。女好きだからな。
毛じらみの時は流石にあいつ最初びっくりしていたけど、チン毛剃ってつるつるで男
もパイパンっていうのかなって笑い話にしてやんの。」
「日本よりも安全?」
「実際は知らないけど、日本の女は平気で中だしさせるし、生なんて普通みたいだ
よ。あいつにとっ て女は性欲のはけ口で単なるちんぽこ突っ込む穴なんだって
言ってたぜ。だから女の気持ちよりも 女の気持ちよさの方が大切だなんて豪語し
ていたぜ。」
「性欲も食欲も済んでしまえばあっけないものですよね。腹が減っていれば、まず
いものでもおいしく 食べるのに、お腹いっぱいだとおいしいものもまずく感じ
る。オナニーだってやるまではすごく興奮し ているくせして終わってみればむな
しいだけ。」
「そうだよな。」
「でも、オナニーとセックスは違いますよ。」
「でもさー。両方とも男は射精するためにするんだぜ。オナニーの方が楽だけど
な。」
「それじゃいく事が、単なる排泄行為みたいですね。」
「確かに愛のないSEXなんか単なる排泄だな。女はそのための道具ってことか。」
「彼は英語出来るんですか?」
「英語なんてたいして出来ないよ。じゃどうやってタイの女と話すのだろう。」
「しらね。第一金で買った女なんか話さないでSEXするだけなんじゃねー。言葉な
んか出来なくても SEXすれば気持ちいいし、それだけだよ。あ、コンビニ入る
よ。」
「いいですよ。俺もなんか喉渇きました。」
とセンブンに入りジュースを買って歩く。
「タイなのに緑茶の種類多いですね。甘いけど。」
「うん、こっちきてすごく便利でびっくりだよ。コンビニだらけだしね。」
「そうですね。宿も食事もなんでも安いですし。」
「あ、女もね。」
「治安はどうなんですか?」
「全然OKじゃないの?ただやっぱ貴重品は気を付けないとね。旅行者同士でも盗む
奴いるみたい で、ゲストハウスなんかも危ないといっていたよ。ま、常識があ
れば大丈夫だって。楽しまなくちゃ。」 「どこのホテルに泊まってるんでしたっ
け。」
「あ、俺は寺の裏の方なんだ。タイは昔は女も薬も楽しめたけど。今は薬はつかま
るから、それだけ は気を付けたほうがいいね。」
「薬って簡単に手に入るのですか?」
「手に入れようと思ったら簡単らしいけどさ、警察に見つかると日本に帰れないみ
たいだよ。」
「なんかガイドブックには警察と売人がぐるになっているって書いたありまし
た。」
「そうそう、タイの警察はなかには小遣い稼ぎする悪い奴もいるらしい。日本の警
察だってよく不祥事 起こすけどさ、俺こっち来てびっくりした事は警察官がめ
ちゃくちゃいいバイク乗っている所みたんだ よ。警察官なんかそんな給料良くな
いはずじゃん。」
「賄賂ですか?」
「多分ね。金がものをいうだよね。結局は。」
「女と金ですか。」
「ところで君大学生だっけ?」
「4月からですけど。」
「すごい話ししちゃったなー。でもこれが現実だからな。」
「勉強になりました。」
「はは、そういってもらえれば良かった。」
カオサンに着き、
「あ、これのメールね。よかったらメールして。」
「メール?そこら中にインターネットカフェあるから。ホットメールとか持ってる
?」
「いえ、持っていないですけど。」
「すぐ作れるよ。ま、いっか。気を付けて。」
「ありがとう。」
と彼と別れてから、カオサンを少し歩いてみる。カオサンのネオンは明るい、タイ人
も白人もまだ眠らない。ペンダントを売っているところにペニスをしごいているサル
の像があった。値段を聞いてみると250バーツだという。300バーツということ
は900円か。俺は首を振ると、電卓を持ってきて「いくらなら買う?」と聞いてき
た。いくらなら買うか?参ったな。主導権はこちらのように質問をしといて、実は向
こうが持っているのか。安すぎる値段を提示したら馬鹿にされそうだが、高くても売
り手が喜ぶ値段ならそれで俺は買わなくてはいけなくなる。俺は首を振り行こうとし
たら「安い。150バーツ。」と一気に半額になった。俺は半額なら買うかと思い、
金を出すとにやっとした。猿がオナニーしているペンダントなんか買ってしまった。
考えてみるとしょうがない買い物だな。こんなの日本じゃ出来ないし、タイでもな。
しばらくいくと同じペンダントがあったので値段を聞いたら、どうでもいいような
感じで「100バーツ。」と返ってきた。俺は一瞬聞き違えたかと思ったが、要する
に俺はだまされたのか。
300バーツで売っているものを150バーツで買ったので儲かったかと思ったら
100バーツだなんて。ぼられたというのか。買ってしまったものはしょうがない
が、値段の付いていないものを買うときは売り手は売れる値段で売るし、買い手は買
いたい値段で買うわけだから両者が了解していることになる。ってことは別にだまさ
れたとは言わないかもしれないが、めちゃくちゃ悔しいではないか。頭に血がのぼり
ながら、コンビニで水とお菓子を買い、15バーツのオムライスを買ってホテルへ。
部屋に戻ると、一気にオムライスを食べた。チリソースをかけたので辛かったが意
外に旨かった。シャワーでタバコ臭い汗を洗い流しベットに横になる。お菓子を食べ
ながら天井を見ているとヤモリがくっついていた。
*バンコク*
これが真昼の日差しなのか刺すようにじりじりと体を突き抜けその後からは水分が
あふれ出る。しかし木陰にはいると驚いたことに溢れていた汗が空気に放散し涼しい
ではないか。
王宮までの道は15分。服をチェックする門を抜けると、左の芝を挟んで昨晩輝い
ていた塔が今日は目の前にそして黄金をまぶしいほどに輝かしている。鬼のいる門を
抜けるとラーマキエンに囲まれた中には大きな建物が在る。中に入るのは反対側に回
らなければならないのだが、タイの王宮は寺であり、日本の皇居は城。同じアジアで
もそのことを考えながら歩いていると、なぜだかアンコールワットの模型が。
ワットプラケオといわれるこのタイの中心寺はヒスイから出来たエメラルドの仏像
が奉られている。数奇な運命をたどったこの仏像はタイ国民と王族を結びつけるのに
現在は一役かっているというのもおもしろい。台の上に鎮座されるその仏像には信仰
熱心のタイ人が熱心に頭をさげる信仰の対象だが、その後ろを多くの外国人がまるで
美術品を眺めるかのごとし、流れ作業で見ていくのである。信仰の神は美術品となり
さがる。
強い日差しに照らされる黄金の塔。
白い壁はまぶしく光り目をくらませる。
日陰に入り目が慣れてくると、そこには壁一面に絵が描かれていた。腰を下ろし、
しばしぼーっとする。タイ人が蓮の花と線香を胸に抱いて、前を通り過ぎて行く。
腰をあげ、ワットポーへ足をむける。涅槃寺はタイマッサージの本山。タイマッ
サージを受けてみようと受付にいったら30分待ちだと言う。
建物の目の前で腰を下ろし、猫をからかっていたのだがそれも10分で飽きて涅槃
仏の方へいってみた。大きな仏像が横になっている。その周りをまわるのだが、足に
は細かく何かが書き込まれていた。タイでは足は不浄と思われていて、人に足を向け
るのは失礼であるはずだが、この仏足の裏に書き込まれているのは世界だという。
我々が生活している世界は不浄のはずの足の裏で収まってしまうらしい。なんと人間
の世界は小さなものなんだ。
マッサージは2時間のコース。もちろん日本ではマッサージを受けたこと無い。緊
張してズボンを着替え横になると、いつのまにかにうとうとと眠気が出てきて、しま
いには起こされてしまって終了。
タイ式マッサージは体の全体を整え、健康を維持するマッサージである。恋人や夫
婦同士で出来るようになれば、お互いの絆を深める立派なコミニケーションの手段
だ。夫婦同士の絆が薄れる現代。マッサージをとうしてスキンシップをはかるのもい
いかと思った。
ワットポーの裏に流れる河は、チャオプラヤー河という。対岸にはワットアルンと
いうシルエットの美しい寺が立っている。暁の寺ワットアルン。確か高校の教科書に
出ていたような気がする。内容は忘れてしまっていた。高校での勉強は受験に向けて
の勉強だ。どれほどすばらしい文章も、単なる問題を作る材料として味けのないもの
に変わってしまう。
この美しい寺を見ると、もう一度暁の寺をしっかり読んでみたいと思った。
カオサンやら王宮、ワットポーなどある地域はラタナーコウシン島といわれ、バン
コクの旧市街に属する。通りに面する家並は木造の二階立てで、マレーシアやシンガ
ポールのように中国から来た移民が立てた建物である。1階は店で2階は住宅となっ
ている。しばらくこの旧市街をさまようと丘の上に寺のあるワットサケットの下にで
た。
丘の上から見るバンコクは想像以上に近代的でビル街など日本とかわらない。しか
し寺のすぐ脇を流れる運河沿いの家々や、寺に属する僧坊など日本の景色とはまた違
うものもある。かなり歩いたと思った道のりも、丘の上からみると王宮が意外に近く
みえた。バンコクの街にはいたるところにオレンジの屋根の寺が見えた。
ワットサケットの脇に流れる運河には船が走っている。ここからタイでもっとも活
気のあるプラトゥーナームまでわずか7バーツ。運河沿いにはシルクで有名なジムト
ンプソンの家もある。しかしのんきに外を眺める余裕はないのである。行きかうボー
トは狭い運河に波を立て、その水しぶきが高くあがる。それを避けるためにビニール
のカーテンもあるのだがその上から時々運河の水が飛び込んでくる。そしてその水は
臭かった。
プラトゥナームで船を降り、上の大通りにあがってみるとすさまじい車の量だ。6
車線全てに車がひしめきあっている。陸橋の真中であらためて車を眺めると、一車線
を除いて全て同じ方向へ向かっている。バスとタクシーが多い、走っている車は日本
車が多くどれも綺麗である。どこからどうみてもとても発展途上のおいは感じられな
い。
テールランプがバレンシアオレンジのように輝きその隙間を人が抜けて行く。バス
が停車すると人々が走り寄るバス停は日本のように点ではなく線なのだ。
セントラルワールドプラザの隅には、金色に輝くガネーシャが奉ってある。その前
で熱心祈る人や煙は絶えることがない。
伊勢丹の中にタイを感じる事はない。ここは日本の空間である。置いてあるもの
も、なんら日本と遜色がない。俺のような旅行者には縁がないようだ。
エレベーターで上に抜けると紀伊国屋まである。さらに上がると映画館とボーリン
グ場まである。レストランやゲームセンター、日本のいやらしいフィギヤを売る店ま
である。すり抜けるようにセントラルワールドプラザを抜けると高架鉄道BTSが見え
る。
その向こうには、バンコクで一番ご利益があるといわれるエラワンプームがあり。
人々でごった返すなか、奥ではきらびやかな衣装に包まれた踊り子が舞っている。バ
ンコクは近代的な街のようでいて、しっかり信仰も保たれている。日本のように均一
の世界ではない。様々なものが混沌としつつバランスが保たれているような気がし
た。
夕飯はタイの原宿と言われるサヤームにあるMKスキで食べた。すき焼きみたいに好
きなものを煮て食べるがスープには味が無くしゃぶしゃぶのようにタレにつけて食べ
る。野菜や肉などたらふくに食べたのだが、それでも1000円は行かなかっただろ
うか。
夜の中華街。通りに面して中国語の看板が林立する。歩道には所狭しと店が開か
れ、人々の足はスムーズに運ぶ事ができない。それがこの街の活気を作っているかの
ごとく。
ごみのようなガラクタまでもが風呂敷の上に置かれている。誰がこのようなものを
必要とするのか?ガラクタ屋に混じって仏像を売る店もある。ペンダントのように首
から下げるものらしい。その仏像と一緒にペニスをかたどったものを置かれているの
にはびっくりした。
暗闇に浮かぶ噴水が見えたので、そちらに足を向けると。突然女に手をつかまれ
た。びっくりして振り返ると30歳くらいだろうか、化粧の濃い女性が手を離さな
い。大きな口をあけながらニヤっとした。何を言っているのかわからないが、どうや
ら娼婦のようだ。手を振りほどき急いで逃げる。冷静になって見ると、この道には左
右に似たような女性が立っている。中にはとても若い女性も居た。噴水のあるロータ
リーでタクシーを拾うとカオサンに向かってもらう。
小腹が空いたので、カオサンの裏通りにあるオープンレストランに入る。奥にいた
日本人から一緒にどうですかと言われたので、同じ席につき私はパッタイを注文し
た。彼は日本を出てから1ヶ月インドを放浪して今日バンコクに到着したと言ってい
た。彼にビールを勧められ、インドでの話を聞きながらビールを飲む。インドでは彼
の話は俺の今まで住んでいた世界とはかけ離れたものだった。彼はいろいろ話ながら
次々と私のコップにビールを注ぎ足していった。彼の話に夢中になっていると、アル
コールが体に周り、眠くなって来たので帰ろうとすると、既に頭も体もふわふわと地
面から浮いてるようだった。支払いをすると私の記憶は途切れた。
昼頃喉の渇きで目が覚める。ホテルのベッドの上で靴もはいたまま横になってい
た。昨晩あの店からこの部屋までの記憶はない。どうやら彼がここに連れてきてくれ
たのだろうか。枕の上にあったペットボトルの水を流し込む。頭が痛い。全身汗でび
しょびしょだったので、とりあえず水シャワーで汗を流すと頭もスッキリしてきた。
シャワーから出てきてとりあえず下のレストランへ飯を食べに降りようと財布を探
す。昨日履いていたジーンズのポケットを探るがおかしい、財布がないのだ。たしか
昨晩飯を食ったときはお金を払ったような気がする。しかし記憶もあいまいだ。なに
しろ部屋に戻るまでの記憶が無いのだから。一瞬目頭が熱くなった。とりあえず部屋
のあちこちを探すが財布は出てこない。そして更にショックなことに、かばんに入れ
といた予備の財布がない。その中には旅行で使う現金、航空券、パスポートが入って
いたのだ。泥棒?いや違う昨晩のあの日本人に違いない。最初からこれがねらいだっ
たのだろう。
まさか旅先で同国人にやられるなんて。
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