forthenight
でも、ある真冬の週末に、最初で最後の一晩の恋に落ちたことがある。
毎週のように通っていた六本木のクラブですぐに手をとってくれた男性がいた。
小柄で年齢より若く見える、平凡な人。
キャンプ座間で働いていると彼は言った。
他の客やDJと会話を交わす様子から見て、ここの常連らしい。
私たちはお酒を楽しみながら踊り続けた。
ずっとずっと一緒にいたのに、全然飽きず、心地よかった。
そして心地よさがいつの間にか恋に変わっていたのに気づいた時はもう朝だった。
その時Musiqのforthenightがかかった。
大好きなMusiq。
「Even though I'm not your man and I know you're not my girl
But let's just act like it's that way tonight
Now I know u got your friends and you know I got some too
But let's just act like you're my lady tonight...」
大好きな彼と踊りながら、突然私の頭の中は不安でいっぱいになった。
私たちは今夜限りなのだろうか…と。
クラブから出て、太陽の輝く寒空の下を歩いた。
いつもなら絶対にありえないことだが、不思議と彼の車に乗るのは全く怖くなかった。
私がMusiqが好きと知った彼はすぐに最新のアルバムを取り出してくれた。
どうしてだろう、Musiqの歌は大好きなのに、次のトラックに進まないことを願うばかりだ。
お互い甘いキスは交わすものの一言も会話を交わすことはなかった。
私たちはなぜか電話番号も交換せずに黙って別れた。
一晩の恋は、朝日が昇ると終わってしまう。
家に帰ると、涙が止まらなかった。
初めての経験だった。
翌週再びあの場所へ行った。
彼だけに会いたかったから、誰とも踊らなかったし、踊る気にもなれなかった。
でも彼はどこにもいない。
いくら六本木の街中を探しても彼の黒いスポーツカーは見つからない。
そして悲しさと諦めで胸が押しつぶされそうな気持ちにはいつまでも慣れることがない。
そんな中1人だけ飽きずに何度も何度も声をかけてくる男がいた。
仕方なく相手をしたその男が後に私の価値観を大きく変えることになろうとは、当時わかるはずもない。
もしかしたらこの未来のために、2人は無言の別れを自然選択したのかもしれない。
それからというものの彼の姿は全く見ていない。
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