1-2


 夜になり当たり前のように合鍵を使って家に入ってきた、自分を司令官だという男に対して赤川は聞いた。
 「どういうことって、言ったじゃないですか。あなたに戦隊もののレッドをやってもらいたいって。」
 「お前は、何者だ?」
 「んー、それは秘密です。やっぱ司令官ってのは、謎に包まれてるものでしょう。」
 「目的はなんだ?」
 「そりゃあ、戦隊ヒーローの目的は悪の組織と戦うことです。」
 「悪の組織・・詳しく聞かせてくれ。」
 赤川の言葉に、司令官は可笑しそうにクスクスと笑った。
 「何が可笑しいんだ。」
 「いや、レッドやってくれる気になったんですね。」
 「それは、話を聞いてからだ。」
 なぜこんなことになったんだろう。そう思いながらも、赤川は覚悟を決めていた。もちろん、自分がヒーローになるなんて信じられることではない。しかし、実際に自分が変身した姿を見てしまうと、疑うことは出来なかった。
 そう、赤川は、変身していた。体中赤い全身タイツみたいなものに包まれて、いかにも戦隊ヒーローだった。最初は眠っている間に着せられただけかと思ったが、まるで変身スーツが体の一部になっているように自然で、その上どこをどうしても脱ぐことが出来なかった。
 「じゃあ、簡単に説明しますね。赤川さんは、今日からダメ人間マンのレッドです。」
 「ダメ人間マン!?」
 「そう、ダメ人間マン。」
 「何だそのヒーローは!コメディかよ!?」
 「あー、確かに、多少笑いを取りに行っている部分もあります。」
 ダメ人間マン・・かっこ悪い。せめて、ヒーローになるならもっとカッコイイ戦隊が良かった。子供の頃に自分が見ていた、バイオマンやチェンジマンのようなカッコイイ・・・。
 「・・ダメ人間マンは、かっこ悪いですかね。」
 「かっこ悪いに決まってるだろ!」
 「じゃあ・・ダメ人間レンジャー。」
 「一緒だよ!ダメ人間ってとこを変えてくれ!!」
 司令官は、うーん、と考えた後で、自信なさそうに言った。
 「ダ・・・・ダメンジャーとか?」
 一緒じゃねーか。赤川は思った。しかも、ちょっとどこかで聞いたことがあるような気もする・・。
 「その、ダメっていうのは変えられないのか?」
 「うーん、まあ、それが売りですからね。」
 「ダメ人間なのが売りって!なんだそりゃ。」
 「というか、ダメ人間パワーで敵をやっつける感じなんで・・。」
 「ダメ人間パワーってなんだよ!もっとかっこ良いパワーの源があるだろ!正義の心とか、友情の絆とか!」
 「それじゃあ、他の人にヒーローを頼まないと・・。」
 「それはつまり、俺がヒーローになれるのはダメ人間だからってことかよ!!」
 「まあ、それを基準に集めてるんで・・・。」
 「・・・・」
 赤川は、なんだか情けない気持ちになった。確かに、自分には正義のヒーローをやれるような素質は無い。自分はダメ人間だもんなあ・・。
 「そうそう、赤川さんのそういう、自分はダメなんだぁ・・って下向きな気持ちが、悪を倒す原動力になるんです。」
 だから、どうしてその下向きな気持ちで悪を倒せるのかがわからないんだよ、と赤川は思ったが、もう言い返す気力も無くなっていた。

 「まあ、よろしくお願いします。ダメ人間レッド!」
 赤川は諦めて、手を差し出してきた司令官と握手をした。
 「・・それで、俺たちの敵は?」
 「そう、敵は、この世の中を自分たちの理想の世界に作り変えようとしている悪いやつらです。」
 「おお、それは悪そうだな。」
 「その悪の組織の名は、『完璧な地球作りプロジェクトチーム』です。」
 「・・ああ・・・・なんか、あんまり悪そうじゃないな。」
 「現在地球に存在している環境問題や争いごと、貧富の差などの諸問題を全て解決しようとしている組織です。」
 「・・あー、これは俺の感覚なんだけど、そいつら良い奴らじゃねーかな?」
 「特に目下の敵は、組織の幹部である『正論大佐』です。彼は、正論を武器に住み良い地域作りから始めている悪い奴です。」
 「・・確かに大佐とかって悪の組織っぽいところ見せてるけど・・。たぶんそいつ、良い人だよね。」
 赤川がそう言うと、司令官は俯き、怒りに震えるように拳を握り締めた。
 「確かに、彼らの目的は良いことかもしれません。しかし、彼らを許すわけにはいかないのです・・。」
 赤川は、司令官とその組織との間にある因縁のようなものを感じた。司令官がそういうからには、何かその組織には倒さなくてはならない理由があるのだろう。
 しかし、頭をあげた時には司令官は笑顔だった。そして、不自然なほど明るい声で言った。
 「まあ、百聞は一見にしかずと言いますから、実際に敵を倒しに行きましょう。」
 「いきなり!?」
 司令官は、ついて来てくださいと言うと、外へ出ようと玄関へ向かった。
 「な、ちょっと待ってくれ!」
 「なんですか、怖気づきましたか?」
 「いや、そういうんじゃなくて・・俺、このかっこで外出るのか?」
 「・・・恥ずかしいですか?」
 「当たり前だろ!それに、ヒーローって戦う時だけ変身するもんだろ!元の姿に戻る方法は無いのか?」
 「胸に手を当てて、『脱着』と叫べば元の姿に戻れます。」
 赤川は言われたようにした。すると、体中が光に包まれ、気がつくと気を失う前のスーツ姿に戻っていた。まるで信じられないことだが、これでより一層、司令官の言うことを疑うことは出来なくなってしまった。
 「ちなみに、変身するときはもっと難しいです。」
 「どうやるんだ?」
 「こんな感じにポーズを決めて『装着!』と叫べば変身できます。やってみてください。」
 赤川は、男と同じようにポーズを決めた。
 まず両手を上にあげてクロスさせてから、左手は上げたままで右ひじを後ろに下げて拳を構え、次に右拳を突き出しながら左肘を後ろに下げて拳を構え、突き出した右手を胸に持ってきて「装着!」と叫ぶ。
 すると、赤川はまたレッドに変身した。
 「うおー、すげえ。」
 赤川は、ちょっと興奮してしまった。本当に自分がヒーローになっているという実感が湧いてきた。
 「それで、変身してから『ダメ人間レッド!』と言ってください。まあ、どんなポーズかはお任せしますので、他のメンバーとも相談して決めてもらうことになります。」
 「他のメンバーもいるんだな。」
 「いや、実はまだ決まってません。」
 「はあ?」
 「ちょっと交渉が難航してて・・。それじゃあ、行きましょう。」
 「他のメンバー決まってないのに、敵を倒しにって・・。」
 「まあ、何とかなるでしょ。その辺はノリで行きましょう。」
 「ま・・待てよ。」
 赤川は脱着しながら男の後に続いた。


つづく

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: