あーともままのお部屋

Kanon -カノン- (短編)



あの日...
俺は、あの日ほどお前を近くに感じたことはなかった。

無理がたたったのか..俺は熱のため、思うように動かない自分の体を、恨めしく思っていた。

おまけに、相手は、ふらのの松山だ…
幾度となく、チャンスを奪われ、あげくに、スライディングタックルまで破られた。

ーちくしょう!!ー
先取点をとったものの、PKをとられ、同点となり、そのまま前半終了...

ーくそ!!-
軽いめまいがする。濡らしたタオルの冷たさが、目にしみる..
ー負けてたまるか!!-
そんな想いがよぎる。

そして後半...
タケシのおかげで2点目を得たものの、ふらのの勢いは強く、この日の俺にとっては、苦しいものだった。まだ、松山の足のケガの為に救われていたのだろう...
しかし、そんな松山のシュートでまたもや追いつかれ、俺は再びあせりを感じていた。おまけに、残り時間1分ほどのところで、運悪くもまたもやふらののPK...

ーこの..この俺がこんな所で負けるのか...ー
さすがに弱気になった。信じたくなかった。
明和の..いや俺のサッカーは必ず勝つサッカーだ。
なのに...

PKを蹴るのは松山だ...いくらケガをしてるとはいえ、まず、シュートが決まらないことは無いだろう...

ーくそ!!ー

松山がゴール前へと進み、ボールを置く。

「まてぇ、キーパー交替だ!!」

聞き覚えのある声..

「わ、若島津!!」

ーそうか..お前が来ていたのか...ー

「キャプテン、とったら、パス、いきますよ」

お前は、鋭い目をしながら俺にそう言うと、位置についた。
ボールが勢いよくゴールへと向かう..
そのボールの動きを読んでいるかのように、お前の体がすばやく動き、ボールをとった。

ふわりと、帽子が落ちる。
お前は、まっすぐ俺を見ると、

「いくぜ、キャプテン!」

と、一言いうと、すかさずスローイン...
俺は、そのまま相手ゴールへ...そして、ふらののブロックを破ってシュート...

ピィー

試合終了のホイッスルが鳴った。

「勝った。俺は、勝ったのか...」

そう思った瞬間、俺の目の前は真っ白になった。

「キャプテン!!」

みんなの声が木霊する。

ー大丈夫、大丈夫だよ..俺は、勝ったんだ...ー

タケシにささえられながらの退場。そして、その先には、お前がいた。

ーよく、来てくれたな..よく、受け止めてくれた..若島津..よ...ー

お前は、心配そうに俺を見ながらもひとこと、
「やっぱり..あんたは虎ですよ..キャプテン!」と、言うと笑った。
ーそんなあんたにだからこそ、俺は、パスしたんです。ー

俺にだけ聞こえるように、お前は続けてそう言った。

ー俺は、いい奴をキーパーに持ったよな...若島津..お前は、いつまでも..俺のキーパーだ。俺の、最高のキーパーだよ...ー

俺は、何度も、何度も、そう思った。

end

S62.1.16(案)
S62.3.24(完)

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