鎌倉日記（極上生活のすすめ）

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フォレストガンプ

アトムおじさん

2005年12月12日

■「トニー谷」と「トニー滝谷」■

(10)

テーマ：今日どんな本をよみましたか?(91813)

カテゴリ：カテゴリ未分類

むかし、「トニー谷」というコメデイアンがいた。

「あなたの、お名前なんてえの。」
「レデイス、アンド、ジャントルマン。おじちゃん、おばあちゃん。」

奇妙に尖ったメガネと派手な洋服、
ソロバンを楽器のようにはじきながら、
ブロークンな英語と日本語をちゃんぽんに機関銃のように喋る、
そんなポップでコミカルな芸風だった。
あの時代。

そのトニー谷が、人気の頂点がいきなり落ちたのは、トニー谷の息子の誘拐事件だった。
トニー谷は、息子の誘拐後、テレビの画面には出なくなってしまった。
事件の後、人気コメデアンの芸の魅力は、急速に勢いを失ってしまったのだ。

「トニー滝谷」は、村上春樹の小説で、市川準が映画化した。
「トニー滝谷」は、この「トニー谷」とは、違う。

「トニー滝谷」は、
戦後上海から引き上げてきた気ままトロンボーン奏者の父とすぐ死んでしまった母から、生まれる。
日本人だ。
この気まま父に、これからは、アメリカの時代だということで、トニーという名前をつけられる。

この幼い頃から一人でいることが当たり前だと思って生きてきたイラストレーターのトニー滝谷（イッセー尾形）。
彼が、15歳年下のＡ子（宮沢りえ）に恋をして、結婚する。

いままでない幸福感をトニーにもたらすのだが、
問題なのが、
Ａ子がきれいな服を目にすると買わずにはいられなくなる中毒性の異常性格だったことだ。

「服は、自分の中の足りない部分を補ってくれるような気がする。」

やがて、映画の中で、彼女の死、

妻の死のあとには、夥しい数の洋服の映像が映し出される。
そして、父の死のあとには、夥しい数のジャズレコードの映像が映し出される。

人間が人生を生きれば、何かに執着していきていく。
そして、執着していったとき、残骸のように、残っていったものがある。
その人が、
この世に残骸として残していったものの意味とはいったい何なのか。

エドワード・ホッパーの絵画のように空白の多い映画の画面を見ながら、
つい、考えてこんでしまった。

「トニー谷」そして、「トニー滝谷」。
彼らが失ったもの、そして、彼らに残されたもの。

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