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一緒に成長する育児
テレビやビデオの視聴による、ことばの遅れ
日本小児科学会の「こどもの生活環境改善委員会」メンバーであり、早くから「新しいタイプのことばの遅れ」に警鐘を鳴らしてした川崎医科大学小児科教授 片岡直樹先生に、ことばがしゃべれない、友達と遊べないなどコミュニケーションに問題を抱える子ども達について、その実態と原因についてお話を伺った。
コミュニケーションが取れない子ども達が増えている。
片岡先生は、いままでに1,000人を越えることばの遅れの子どもを診てきた。それらに共通するには、運動機能や生活習慣は年齢相応に発達しているのに、ことばがほとんど話せず社会性の発達が見られないことだ。
「親のことばに反応しない、表情に乏しい、自分の考えをことばで表現するのが苦手。こういった子ども達が、最近、とても増えているのです。」
最初は何が原因なのか分からなかったという。しかし、ふだんの生活について母親達から細かく聞いていくうちに、「生まれたときからテレビやビデオがついている環境で育った赤ちゃんや、親の語りかけに対して反応があり赤ちゃんことばが育っていたのに、何らかの家庭環境の変化で生後1年頃からテレビ漬けになった赤ちゃんだったことがわかった」
テレビはいつも一方通行。応えたり語り掛けたりしてはくれない。
2歳までの時期は、自分以外の人を思いやったり、推測したりする心を育てる上でとても大切な時期だ。
「赤ちゃんは生まれて1~2ヶ月で泣き方を変えます。お腹が空けば泣く、痛くて泣く、不安で泣く。こういったことに、一つ一つ応えることで安心して泣き止み、気持ちよく感じるのです」
赤ちゃんにとって生後の1年間は、音を聞き分ける「聞く準備」の時期。次の1年間「話す準備」の時期だ。この期間に、親の声を聞いたり口の動き方を観察したりしている。
「子どもの脳には、ことばを覚える時期があり、この時期に覚えないと後から取り返すのはなかなか大変です」
ところが、子どもへの語りかけをせず、子どもからの働きかけにも応えないで、テレビの一方的な情報に赤ちゃんをさらし続けると、「肝心な心の発達に支障が起きます。これは良質といわれている教育番組や教材でも同じです」
また、二次元のテレビ画面ばかり見ていると立体認識が育ちにくくなったり、母親の匂いや心地よい触れ合いを感じることなく過ごすと、五感の発達に影響が出たりすることもある。
「テレビやビデオにはまって実体験が乏しいと、聞き慣れない音に敏感になる、極端な偏食や場所見知り、特定のおもちゃに固執するようになります。五感が育たないため、色々な感覚刺激に過敏に反応してしまうのです」
テレビを消して一対一で遊ぶ。
片岡先生は、このような「新しいタイプのことばの遅れ」の治療には、「テレビを消して保護者が一対一で遊ぶしかありません」と指摘。「子どもが小さければ小さいほど劇的に変化して、年齢相応の反応を示すようになります」と言う。
3歳2ヶ月の時に、「アーアー」か「ウーウー」と言う声だけを発する言葉が出ない男児がいた。
「母親にテレビやビデオを一切やめて、一緒に遊び、子どもの発した声を拾ってはオーム返しをする様に指導しました。すると1年後には「パパ、ブーブー」とか「アイスいる」と言った短文を話せるようになりました。」
この子は今、同年齢の子に比べて多少語彙が少ないものの、小学校で楽しく過ごしている。
「重要なのは早く気がつくことです。1歳までなら1ヶ月で見違えるように表情が豊かになります。3歳までなら良くなる可能性がありますが、時にはコミュニケーションが取れないままに育つ事もあります。」
ことばの遅れを放置しておくと
乳幼児期であれば、ほとんどの「新しいタイプのことばの遅れ」には対応できる。しかし、そのまま気付かずに放置される例がある。「小さい時からテレビ漬けで、3歳までことばが出ない子がいました。その後30歳に成っても授産施設で暮らし、ことば遅れの影響を引きずっています」。片岡先生は急増しているコミュニケーション障害の多くは、テレビが作る「新しいタイプのことばの遅れ」であると言う。
また「家でテレビゲームばかり。親に取り上げられたことから学校の先生に「死にたい」と漏らし、私の所に紹介されてきた中学生がいました」。片岡先生が会ってみると標準語で真面目に話し、運動能力、言語能力も年齢相応に発達していた。しかし、落ち着きがなく、集団生活が苦手で、友達がいなかった。小さい頃から人間よりもおもちゃやITにはまっていた。テレビやビデオやコンピューターゲームの影響は、大人が思っているよりもはるかに大きいようだ。
「テレビはいつでも何処でも見る事が出来ます。朝から晩までテレビをつけている家庭も少なくないでしょう」。良かれと思って見せる教育番組やビデオの教材も例外ではない。心が育まれる「刷り込みの時期」には生身の人間が話しかけ触れ合うことが大切なのだ。
議論を重ね、問題の解決に一歩でも近づくべき
従来のテレビなどの批判は、暴力的であるとか肥満や視力への影響を懸念するものが多かったが、それだけで済むものでなく、「テレビが作ることばの遅れ」は人として生きていく上でのコミュニケーション能力そのものが問題となる。そして、片岡先生は「この問題を解決していくのは、小児科はもとより小児神経科、児童精神科、内科、臨床心理など、領域を超えた様々な先生方との議論が必要でしょう。その意味でも、是非他の専門領域の先生方と話し合いたいと思います」と締めくくった。
まとめ
1) テレビが作ることばの遅れの子ども達が近年増加しています。
2) 「新しいタイプのことばの遅れ」は自閉症の症状と同じです。自閉症と異なる事に早く気がつけば、ことばが獲得されます。
3) テレビを消して、非指示的遊戯療法が上手く施行されれば、人間の刷り込みは成功します。
4) 「新しいタイプのことばの遅れ」は、早期発見でなく予防が総てです。
5) 人間の心が育つ刷り込みの時期に、テレビ、ビデオ、電子おもちゃ、知育おもちゃ、テレビゲーム、CD、フラッシュカードは無意味です。
参考文献
1) 片岡直樹、テレビ、ビデオが子どもの心を壊している!メタモル出版、2001
2) 片岡直樹、しゃべらない子どもたち 笑わない子どもたち 遊べない子どもたち、メタモル出版、2003.
A新しいことばの遅れの症状
乳幼児期におとなしい 視線が合わない オーム返しが続く
微笑み反応が乏しい 人見知りがない ものに執着する
表情がない 言葉が少ない 横目づかい
抱いても違和感 独語が多い 多動
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