おとぼけ香港生活から脱皮

おとぼけ香港生活から脱皮

【置き去りにする女】


お酒を飲むと気を良くする男と
その男に従えるおしとやかな、
言ってみれば
中堅ハチ公のような女がおった。

男と女は外国からいらした
従姉妹にそれはそれは
たいそうなおもてなしをし
男は浴びるほどのお酒を
飲んでとても気をよくしていたのじゃった。
百万両の夜景と言われる
プラムナードへ従姉妹を連れて
行ったのだが
ひょんなことから従姉妹とはぐれ
男と女は従姉妹を探す羽目となった。

異国の国からやってきた従姉妹が
何処かへ行ってしまった
そのことに男と女は大層
心配をし
百万両の夜景が見える長いすで
従姉妹の帰りを待っていたのじゃった。


そして、お酒をたらふく飲んでしまった男は
少しずつ少しずつ眠気が襲ってきて
従姉妹を待っているはずが
いつの間にか長いすに横たわり
眠りこけてしまった。


そこで、中堅ハチ公の女。
男が眠ってしまったのを起こすのだが
恰幅のいい男を揺さぶり起こしても
男はピクリともしない。

仕方なし、女はしばし男が起きるのを
待つことにした。

百万両の夜景も真っ暗になり
辺りは一層静けさが増した。


中堅ハチ公の女。
あれから1時間が経ったので
時間のころあいを見て
男を起こしてみる。

だが、男は大いびきかき
起きる様子もなかったのじゃった。

そこで中堅ハチ公の女。
仕方なしにまた男が起きるのを
じっと待ちわびた。

辺りがシーンと静まり返る中
海の浪打の音と男の大いびきが
女の耳に入ってくる。
男が横たわる長いすに回りには
宿無しの男がポツリ、ポツリと
いるだけとなった。



また、それから1時間が経った頃じゃったろうか、
中堅ハチ公の女がもう一度
男を起こしてみることにした。
どんなにゆさぶっても
どんなに声をかけても
男はムニャムニャ言うだけで
一向に起きてはくれなかった。


だが、中堅ハチ公の女。
寝ずに2時間も待ち続けたこともあり
長いすに横たわって
気持ちよく寝ている男を見て
少々苛立ちが起きてきた。


そこで、中堅ハチ公の女はというと
長いすに男を寝かしたまま
そこを後にし
車屋に乗って帰って行ってしまったのじゃった。




朝方、一晩野宿をしてしまったという
自分のしたことに男はへらへら笑って
何事もなく無事に帰って来たのじゃった。


めでたし、めでたし。




案外、安全な香港じゃん。








© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: