おとぼけ香港生活から脱皮

おとぼけ香港生活から脱皮

「親子愛」


いつものように「元気だったか?」だった。
そして、毎回母の周りで起きた出来事を
事細かにああした、こうしたと
井戸端会議のように何分にもわたって
ダラダラと話すのだ。
私から電話して「何か変わったことあった?」と
母の近況を聞いてもいつも
「何もないよ」と言われていた。

前回電話をもらったのは確か13日のお盆だ。
わざわざ電話してきてゴーヤチャンプルの
作り方を聞いてきた時だ。
作り方を聞くと忙しいのか
ほかに話すこともなく切ってしまった。


だが、先月中旬頃、実家で飼っている
2匹の犬のうち1匹のことを突然母が言い出してきた。
どうもこの1匹が前から具合が悪いというのだ。

この2匹は親子で、母親は年をとっているため
白内障になってしまって今はもう何も見えない。
そして、子犬の方は生まれてすぐに
腰に何かの衝撃を受けたらしく
腰が砕けて腰が丸まったまま成長し、
足を引きずって歩いているが
もう何年も生きている。
身体障害のためかさほど大きくなれず
一緒に生まれてきた兄弟より遥かに
小さいまま成長がとまった。

この子犬がご飯もあまり食べなくなり
元気がないので、医者に連れて行き
診せたところ子宮に膿が
溜まっていると言われた。
出産をしていないメスは
子宮に膿が溜まるというのだ。

手術するにももう体力がなく
麻酔をかけても麻酔がかからないらしい。
そして、医者の判断で
薬で延命をするももうそんなに長くないと
宣告を受けたのだった。

私はこの話を聞き、
涙がでそうになりながらも
母に悟られまいと子供のように
「それから?」「ふ~ん」
をただただ繰り返すのが
精一杯で母の話を聞いていたのだった。


それから今日になって
この子犬が死んだと母に聞いた。
いつ死んだかと聞くと

「おかあさんの誕生日プレゼントがついて
 bebeに電話した日だよ」


それって先月末じゃ・・・


母が言うには

私にプレゼントが着いたと電話した時には
お昼前で、お昼ごはんを食べるために会社から
戻ってきた父が子犬を見たときは
まだ生きていたという。
そして、お昼ご飯を食べ終わって
父が再び出かける時にはもう息をひき取っていたそうだ。


なんで電話してくれなかったのか聞くと
「お前に電話すると泣いちゃうから
 しばらく電話しなかった」
と言うのだった。

子犬が亡くなってもう
随分日にちがたっていることもあって
死んだと報告を受けた私も
あまり感傷的になることは
なかったが、母の心遣いに
とても暖かい思いやりを感じた。


そして、残された母犬のことをきくと

「しんちゃんが死んだ日は夜もずっと鳴いていたよ」


この話を聞き、目が見えなくても
自分の子供が死んでしまったことが
匂いでわかるものなのだと
とても強い親子愛に私は感動し
泣きそうになったがグッと堪えたのだった。



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