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K/Night
メルヘンへようこそ★
今現在この瞬間に、ちょっとだけ人生のレールが捻じ曲がっちゃっても、それもそれで運命だって、思っちゃおうじゃありませんか。
メルヘンへようこそ★
皆様お早うございます。もしかしたら今日和ですか。それとも今晩和でしょうか。
今年で高校三年生、受験真っ只中である、浅木亜々紗〈アサキ アアサ〉性別♂であります。
えー…取り敢えず、今の現状はと言うと…。
「此処は…いやいやまさか多分恐らくきっと絶対に違う、断じて違う。そう、これは幻で幻覚で蜃気楼なんだよきっと、うん」
現実逃避だって? したくなるんだよ現実逃避。いきなり敬語から何時もの口調に戻るくらいに動揺してるんだって。誰だってなるって、いきなりこんな場所に居たらさ。
だってさ、考えてもみてくれよ。今の今まで一応机に向かって勉学に勤しんで励んでいた受験生が、突如として、こんな森の中の花畑の中央に仁王立ちして、花と焼き菓子(か?これ)とワイン(ちょっ、俺まだ未成年…って俺が飲むわけじゃないか)が入ったカゴ持って、何故か男の俺がスカート穿いて、しかも防災頭巾…いや、この場合は赤頭巾と呼んだ方が正しいのだろう…要は一体全体何故にどうして、こんな…『赤ずきんちゃん』の世界に俺はいるんだっ! しかも俺が赤ずきん?! っていう話なわけで。
「いやいや、もう本気で逃げたい、マジで逃げたい。つーか、まず色々と有り得ない」
夢なら覚めてくれと何度思い、何度願ったことか。頬を抓っても痛いし。どうやら夢じゃないようだし。つーか、この先の展開通りに俺進まなくちゃならない? いや、マジで? 俺喰われるんですか?
「そんなこんなで立ち往生だよコノヤロー」
だって、元の場所に帰る方法が分からないし。先に進むの嫌だし。散々だ。全くもって散々だ。
「いっそこのまま不貞寝でもしてやろうか」
ほら、もしかしたら寝てる内に元の場所に戻れたって事が、あるかもしれないじゃないか。なんて、そんな事を考えてたのがいけないのだろうか。
「な、ななななななななっ…!」
ガーンガーンッ、なんてどっかのRPGみたいな音を出しながら、推測するに自分(というか、赤ずきんちゃん)の家に続いているだろう背景…と言ったらどんなに安心するか…世界がまるできゅうりの輪切りをしているかの如く、一定のリズムで抜け落ちていく。どうして家の方に続いている、なんて推測したかというと、それはまぁ、この状況からして、『赤ずきんちゃん』は家に戻らず、このままおばあさんの家に行くからでして…。
「ちょっ、エグいもん見た! エグいもん! ウサギ、ウサギがっ…ちょっとコレ、童話の世界なのか?!」
可愛い可愛いメルヘン的な真っ白いウサギが、輪切りの餌食になったのを遠目で捉えた俺は、もちろんの事、命の危機を感じた。このままじゃ殺られる。まだ俺は死にたくないのだよ。どっかのドラマみたいに『僕は死にましぇん』とか言ってられる場合じゃないのだよ。というわけで。
「逃げるに限るっ!」
と言っても、要は先に進む、だけなのだが…。
と、言うわけで、嫌々渋々で某おばあさんの家に辿りついた…というか強制的に辿りつかされた(着いたと同時に輪切りは終了。助かった…)ので、一先ず様子でも見ようじゃないかと、只今窓から偵察中。決して視姦ではないので、ここで言っておきます。
「………」
うわぁ、『本当は恐いグ●ム童話』を読むより恐いよ。無残に散らばった服が嫌だ。何があったのか分かるから嫌だ! 無駄にリアルだから嫌だっ!
え、しかもベッド膨らんでない? つーことは、彼は俺待ち? 俺待ちですか?
「行きたくねぇ…」
というか、もう関わりたくない…と思った瞬間、またガーンッ、という心臓麻痺を起こしかねない音が聞こえたので、俺はもう心の準備も出来ないまま、家に入りましたとも。
家の中は…まぁ、絵本とかにあるような、何処かメルヘンチックな木造住宅で、暖炉があってかまどがあって、タンスの引き出しが無残に開けられて、ちょっとダサい寝巻きとかが散らばってて、それでベッドがあって。
「誰だい? 赤ずきんかい?」
いやいや、声に無理があり過ぎるって狼さん。って、テーブルの上に何かない?! ちょっ、いや、俺は何も見てないよっ!
「あ、あはははははっ…ごめんなさい、勝手に入っちゃった★」
って「★」じゃねぇよ俺ぇえええ!
「そうかい、お腹は空いてないかい? ほら、テーブルの上に干しに」
「いえ、結構です。マジで結構です」
そんなもん勧めるな、このケダモノ。
「じゃあワイ」
「それも結構です。というか、帰らしてください」
マジで切実な話、とっとと話しを終わらせたいんですよ、俺。取り敢えず、カゴはテーブルの上に置いて…アレらは見ないように…。
「そんなこと言わないでおくれよ、赤ずきん。ほら、私の傍においでなさいな」
おっと、どうやら強硬手段に出るようだぞ、狼。これで、俺がベッドの脇に行った瞬間、バクンッ、って奴だな。そうはいくか。
「どうしたの? おばあさん。具合が悪くなった? 待ってて、今良い治療方法を思いついたから」
えーと、テーブルからベッドまで約三メートル。まぁどうにかなる距離って事で。
「行くわよーおばあさん」
「え?」
ニッコリ笑って止めをさしてやろうじゃないか。せーの。
「どぉおおおっせぇえええ!」
腹の底から声を出して、いざテーブルからモッコリ膨らんだベッドへダイブ。取り敢えず、踵から着地。グエッ、とか蛙が踏み潰されたような声をBGMに男らしく汗を拭く。母さん、俺はやったよ!
「さて、取り敢えず家を出るか」
俺が爽やかなオーラを出すなんて、何時振りだろうか。恐らく、一日を費やして風呂のカビを落とした時以来じゃないだろうか。と、ここで思考が一旦中断。だって、後ろから殺気が…。
「貴様…」
青筋立てて、肩を怒らせて、鼻息荒く呼吸も荒く、化けの皮が剥がれたというか、おばあさんの寝巻きを脱ぎ捨て、ノシノシと向かってくる狼(ナイトキャップ付き)。おっと、これは本気と書いてマジと読む、生命の危機じゃないですかな?
「さよならっ!」
何事も逃げるが勝ち。というわけで玄関に向かってダッシュする俺。無論の如く、狼は俺を追いかけてくる。
「ちょっ、玄関までこんなに長かったっけ?」
明らかに伸びてるんですけど、部屋が。でも逃げないと未来が手に取るように分かる分、足を止めることは出来ないし。
「こんな俺に似合わないメルヘンな場所でメルヘンじゃない死に方は嫌だ!」
どうにかこうにかで、やっとこさドアノブを掴むに至る。良し、これでどうにかんるんじゃね? って思ったのに…。
「ぎ…ぎゃぁああああっ!」
何で玄関から先が何も無いんだよぉおおおおお!
ドッ、ゴッ…。説明するなら、前者が尻から落ちた音、後者が何か壁みたいなのに頭をぶつけた音。
どうやら、何処かに着陸したらしい…決して俺の体が無事とは言わないが。で、狭いんだけど此処。しかも、体の中央に変な棒状(先端は丸いけど)のものが邪魔して、結構身動きが取れない。それになんか、カチコチ音がするんだけど…。
「さて、子山羊共は何処かな?」
今の声、さっきまでの狼の声じゃん…って子山羊?! もしや…。…。……。あ、俺今精神的にダメージ受けた。頭にフワフワの耳と、尻にプルプル震えてる尻尾があるし。じゃあ、もしかしなくても俺、子山羊って事だよな? 何番目の?
「一匹目見つけ」
うわぁー、目の前で兄弟(ではないけど、実際は)が喰われていく! ってか、マテ、あの喰い方じゃ助からないぞ?! ちょっ、せめて丸呑みにしてあげて!
「さてと、残り一匹は何処かな」
難無く六匹を平らげた狼(又もやそこら中に散らばった衣服が無残だ)は、最後の一匹を探している。と、いう事はどうやら俺が『七匹目』らしい。そして、俺が今居る場所は、時計の中…って随分でかくねぇ?! これ、壁に普通に掛かってる鳩時計とかじゃないよな?! めちゃくちゃ柱時計だよな?! っていうか、狼こっち見てるし! むちゃくちゃ目が合ったし! ばれてるじゃん。もの凄いばれてるじゃん! 意味ないじゃん、ここに隠れてても!
「お母さんだよー。出ておいでー」
こっち見ながらそんなこと言われても、出て行けるわけないだろ! どうするよ俺、どうしちゃうよ俺! まて、考えろ。考えるんだ。嗚呼、ここにラ●フカードがあれば良いのに。
「何処なのかなー? 隠れるのが上手いなー」
うわ、凄い嘘くさっ。こっち見てニヤニヤ笑ってるなよ、腹立つな。でも…どうするかな、この状況。柱時計の中から抜け出して逃げるには、ちょっと無理、というか無謀だろう。抜け出すのに手間取ってる間に食われちまうだろうし。かといって、ここで大人しく食われるのを待つのは断じて拒否したい。むしろ食われる前提は却下だ。と、なれば何かしら行動を起こさなくてはならないわけで。
「…体は、まぁなんとか動く。柱時計は…まぁなんとか動かせそうだ」
取り敢えず、奴の動きを止められれば、どうにかなるんだ。で、この状況で動きを止める方法としては、俺の脳が思いつく限り一つしかないわけで。
「さぁ、観念しろよ? 子山羊ちゃん」
あぁ、もうやる気満々ですか。そうですか。涎なんか垂らして、俺は美味くないですよ。では、俺も実行に移すとしますか。
「何だ? 無駄な抵抗はしない方が楽だぜ?」
ガタン、と少し柱時計が動く。狼は俺の考えに気付いてない。気付かれたら終わりだけど。後、少し…。狼が、柱時計の中を開こうと、手をかける。その時がチャンスだ。
「なっ?!」
グラリと柱時計が傾く。俺の体重と、柱時計の重みで、直ぐに加速がつく。そして、基本四足歩行の動物である、狼がモノを持てるわけがなく(子山羊は軽いから持てただろうけど、コレは重いじゃん)あっけなく時計の下敷きになった。
「ぐえっ」
「うぐっ」
狼は見事に蛙が潰れるが如く、ぺっちゃんこ。俺は柱時計本体が倒れた事で、振り子に腹部を強打される。あぁ、でも助かった。またもや生命の危機を感じたよ。何処がメルヘンだ、メルヘン。
…なーんて、またもやメルヘンらしからぬ考えをしたからか、いきなり床(というか、扉部分)がなくなった。それはもう、魔法の如く、ぽっかりと。さてと…、大きく息を吸って、せーの。
「ぎゃぁああああああ!」
もう、この際体裁とかどうでも良い。格好悪くたって構わない。誰か、落ちてく俺を助けてください。
「なっ…?! 此処は…」
落ちた先、ボフンという、幾分埃っぽくて汗の匂いが目立つ柔らかい所に頭から着地して、痛みに堪えながらも身体を起こすと、其処は見慣れた風景だった。
「お、俺の部屋…!」
着地した場所はベッドの上だったというわけだ。というか、着地したじゃなくて眠りから覚めた? ベッドにいるって事は、きっと俺は寝ていたんだ、そうなんだ。そう信じています、えぇ信じさせてください、じゃないと俺、ストライキ起こすぞ★
「メアリアン、メアリアン?! 何処へ行ったんだい?」
…は? …ぇ? …何? 何今の声。
「嗚呼、間に合わない。このままじゃ女王様に首を切られるぞ!」
……。あぁ、窓の外はとても綺麗な空が広がっているんだね。ボク、今まで気づかなかったよ。
「メアリアン! 私の手袋を取ってきておくれ、メアリアン!」
……。誰か…。
「あぁ、此処に居たのかメアリアン!」
…誰か、俺の平穏平和、至って普通(だったはず)の日常を、俺に今すぐ返してください…。
END
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