「虹の階梯」
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ラマ・ケツン・サンポ+中沢新一 共著 1981/7 平河出版
チベット密教に触れ、中沢新一に触れ、出版物に触れるなら、この「虹の階梯」を外すわけにはいかない。日本における20世紀後期のチベット密教「ブーム」はこの本がもたらした、と言っても過言ではない。この一冊がアカデミズムにもたらした影響ははかりしれないものがあった。中沢にとってもほぼ処女作といっていいようなものだろうし、時には麻原集団の教則本のような変な持ち上げられ方をしてきた。
この本は図書館から借りてきたものではない。私の蔵書として、ほぼ積読になっている本である。私の蔵書は1983年の8月発行のものだ。1977年にインドのOshoのもとに滞在した私は帰国後、瞑想センターなるものをスタートした。農業をまなんだり、病気をしたりしたが、82年には、アメリカのコミューンに向けて仲間達と旅をした。すでにOshoワールドにどっぷりの時代であったといえる。この本の存在も瞑想仲間たちに教えてもらった。
しかし、当時の私はどうして、この本を出版直後にすぐ買わなかったのだろう。もちろん、当時1600円の本は、私にとっては安くはなかった。よほど思い込まないとなかなか買えない。それは分かる。それと、平河出版社というところに、どうも違和感を感じていたところがある。他のめるくまーる社やふみくら書房などというところかOshoの本はでていたけれど、ついに平河出版からはOshoの本はでなかったのではないだろうか。この出版社はいわずとしれた、阿含宗 の
桐山靖雄
の
経営だ。発行者は堤たち、となっているが、堤は桐山の本名、たち、は妻の名前だ。
私はどうもこの辺が素直に好きになれなかった理由だろう。でも、この本の記念碑的価値には抗しがたく、私も一冊もとめさせていただいた、ということになる。この83年当時、いくつかの挫折を繰り返しながら、東京でヨガ教室を始めていたのが麻原だ。この時期、初 めて
「麻原彰晃」
と
名乗っているという。やがて、オウム神仙の会、からオウム真理教となっていくのである。麻原、あるいは麻原集団に結集した青年達は、当時それほど多くなかった精神世界の本の中で、この本に影響された、と発言する者は多い。
私は、どうもオウムという言葉がもったいなくて、この集団のことを、麻原集団といい続けてきた。私にとってのタントラやチベット密教やオウムという言葉は、70年代初めから、とても馴染みのあるものだった。それは、おおえまさのりたちの「オームファンデーション」というグループを通してだっただろうし、サカキナナオや山尾三省の「部族」を通してのものだっただろう。だから、どうも中沢の出現は、私からみていると、ちょっと「遅れてきた青年」的に見えていて、ちょっとこちらは先輩ぶっていたところもあったかもしれない。(笑)
だから、あまりオウムという言葉を使いたくなかったのだが、よく考えてみれば、この「虹の階梯」においてA-U-Mはオームと表記されている。オームとオウムは、もともと同じ音源なのだが、日本語表記になると、現在のところ、この二つは大きく意味が違ってくるようだ。オウムにはよけいな色合いが付きすぎてしまった。ついでにいうと、麻原集団はポア、と言っているが、この本ではポワとなっている。麻原がこの辺を意識して使ったかどうか、間違ったのか、独自性を出すために変えたのか、その辺は定かではないが、よく確かめないで、曖昧なままにしておくのもよくないようだ。
いずれにせよ、この本には「改稿」版もあるし、続編と目される本もある。この本の内容は今あらためて読むと、この基本線はおさえているが、現在では、すでにこれ以上にインパクトの強い本は山ほどでている。最近の中沢の著者紹介では、この本の紹介は省かれていることがおおい。この「虹の階梯」は、中沢がニューアカデミズム・ブームを通って、95年という時代性の激流にもまれながら、 ついに
「芸術人類学」
や
太田光との対談
にいたったことを
考える時、おおいなるメルクマールとして記憶しておかなくてはならない。
ところで今回、検索していて、松岡正剛 が
「千夜千冊」
で中沢について触れていたことに気がついた。この二人、たしかに独特な、伸ばしや、くっつけや
、すり替えなどがお得意だ。しかし、どうも松岡の文を読んでみると、二人の間には大きな距離があるようだ。漫才で言えば、突っ込みと突っ込みでダブル突っ込みでやればいいようなものだが、どうもそうはいかないらしい。確かにこの二人の漫才なら、面白そうではあるけれど、聞いているほうは、どこに落ちがあるのか、分からなくなるかもしれない。この二人は、それぞれにひとり漫才をやらせるか、大ギリで戦わせたほうがいいかも知れない。
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