「注目すべき人々との出会い」
ゲオルギー・イヴァノヴィチ・グルジェフ /星川淳 1981/12 めるくまーる 単行本 405p
Vol.2 No.496 ★★★★☆
その当時、ミシン、自転車、タイプライターといったたぐいの最新の発明は、すさまじいスピードでいたるところに普及しつつあった。こうした品々が熱狂的に注文され、購入されたのだ。ところが、いま述べたような最も簡単な専門的知識の欠如や、地元における修理業者と専門家の不在によって、どこかがほんの少しでもおかしくなると、その品物は役にたたないものとしてしまいこまれてしまったのである。 p334
スズメを捕まえ、羽を切りそろえて色を塗ってはカナリアとして売り飛ばして資金をつくったり、ミシン修理業の話題などは、グルジェフにつきものの「ワーク」の一つだが、あいもかわらず、その生命力の旺盛なことには驚かされる。
ご存じのとおり、ミシンの中には、縫い目を調節するレバーの脇に、送りの方向を変えるレバーがもう一つついているものがある。このレバーを切り替えると、布の方向を変えられるようになっている。くだんのミシンも、誰かが知らずにこのレバーにさわったのは明らかで、布地が前進のかわりに後退するようになってしまったのである。 p335
どっかで聞いたことあるような話だが、やたらとリアルな話が結構つづく。
早い話が、3日でなおすという約束で、私は彼から12ルーブル50コペイカを巻き上げたのである。もちろん彼が店から出るか出ないうちにミシンは動くようになり、番号をふって修理ずみのコーナーに移された。 p336
この本が邦訳されたのが、1981年。グルジェフの紹介は日本ではまだまだ少なかった。
教えの力点が、グルジェフとや対照的な無為、無努力にあるにもかかわらず、中核のところはグルジェフ的な要素が強く、実際にグルジェフ信奉者の多い、インドのラジニーシ・アシュラムで本書を読んだことから始まり、場所をアメリカに移して、版元トライアングル編集局の監督のもと、各章ごとの読み合わせ、日本での下訳完成、ふたたびアメリカで、サンフランシスコ禅センターにおいて道元英訳を進める棚橋一晃氏を監修者に得て、いま一度全文にわたる徹底的なチェックと、作業は紆余曲折を重ねた。 p404「訳者あとがき」
訳者の先見の明とともに、その果たした役割は大きいものがあるが、グルジェフやクリシュナムルティなどが一気に邦訳されるきっかけになったポイントには、Oshoの一連の著作があったことは間違いない。シンクロニシティと言えばそれまでのことではあるが、日本も、東洋の一国という文化圏から、東西の出会いの時代へと突入していったのは、まさにこの時代の周辺だったと言える。
いまで言えば超大河SFじたての 第一集(原本で千ページ以上) が、彼いわく「読者の心になじみのない思考の流れを起こすことにより、何世紀にもわたって人間の頭脳と感覚に根をおろしてきた信条や見解を無情に破壊する」とともに、より雄大かつ精緻な宇宙観に親しませる機能を持っているからである。そのうえで本書「注目すべき人々との出会い」が、「新しい世界の感覚を生み出すに必要な素材」を提供することになっていた。第一集、第二集、そして「人間の思考と感覚の中に、現在知覚している架空の世界ではなく、本物の世界が起こるのを助長する」第三集、「人生は”私が在って”はじめて本物(リアル)である」という読書序列は、いまでも正統的なグル ジェフ・グループの中では遵守されている。
グルジェフにまつわる話は、21世紀の今日聞いても決して古びていないが、この本が訳出されたほぼ30年前の段階から今日に至るまで、まるで時間が止まっているような感じさえするほど、時代感覚を超越している。 「ベルゼバブ」 で破壊され、「注目すべき人々」で素材が提供されたあと、「私が存在して」へとグルジェフ・ワークはつづく。
グルジェフ伝 神話の解剖 2009.01.14
ミルダッドの書<1> ミハイル・ナイーミ 2009.01.13
グルジェフ・ワーク 生涯と思想 2009.01.12 コメント(1)
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