「クラウド化する世界」
<1> ビジネスモデル構築の大転換
ニコラス・G.カー /村上彩 2008/10 翔泳社 単行本 313p 原書
The Big Switch: Rewiring the World, From Edison to Google
2008/1
Vol.2 No.539 ★★★★★
★★★★★
★★★☆☆
日本ではクラウド・コンピューティングと言う単語が流行語化しそうになっているので、この「クラウド化」というタイトルがついているのだろうが、原書のタイトルは「The Big Switch」だ。サブタイトルも「ビジネスモデルの構築の大転換」という日本語版に対して、原書のほうは「Rewiring the World, From Edison to Google」である。一冊の本でも社会の在り方によって、受け取られ方が大きく違う。
クラウド・コンピューティングのクラウドとは雲の上ということであり、いわゆる「ウェブ進化論」の中でいわれた「あっち側」と同義ととらえてもいいのだろう。巨大なスーパーコンピュータに対して登場したパーソナル・コンピューター。一時的に個人の手に渡ったと思われた人類最大の発明コンピュータは、インターネット・ネットワーキングによって、さらに進化した。個人にきわめて身近な存在になりつつ、クラウド化してブラックボックス化し、なお限りなく遠くへ行ってしまうのか。
コンテナとして極度に進化するコンピューティング、集合知として加速度的にインテグラルし続けるコンテンツ。しかし、そこからさらに向こうのコンシャスネスとしてのコンピューティングの真の姿はまだ見えて来たとは言えない。
インターネットは、情報処理機械を接続するだけではない。それは人々をも接続する。インターネットは我々を相互に接続し、我々とコンピュータを接続する。我々の知能はソフトウェアコードやマイクロチップに組み込まれていく。我々がオンライン化するときに、我々はインターネット上のノードとなる。これは単なる比喩ではない。それは、ハイパーリンク構造を反映したものであり、その構造がウェブと、我々がうェウを利用するやり方を最初から規定していたのである。インターネットと、インターネットに接続されたすべての装置は、我々のコマンドに反応するだけの受動的なコンピュータではないあ。それは考えるコンピュータである。たとえ初歩的なものにせよ、我々の考えと要求を積極的に集めて分析する。オンライン上で行う選択を通じて、我々が表明する考えと要求ーそれは、何を行い、どこへ行き、誰と話し、何をアップロードしてダウンロードするか、どのリンクをクリックして、どのリンクを無視するか、ということである。 p260
なにもプログラマーと気負うこともない。我々が日々キーボードからインプットし、アウトプットしている行為自体が、巨大コンピュータを賢くし続けているのだ。
では、私たちの頭脳はどうなるのか。我々がインターネットの巨大な情報倉庫を、自分自身の記憶の延長あるいは代用品としてますます過大に依存するにつれて、我々の思考方法も変化するのだろうか。我々が自分自身を理解し、自分と世界との関係を理解する仕方は変化するのだろうか。我々がより多くの知的情報をウェブに投入するにつれて、我々個人もより知的になるのだろうか、あるいは知性を失うのだろうか。 p271
コンピュータは我々の思考をつないで、スケールやスピードでは遥かに我々を凌駕するだろうが、知性のレベルでは我々を超えていくことはないのではないだろうか。そしていつか、かならず問題になるのが、コンピュータと人間の霊性との比較だ。コンピュータに死という概念はないが、人間にはほぼ唯一の絶対的価値基準としての死がある。
霊性といったりコンシャスネスといったり、スピリチュアリティといったりして、統一感はないが、どれほどコンピューティングがクラウド化しても、越えられないものが、このいわゆるコンシャスネスだ。あるいは、この部分以外は、クラウド・コンピュータがやり遂げてしまうだろう。 この本は、地球上の現状を理解するには役立つが、コンシャスネスについての足がかりになってくれているとは言い難い。
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