BLUE ODYSSEY

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魔法使いのルーナとフーチェ


魔法使いのルーナとフーチェ [act.1]



 1匹の魔王がこの界隈に住む人間達の集落をたびたび襲うようになっていた。
近年になってそれは起こり始めたのだ。

魔王は実は2匹いて、それぞれ人間の街からかなり離れた大きな山の西側と東側に住んでいた。
岩の平らな部分に木材で作られた”家”。そこが魔王の”すみか”だった。
2匹はそれぞれ、別のすみかを持って別々に棲んでいた。人間を襲いに来るのはその内の1匹である。



いままで大勢の人間達がこの魔王を退治しに向かったのだが、全て帰らぬ人となっていた。

そこで、今度は魔法使いが行く事になった。今までは魔法使いでない剣士やアーチャーが行っていたのだ。
今回は魔法使いの少年[ルーナ]と、同じく魔法使いの少女[フーチェ]が、それぞれ西側と東側の魔王のすみかに個別に向かった。
2人は魔法アイテムの『ボム』を持っていた。ボムは爆発する1個のダイヤモンドほど固い石。その力は強力で、きっと魔王を”すみか”ごと吹き飛ばしてしまうだろう。






 ルーナはようやく魔王のすみかと思しき”家”を発見した。
それは人間の家とよく似ていた。デザインは荒っぽいの一言。丸太がそのまま使われている部分も多く存在した。しかし玄関や窓はちゃんと付いていた。
そして中に入ったのだが……、そこは人間の大男が住むのに都合がいい広さの部屋だった。
いろんな魔法の道具が中に置いてあった。
棚や机など簡単な家具らしき物もあり、ほとんど人間の家と変わり無い。
布を干草に巻いただけのベッドもあった。


しかし中はもぬけの殻。魔王はいなかった。

それでルーナはいったんそこから出ようとしたのだが、出られなかった。周りに薄い透明なシールドのような物が張られていたからだ。
それで、ここに閉じ込められてしまった事に気が付いた。

ワナだ。

いろんな魔法を試して脱出を試みたが、ルーナの習得している魔法では脱出できなかった。
それにボムは強力すぎて使えない。使えば自分やこの付近一帯が吹き飛ぶ。




そこに、どこからとも無く魔王の声が響いた。野太い声だった。

魔王「お前の仲間の魔法使いも閉じ込めたぞ!」

ルーナ「なに?!フーチェを?!
やい、魔王!フーチェだけでも解放しろ!」

魔王「はっはっはっ!何をたわけた事を!
私を退治しに来たくせに!
そのすみかは今や魔法が効かぬ結界の中だ。お前達の力ではそこから出る事は出来ない。
死ぬまでそこにいるといい。では、さらばだ。」

魔王はすみかの結界の外にいた。
言いたい事だけ言い終わると、羽を伸ばして大空へと舞い上がった。そして、そのままいずこへと飛び去った。



その魔王のすみかの家には確かに”結界の魔法”がかかっていた。内側からは魔法が掛けれない結界。おそらくこのままだとルーナは一生ここから出る事は出来ない。

「大変だ!フーチェもここと同じような所に閉じ込められている!なんとかしなきゃ!」

フーチェに連絡を取りたいのだが……、何も方法が無かった。
絶望がルーナを襲った。このままだとフーチェとも二度と会えない。







魔法使いのルーナとフーチェ [act.2]


 フクロウが外から飛んで来た。
そして、魔王の”家”の煙突から中に入って来た。

ルーナ「外から来たのか?どうやって結界を越えたんだ?」

そのフクロウが足に挟んできた物は”手紙”だった。
そしてそれはフーチェから出された物だった。


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フーチェ「大丈夫ですか?私も今、捕まっています。」



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彼女もまだ生きているらしい。そして同じように捕まっている。魔王の話は本当だった。

ルーナはフーチェへの返信を書いて、そのフクロウに持たせた。
フクロウは上空へと舞い上がり、そのまま結界の外へ出た。

どうやらこのシールド、”チューリップ”のつぼみのように上に向かって伸びていて、一番てっぺんには穴が開いているようなのだ。そこからフクロウは出入りできた。




彼女からの手紙が来た事で、ルーナは生きる勇気が沸いて来た。

そして、このすみかの中に置かれた数々アイテムを「何か使える物はないものだろうか?」と探し始めた。
食料も無いようなので、やはりここに閉じ込められているとその内死ぬ事になるのは時間の問題だった。




その後、2人の間をフクロウ便は何度となく往復した。

「僕にはまだフーチェがいる!彼女とともにここから出るんだ!」

ルーナはそう決心していた。







 数日経った……。

いろいろ試したが、やはり魔法は何も効かない。
このすみかにはいつくかの魔法書が置いてあり、それは人間と同じ言葉で書かれていた。
魔法書のページにはメモ書きも添えられてあり、どうやらそれは魔王の直筆によるものらしかった。その魔法書を読んだが、人間には唱える事の出来ない魔法ばかりだった。
結界を人間の魔法で破る事はどうやら不可能なようである。

またここには食料は一切見当たらない。
キッチンらしき所に残されたのは”土で出来た土偶”だった。これが魔王の食事?
こんな物、人間には食べられない。

お腹が空いてキリキリ締め付けるような感覚に襲われたが、なんとかそれでもがんばった。
がんばれたのもフーチェからのフクロウ便のおかげだった。




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フーチェ「大丈夫ですか?きっとあなたは助かります。元気を出してください。」



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街にいる魔法使いは自分達2人だけ。
今や街に住む者達は皆怖がって、ここに来ない。一体誰が助けに来てくれるというのだろうか?
しかし、”助かる”と断言してくれる彼女の気持ちはすごく嬉しかった。
本当に勇気付けられた。






魔法使いのルーナとフーチェ [act.3]


フーチェとルーナは同じ年ぐらいだった。魔法使いはあの街には2人しかいなかったので、自然と仲が良くなった。

そして2人でよくいっしょに学び、遊んだ。

2人の関係?

なんだろうか?

友だちではある。

では恋人?

そんな気持ちをお互い持っているのだろうか?

確かめた事も無い。そんな会話もしなかった。

それに2人は今までフクロウ便で手紙をやり取りした事は無かった。




手紙というものは普段は話さないような奥深い会話が時として出来るものである。







それからフクロウ便の手紙は頻繁にやり取りされた。6時間置きぐらい。
しかし、フクロウ便の到着が遅れると、ルーナはとたんに気が重くなった。

でも、この瞬間、彼女もどこかで生きていると思うと、がんばる気になれた。
「彼女がこんなに自分の大切な人だったなんて」と始めて気付かされた。






時間が経ってお腹が減って来ると、何かしてなくては落ち着かないようになって来た。
自分を誤魔化し続けなければいけない。イライラが募る。
彼女からのフクロウ便は遅れている。いや、届かなくなった。そう丸1日。

ルーナ「フーチェはどうしたんだ?」

手紙が来ないと目の前が真っ暗になり、暗黒が訪れたような感覚に陥る。周りが何も見えない。
彼女からのフクロウ便がどれたけ大きな生きる希望を与えてくれていたか実感した。

その後、ルーナはお腹が空いて立っていられなくなり、魔王が使っていた大きなベッドに身を横たえた。そのシーツからは土の匂いがしたが、そんな事今はどうでもよかった。






突然脳裏にフーチェが自分と同じようにベッドに身を横たえている姿が映し出された。
彼女はとても苦しそうだった。
まだ生きているようだが……、このままでは死んでしまうかも知れ無い。

ルーナ「そうだ!僕はまだがんばらなくては!」

ルーナはそう思い立った!

そして手紙を書き始めた。フクロウが帰って来ていないのに。

「僕はフーチェにはぜひ話しておかなくてはならない事がたくさんあった!」

そう思うといてもたってもいられなくなった。
持って来た羊皮紙の紙と羽ペンをはいているズボンの腰の布袋から取り出した。
そして、フーチェへの想いを書き綴った。



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「今こそ、君を大切に思います。

君がいないと駄目なのが良くわかりました。君は僕の生きがいです。

お願いフーチェ、元気になって。

そして、いっしょに家に帰りましょう。」





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もう立ち上がるのもままならないが、何とかベットの上で書き綴った。

しかしフクロウが帰って来ないので手紙は届けられない。
それでもルーナは書き綴った。
しまいには紙が無くなって、持って来た地図の裏まで使った。





ルーナはその部屋に置いてあった魔王の水晶球の中にフーチェの姿が写っているのを発見した。
最後の力を振り絞って立ち上がり、その水晶球の所まで歩いて行った。

その中に映ったフーチェは自分と同じような魔王のすみかの中にいて、その床の上に倒れていた。
そして横にはフクロウ便を届けてくれたフクロウも倒れてた。どうもフクロウも食べ物が無くて……、すでに死んでいるようだった。

そして彼女の周りには紙切れが散らばっていた。なんと、フーチェも同じように何枚も手紙を書いていたのだ。
届かぬと知っていながら。

ルーナは泣いた。そして何とか彼女だけでも救いたいと願った。
でも、彼女は死んでいるのか、生きているのかさえわからなかった。





ルーナはそのすみかの中で大声で叫んだ。

「魔王!僕の命と引き換えにフーチェを助けてくれ!」

無駄かも知れないがそう叫んだ!

すると……、信じられない事に魔王がすぐさまこのすみかに戻って来た。
羽ばたいて来た大きな羽を背中に閉じた。

しかし、それは最初に見た魔王とはいくぶん違って見えた。
身体が赤くてスマート。どうもそれは”女”の魔王のようだ。

魔王「お前、本当にあの子を助けたいのかい?」

ルーナ「ああ、そうだ!代わりに僕の命をやろう!」

魔王「じゃあ、今後いっさい私達を襲わないと誓うかい?」

ルーナは考えた。
そもそも魔王を退治する為にここに来ている。退治しないと街の人間が襲われる。
しかし、フーチェの命には代えられない。少なくとも今は。
それで、ルーナはその件を承諾した。

魔王「約束を破ったらしょうちしないよ」

ルーナ「……わかった。」

女と思しき魔王はルーナにフーチェを返してくれた。
そして空を飛んで、2人を自分達の住む街の近くの森の中に送り届けてくれた。この森の中なら、おいそれと街の人間には見つからない。
フーチェはかなり弱っていたが、まだ息があった。いまならまだ間にあう。回復するだろう。

ルーナ「どうして助けてくれたんですか?」

魔王「……私ともう一匹の魔王は”つがい”なのさ。
ここ何年もケンカをして、今は別居生活さ。だから”家”が2つある。
もうお互い口を聞くのも嫌なんだよ。
だから、ダンナのやつはすねて人間界を襲っていた。

だが、まあ今回はお前達2人に”手紙”というやり方を教えてもらった。
それなら私にも書ける。
お前達の書いた文章を真似て、ダンナに送ってみる。

お前達の手紙には泣かされた。
手紙にあんな力があるとは知らなかったからね。教えられたよ。

きっとこれで私達もいい方向に向かうだろう。」








THE END






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