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アオイネイロ
疾風と颯
酷く焦ったような声がかかったかと思うと、籟琉の体が強く押された。
「はや……っ」
地面に手をついて振り返った籟琉が見たのは、魔物(モンスター)の攻撃をもろに受けて倒れ込む疾風の姿だった。
「疾風っ!」
「ちっ、一旦引くよッ!」
紅亜が魔物へ向けて矢を放ち、魔物の気を逸らせるとそう叫んで疾風を軽々と持ち上げる。
「え、軽々……?」
「バカっ、重力遮断だ!」
ぽかんとして呟いた時歌に、葵がそう叫んで走り出す。
「は、早く逃げようぉよっ」
「ライ、大丈夫?」
「う、ぅん……」
沙ゞがぼうっとしている籟琉に駆け寄ってその手を引くと、籟琉ははっとしたように走り出した。
*
「何とか逃げ切れたね」
しんとした森の中で、天音がほっとしたように息をついてそう言った。
「疾風は……?」
「ん、気絶してるケド呼吸は通常。多分大丈夫だね」
籟琉が小さな声でそう問いかけたのに、紅亜が疾風を地面に下ろしながらそう答える。
「そ、そっか」
ほっとしたように息をついた籟琉が、眠っている疾風をじっと見つめた。
「もう日も暮れてきたので、夕餉の支度を致しましょう。疾風が何時起きても良い様に……」
「そうですね」
蜻羅の言葉に、凜がにっこりと笑って頷いた。
「じゃあ、ウチ等が食料探してくるよ」
「私野宿の準備するねー♪」
葵の言葉に、時歌が笑顔でそう言う。
「あ、なら私も……」
「籟琉しゃんは疾風の傍にいてくだしゃいな」
慌てたように立ち上がろうとする籟琉を、るかがやんわりと止める。
「……ありがと」
ぽつり、そう言った籟琉が疾風へと近づいて傍にちょこんと座った。
*
食事の支度もできて、皆がパチパチと爆ぜる火を囲んでも、疾風は目を覚まさなかった。
ひたすらに静かな空気の中、それと同じように静かに眠っている。
重苦しい雰囲気が続く中で皆が黙々と食事を済ませている最中だった。
「…………?」
「あっ! 疾風、気がついた? よかった」
ゆっくりと起き上った疾風に、籟琉がすかさず駆け寄ってそう声をかけた。
しかし疾風は不可解そうな表情をして一言、呟くように問いかける。
「貴様……誰だ?」
「え………?」
「ちょ、疾風! アンタ何言ってるの!?」
疾風の言葉に呆然とする籟琉を見ながら、紅亜が慌てたようにそう言う。
「ハヤ、テ? それは俺の事か?」
その言葉に、その場にいた全員が固まった。
「う、そ……何で……」
籟琉が掠れた声でそう呟いて、その場にへたり込む。
「ら、ライ! 大丈夫?」
沙ゞが慌てて籟琉の傍に駆け寄ってそう尋ねると、籟琉は小さく何度か頷いた。
「まさか、記憶が……?」
「フン。何故俺が此処に居るか知らんが、貴様等は何だ? 何故俺と共に居る?」
唖然としている皆をせせ笑うようにそう言って、疾風はその場に座った。
「何故……?」
「っ………」
返すに返せず、皆が言葉に詰まる。
それをどう取ったか、疾風はその場にごろりと横になった。
「如何でも良い事か。所詮俺には関係無い」
「はや……」
そんな疾風に籟が恐る恐る近付こうとした瞬間、
疾風がばっと起き上ると籟琉の喉元にピタリと大剣を当てた。
「それ以上俺に近付くな。………殺すぞ」
長くかかった前髪から覗く鋭い眼が、動けないでいる籟琉を射抜く。
「な、んで……」
「は?」
震える声で問いかけた籟琉の言葉に、疾風が眉を顰めて聞き返した。
「疾風っ、幾らなんでも籟琉に剣を向けるのは……っ」
「ハヤテ? ああ、俺の名か? 随分と洒落た名だな。俺は近付くなと言っただけだ、貴様にとやかく言われる筋合いは無い」
天音の言葉に、大剣を消した疾風が薄ら笑いでそう返す。
「どうして近付いてはいけないんですか?」
「気分が悪い。特にニンゲンに傍に寄られるとな」
凜の問いかけに、疾風が吐き捨てるようにそう言った。
「籟琉……」
「分かった。近付かないから、勝手にどこかに行かないで」
心配そうに籟琉に声をかける苺夢に対し、籟琉は俯いたまま静かにそう言う。
「何故俺が……」
「お願い」
文句を言いかけた疾風に、籟琉がはっきりとした声でそう告げた。
疾風は少し黙りこんだ後に何も言わずそっぽを向く。
「疾風」
「分かった。だから早く食事でも何でも再開しろ。俺にあまり構うな」
尚も声をかけてくる籟琉に、疾風はそっぽを向いたまま面倒そうにそっけなくそう言った。
「ありがとう、疾風」
「………」
小さく礼を述べた籟琉が静かな表情のまま振り返ると食事を再開し出す。
「え、ライ!?」
「何、沙ゞ」
慌てたように声をかけてきた沙ゞにも、籟琉は静かに返した。
「……いいの?」
「うん。疾風を元に戻す方法を早く探さなきゃ」
躊躇いがちに問いかけてきた沙ゞに、籟琉は凛とした顔立ちで前を見据えたままそう言った。
その日疾風は木に寄りかかったまま目を瞑っていて、夜の番は千歳が名乗り出た。
「でしたら私も一緒に」
「いい、の。せーらたちは、ねて……て。ちとせ、ひとりでも……だいじょーぶ。ちゃんと、できる……よ?」
言いかけた蜻羅や凜にふるふると首を横に振って、千歳が一生懸命にそう言い募る。
「いいんじゃない? 千歳だってそこまで子供じゃないんだし」
それに同意したのは紅亜だった。
外見も口調も幼子のような千歳は他者からものを頼まれることが少ない。
折角本人が言いだしたのだから今日くらいいいだろうと、紅亜の金の瞳が語っていた。
「そう、ですね。じゃあ千歳ちゃん、よろしくおねがいしますね」
凜がにっこりと笑って言うのに、千歳もこっくりと頷いた。
「ちとせ……がん、ばる」
唇を引き締めた千歳が、そう言って近くの切り株にちょこんと腰かける。
それを見て、皆は時歌が容易していた寝袋へと潜り込んだ。
「なにこれ! すっごいふわふわ」
「でしょでしょー♪ この前村で買った持ち歩き用の超寝心地バツグンな寝袋!」
「ボクと時歌で買ったんだぁ~。天音達の分もちゃんとあるんだよぉ」
時歌と苺夢が楽しそうにそう言う。
「モチ疾風の分もあるからっ! 寝袋じゃなくて毛布にもなるのだよ☆」
時歌が寝袋から這い出てきて、毛布になった状態のものを疾風へと投げる。
「……貴様のその騒がしいテンション、知り合いに似ている」
毛布を受け取って膝にかけた疾風が、ぼそりとそう呟いた。
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