書評日記  パペッティア通信

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Feb 1, 2006
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カテゴリ: 経済


一匹の妖怪が日本を徘徊している。
ニートという妖怪が。
日本のあらゆる階層・メディアが、この妖怪征伐のための神聖同盟をつくろうと結託している。新聞から雑誌週刊誌、官僚から著述業、高年齢層から女子高生にいたるまで。


……
……

失礼しました。

おもわず、『共産主義宣言』の冒頭をパクってしまった。あながち、パクっても遜色なく通用するほど、「ニート」なる用語を安易に使う人々への、彼ら3名の糾弾は鋭いものがあるのです。この本は、ニート問題を考える上で、格好の入門書になっています。

それぞれ3つに分けて要約しておきましょう。

本田由紀執筆部分は、通俗「ニート」概念がいかに曖昧かつ不適切で、 社会政策を進める上では有害無益な概念 であるか、白日の下に暴いてくれていて読み応え抜群!  そもそも「学生でもなく働いてもいない若者」と定義される ニートは 、2種類にわけられるが、その内「今働くことを希望していない」ものは、 昔から人口の100人中一人前後は存在し、ほとんど増えていない らしい。もう一つの「働くことを希望しながら求職活動しない」ニートは、近年こそ増えているものの、意識や存在形態が失業者ときわめて近く、あきらかに産業構造と不景気のせいであるという。この2種のニートは、進学・資格取得準備、病気・怪我治療、結婚準備など、その存在形態は極めて多様であるらしい。なによりも、圧倒的に増えているのは、求職型失業者とフリーター。つまり 「ニート」なる概念は、本来、労働需要側、マクロ経済における失政を「個人の意識」の持ち様にスリカエるための概念 「引きこもり」がつきつける社会問題を矮小化させてしまう それは、「非求職ニート」「求職者層(=失業者)」「フリーター」といった雇用不安定層を分断して、総合的な社会政策を取れなくさせる弊害 さえもたらしているという。不景気、団塊・団塊ジュニアの存在、「会社を辞めない女性」。この構造3点セットこそ、学校経由就職ルートの機能不全と、フリーターから正社員になれない雇用不安定問題を発生させている!! 高等教育を専門化させて、それを起点とした柔軟なキャリア展開を可能にするシステムの構築を!!!。 「ニート」なる概念が、予算を獲得するための「ニート利権」に変貌 している様子には、正直、有権者として憤りを禁じえません。

内藤朝雄執筆部分では、 「ニート」なる概念が、「パラサイト」「引きこもり」の延長にある、「キレる若者」にみられる「青少年叩き」のヒット商品 にすぎないことが赤裸々に示される。2004年、玄田有史と小杉礼子によって始められ一世を風靡したニート概念は、神戸小学生殺傷事件以来の「青少年叩き」の一つに成りさがってしまった。むしろ 青少年犯罪は減少 していて、凶悪化していない。「ネット社会の到来」「ヴァーチャルと現実の区別がつかない」「少子化」「自然から離れた弊害」………「ニート」なる概念は、大人しい青少年を悪者に仕立てるための2つの手法、「凶悪化」言説と「情けなさ系」言説の共通のリソースとして、これらの手垢にまみれら数々の言説とともに、 言いがかりの道具 として使われているという。不全感をかかえる老人たちは、不安感や不気味な感覚を若者に投影して、「教育」なる儀式で不安感を沈めようとする。そのため、 経済・福祉・法で解決すべき問題が、「教育」と「心」の問題にスリカエられ「幻想的な解決」をもたらす結果、きちんとした社会政策が展開されなくなってしまう 。これは、マルクスのいう「宗教はアヘン」ならぬ、「教育こそアヘン」の事態の出現に他ならない。一昔前までは、「兄弟の多さ」による放任が犯罪環境因にあげられ、今では「少子化」による過保護が犯罪環境因にあげられているらしい。識者が如何にいい加減か、これだけで分かるというものでしょう。リベラリズムにのっとった社会設計が、落ちついた独特の語り口で唱えられるのは心地よい。 

後藤和智執筆部分では、 社会的責任から逃避 しているに等しいニートなる言説が、メディアにおいてどのように変遷していったのかがのべられていて面白い。「ニート」なる言説は、アカデミズムにおける発信 当初から「心」の色彩を帯びていて、今では提唱者さえ「若者叩き」に加担・堕落 しているらしい。もともと、社会構造や就労問題を矮小化しがちで、「人間関係が苦手」「コミュニケーション能力が低い」「やりたいことを見つけたい症候群」など、若者側に責任を着せがちであったニート概念。それが、どんどん青少年心理や育て方の問題にされてゆき、はては求職活動をしてもなかなか職にありつけず、求職意思を失いかけている人間までも、「個人の努力」や「自己責任論」に回収する言説がメディアで横行しているという。 読売関連メディアなどでは、ニートに対する憎悪を煽り、危険視するような言説さえ出現 しているらしい。投書欄でも、高年齢層はニートを道徳問題として語り、低年齢層にも職業・雇用構造の問題としてニートを捉える視点は少ない。人間力を育てることを名目に、プチ徴兵制のようなプログラムが公然と立案されるどころか、セックスレス夫婦がニートになぞらえられ、「ニート主婦」(猪瀬直樹)「家族ごとニート」など珍概念まで頻出。もはや、こんなニート狂想曲の狂態には笑うしかない。

ニートという言葉で現状を語りたいなら、
この書の論点に反駁しない限り嘲笑の対象にすぎないことを覚悟せよ!




後藤執筆部分となると、東北大学の3年生に書かせたということもあるのだろうが、特に週刊誌と新聞読者欄の分析が甘すぎて読むにたえない。なぜ、『サンデー毎日』『AERA』『読売Weekly』という新聞週刊誌が取りあげられ、週刊・月刊『文春』『現代』、週刊『新潮』『ポスト』…非新聞社系オヤジ雑誌がとりあげられていないのか。この線引きについて、何ひとつ断りがない。そもそも、女性週刊誌がとりあげられていないのは何故なのか。婦女子雑誌に展開された「ニート論」は、必要ないとでもいうのだろうか。新聞の読者投稿欄分析にいたっては噴飯物。朝日新聞データベースしか手に入らないから朝日だけ… どうやら東北大学は、読売・毎日新聞縮刷版のない、3流大学らしい 。2年分、ページを繰って、メモをとればいいだけの話だろう。ニートの文字が使われた32件の読者投稿だけでは、51件しかないことを批判された小杉礼子の面接調査よりタチが悪かろう。根拠の乏しいニート言説分析になりかかっているのが惜しまれる。


評価は、本田執筆部分が星3つ半以上、内藤執筆部分が星3つ、後藤執筆部分が2つ半、平均で星3つ以上といった塩梅でしょうかね。ニートを考えたい、ニートに興味がある、という方は、ぜひ一度、御覧ください。



評価 ★★★
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Last updated  Apr 4, 2006 08:50:43 PM
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