File11~

困ったちゃんFile 11 (2003年2月7日の日記とほぼ同内容)
 午後の診療もほぼ終わりかけていた時である。50代と思しき男性 T が来院した。初来院かどうかを尋ねても、ぶっきらぼうに、どっちとも取れない返事をする。無愛想に保険証を差し出してきたが、苗字は読めても名前が読めない。こういう輩は、間違った読みをすると激怒するのだ。
「すいません、お名前はなんとお読みしたら宜しいんでしょうか?」
「・・・見た通りやないか」
「分かりませんので・・・」
「××や!」
「はい、分かりました」
 コンピュータで調べると、やはり初来院である。となると、問診票を書いてもらわねばならない。
「Tさん、恐れ入りますが、こちらにご記入お願い致します」
 むすーっと鉛筆と紙を受け取る。ところがこのT、名前を書いただけで、いきなりそれを放り投げたのだ。
「保険証、返せ! もう他所へ行く!!」
 なんだ、こやつは・・・?
 保険証は写しを取るため、コピー機のある2階にリフトで上げていた。2階に内線で伝える。
「今の保険証、下ろして」
 電話を受けた婦長は、わけが分からない(当たり前)。
「え? 下ろすの?」
「ええから、下ろして」
 横でTが騒ぐ。
「早よせえや!!」
 うるさいなぁ、ったく・・・。側にいた後輩と同僚は、かなり引いている。保険証が下りてきたので、無表情で返した。
「はい、どうぞ」
 すると、Tが私を睨みつけて叫んだ。
「殺すぞ!!!」
 ・・・・・やれよ。
 なぁんて、内心思っていたのだが、口には出せない受付稼業。
「はい~、ど~も、すいませ~ん」
 相手にせず、小馬鹿にするような返事をして、頭を下げた。Tが医院を出て行く。ちっともビビらないので、さぞかし不満だっただろう。
 待合室には母子2人連れがいたが、その子がお母さんに話し掛ける。
「あのおっちゃん、どうしたん?」
「大人の癖に、ちゃんとでけへん人やねん」
「ふうん・・・」
 後輩は唖然とし、同僚は怒り狂っている。
「なんやねん、あいつ! ビデオカメラセットして、一部始終撮って訴えてやりたいわ!」
 でも、だんだん3人とも笑いが漏れてきた。
「よっぽど問診票書くのが、嫌やったんちゃう?」
「Nishikoちゃんの応対、拍手喝采ものやったわ!」
「あんなん相手にするなんて、時間の無駄やん。問診票書かなくていい病院があったら、教えてほしいよね」
「あんな患者、他所に行ってくれて良かったわ」
 久しぶりに、どうしようもない阿呆を見た気分だ。こんな人間が社会で生きていけるんだから、世の中、随分寛容なんだなぁ・・・。
 因みにドクター、最初から最後まで診察室の中で知らんぷり。何があったかも聞いてこない。この男も、別の意味でちょっと問題(笑)


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