ブドウ畑の空に乾杯

ブドウ畑の空に乾杯

January 27, 2007
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カテゴリ: タダの日記
伊東駅に着いて私たちが最初にしたのは、コンビニエンスストアを探すことだった。目的といえばコンドームを買うことだ。温泉旅行で快楽を追求しないのはあまりにも馬鹿げているが、その結果子供を授ろうとは彼も私も思っていない。しかし、日本ではタダでたくさんのティッシュはくれるけれどもコンドームはくれない。アメリカでは買わずともどこかでもらえることも多いので、すっかり買わねばならぬことを忘れていたのだ。辺りを見回したところ、それらしいのは駅の脇にある小さなキオスクで、もちろんそんな所で避妊具を売っている筈もなかった。荷物を抱えて宿へ向かって歩くと、途中にスーパーマーケットがあったが、そこでも目当てのものは見つからないのでビールを4本ほど買っただけだった。

仕方なしに、宿へ着いてから外へ散歩へ出かけた。旅館の番頭は「いやぁ、今日はいいお天気で。何よりですね。」と声を張り上げた。ちょっと歩くと薬局がはす向かいに2軒あったので、あまりにも古ぼけた方を避けて小ぎれいな方を選ぶ。確かな根拠はないが、棚に長いこと置かれたままで埃をかぶっているであろうゴム製品を、信頼する気になれなかったのだ。小ぎれいな薬局のカウンターに立っていたのは、美しい中年の女性だった。白衣を着て肩ほどまで伸びた黒髪に品のいいパーマをあてている。どうやら近所の住人らしい常連と世間話などしている。常連は私たちが店内へ入るとすぐに、じゃあお客さんがいらしたから、といって立ち去った。

「すみません、コンドームありますか。」と聞いた。ありますよ。明るい笑顔そのままで白衣の女性は答えた。でも、一種類しかないんですけど…もう一つは在庫をきらしてしまったので、選べないですけどいいですか?と女性は申し訳なさそうに、箱を取ってカウンターに置いた。一種類しかないというのは要するにサイズの問題である。どうするのか。これでいいのか。いいのだ。と、いうことになり、彼がお金を払った。白衣の女性がとても明るく溌剌としていたので有難かった。今日は風が強くて外の看板が飛ばされそうになったんですよ、などという会話もしたように思う。紙袋を渡され帰ろうとした我々の背中に向かって、彼女はいつもの癖で「お大事にどうぞ」と言った後、「…あっ、違った。」と慌てて両手で口を押さえた。確かにお大事にと言うのはおかしいではないか。怪我をしたわけでもなければ病気になったわけでもないのだから。私たちは振り返って笑いあって「じゃあ、ラブラブにどうぞ、ということで。」と返すと、かわいらしい笑顔に戻ってラブラブにどうぞ、と言ってくれた。

遠回りして海沿いを歩き、写真を何枚か撮って宿に戻るとまた同じ番頭が「いやぁ、いいお天気で。何よりですね。」と、さっきと同じことを繰り返した。それしか言うことがないのだろうか。まあそれでもいいだろう。怠惰になるための旅には、常にいいお天気というものが必要なのだ。何度言われても悪い気はしない。買い物を済ませて安心した私たちは、食事の前に一先ず風呂に入ることにした。






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Last updated  March 5, 2007 02:58:11 PM


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